大阪府・堺市を拠点として活動する日本製鉄堺ブレイザーズは、2004年から福岡県・北九州市、そして2015年からは和歌山県・和歌山市に活動拠点を拡大しホームゲームを開催している。この秋からスタートしたSVリーグではホームゲームをより充実させていこうと計画中だ。
事業部のシニアマネジャーとして演出を担当する大森大氏は語る。
「チームカラーである黄色をホームゲームでさらに浸透させるため、昨シーズンからサポーターズクラブ会員の特典として黄色のベースボールシャツやTシャツなどをお贈りしています。ほとんどのカテゴリーの会員様に黄色のウェアをお渡しすることができて、会場を黄色でいっぱいにするという目標は叶いつつありますね」
サポーターズクラブ会員が黄色を身に着けやすいよう、今シーズンも引き続き配布や販売などで需要に応えていく予定である。
そして新たな試みも――。
ホームゲームを行う大浜だいしんアリーナ(堺市立大浜体育館)前のカフェとコラボレーションし、オリジナルフードメニューを開発する計画も進んでいる。今後は堺駅から大浜だいしんアリーナ周辺の飲食店舗まで広げて、オリジナルメニューの提供ができるように動いているところだとか。
「ブレイザーズの試合がない日にもサポーターの方々にチームにまつわるメニューを楽しんでいただけるような企画を考えています。アリーナの周りの地域の方にもっと応援していただきたいという思いからですね」(大森氏)
堺駅周辺に設置するノボリやポスター掲示などは今後も継続し、ホームゲームを行う地元・堺市での認知をさらにアップしたいと考えている。
もともとブレイザーズは北区にある金岡公園体育館をホームとしていたが、2021年、旧大浜体育館のリニューアルに伴い、新たに使用することが決まった。そこにはブレイザーズが発足以来、こつこつと築いてきた縁が関わっている。
ブレイザーズスポーツクラブ創設直後から在籍している清川健一専門部長は振り返る。
「以前は金岡公園体育館一択だったのですが、そこへ大浜体育館のリニューアル計画の話が飛び込んできました。バレーボール教室などで堺市のスポーツ振興担当職員の皆さんとご縁を作っていたおかげで、ヒアリングの機会を得ることができました。バレーボール競技にとっても見やすい、使いやすい仕様にと設計の段階から意見を聞いてくれました。おかげでさまざまな演出にも困らない設備となったと思います」
当時の金岡公園体育館は照明に水銀灯を使用しており、暗転する演出を試そうとしてもスイッチを入れてから完全に点灯するまでに数十分かかるという弱点があった。そこで大浜体育館リニューアルの際にはLEDを使用し、客席も今後、リーグの取り決めに合わせて観客が増えても耐えられるようキャパシティも考慮した。
清川専門部長は続ける。
「収容人数と同時にコートの広さや観客席までの距離など、今後、バレーボールの興行を行う前提での設計を施設に反映していただきました。今、思えばよくぞ計画の段階でうちにヒアリングしてくれたと思っています。良好な関係を築いてくれていたうちの担当スタッフの努力のおかげです」
発足以来、地道に地元で認知度を高めてきた成果だった。
ブレイザーズは2000年に地域密着型スポーツクラブへと移行し、リーグのチームの中でもいち早くホームゲームを開催した歴史を持つ。2003年には試験的ではあったが、チームが単体で主催する初めてのホームゲームを開催。成功例を作った。チーム自体が興行を行って収益化することの重要性を周囲に説いてきたトップランナーだ。
清川専門部長は言う。
「私が入社した当時は、国際大会であってもスタンドには空席が目立ち、先にプロ化したJリーグなどの華やかなプロスポーツが優勢の時代でした。『バレーボールの会場にもたくさんのお客さんが入ってほしい』というのが当時のバレーボール関係者の願いだったと記憶しています。大同生命 SVリーグの開幕に当たり『やっとここまで来たのだな』という思いはありますね」
ただし現在のブレイザーズには課題も多い。観客動員数の減少だ。
「新型コロナウイルス感染症の影響で、あの数年間は会場に来ていただいて応援するという関係性は完全に切れてしまいました」(清川専門部長)
