ネーションズリーグの決勝ラウンドではスタメンとして出場した大塚達宣 ©Volleyball World

 この3年間、大塚達宣はぶれなかった。どんな立場に置かれようとも、どんなシチュエーションであっても、自分のやるべきことをやる。それだけだった。

 日本代表にはアンダーエイジカテゴリーから選ばれ、そこではどの世代でもチームのエースを張ってきた大塚。やがて2020年にシニア代表に初めて登録されると、翌年には東