何か大きな改革をしなければ、去ってしまったサポーターは戻らない。社内でも危機感があった。お客様を呼び戻すためのテコ入れの第一段階として、2022-23シーズンはこれまでの応援スタイルを一新することを、そして2023-24シーズンには試合会場の演出にこだわりエンターテイメント空間の創出にチャレンジした。
Bリーグでの確かな実績を持つ方々に演出チームに加わってもらったのも、そのためだ。
「昨シーズンの終盤のホームゲームでは会場は満員御礼。音と光の演出による空間を体感し、涙が出るぐらい感動しましたね。『ここまでできたんだ』という手応えをスタッフ一同得ることはできました。今シーズンはそれを更新できると思っています」(清川専門部長)
2022-23シーズン、それまでと応援スタイルを一新した。「BOOM!! BOOM!!」、「MONSTER BLOCK」、「ACE!! ACE!!」という単語が、聞き覚えのある音楽とともに場内に流れる。それぞれ決まったジェスチャーがあり、観客も一緒に手を掲げたり、振ったりする。日本代表が試合を行う、国際バレーボール連盟(FIVB)主催の国際大会で馴染の深い演出を取り入れたのだ。
「まず2022-23シーズンは世界大会の経験もあるスポーツDJに依頼し、コロナ禍ということもあって声を出さずに手拍子で盛り上がれる曲を選びました。その翌シーズン、声出しが可能になってからは『クラップしやすい曲を入れてほしい』など、クラブからのさらなる要望を伝えてきました。今シーズンも同じDJが選曲を担当します。選曲については、徐々にお客様の人数も増えてきていますので、そういった状況も見てどんどん変えていく予定です」
新たな試みとして今シーズンはクラブ独自のダンスチアパフォーマンスチームを立ち上げた。オーディションではチアリーディング部門、ダンス部門、2種類のパフォーマンスを課題とし、どちらにも精通したパフォーマーを8名選出。Bリーグでチアの経験を持つ振付師と、ダンス専門の振付師2名に、クラブからオリジナルの振り付けを依頼している。
「試合前に会場のボルテージを上げるためにはロック調の曲でダンスパフォーマンスを。試合が始まったらチアリーディングの要素を取り入れた振り付けで会場の観客と一緒に応援するイメージです。ダンスとチア、どちらも兼ね備えたパフォーマンスを取り入れたいと考えて、今回のダンスチアパフォーマンスチームを結成しました」(大森氏)
このダンスチアパフォーマンスチームはすでにお披露目され、観客とともにゲームを盛り上げている。
ホームゲームの数が増える、イコール、リピーターをいかに増やすかが鍵を握ってくるが、ブレイザーズスポーツクラブはどのように考えているのだろうか。大森氏は言う。
「どのスポーツにも通じることですが、試合観戦をして思うのは、試合をしているチームの応援の一体感は素晴らしいなということです。私はずっと野球が好きで、プロ野球を見に行く機会が多かった。見るときは内野席よりも外野席での応援が楽しくて、ずっと通い続けたのではないかと感じています。応援歌を覚えて一緒に歌うなど、普段は出さないような大きな声を出せば非日常感と一体感を味わえます。もちろんチームが勝つことが一番なのですが、勝敗以上に応援の楽しさを体感することでリピーターになりました」
「応援という部分では、コロナ禍で声出しができなくなってしまい、拍手と音楽でいかに盛り上げるかということをずっと考えてきました。やっと昨シーズンから声出し応援が増え、会場にいる皆が『この音楽がかかったらこの応援をする』とわかってくださるようになりました。それを定着させれば、試合の勝ち負け以上に会場で見る価値というものを見出してもらえるのではないかと考えています」
なおかつ昨シーズン、足を運んだお客様が感じたことを、どうフィードバックしていくのかも大切になる。
「サポーターの方からよく比較されるのは同じ関西をホームとしているサントリーさんやブルテオンさんなのですが、動員でも強敵である2チームと違う特色を出していくことも考えていきたいですね」(大森氏)
2000年代前半、バレーボール界に様々な改革をもたらしたブレイザーズは、新時代を迎えてこれからどんな道を進むのか。チーム名の由来である『燃える炎』のように、熱を絶やさずに邁進する姿に期待したい。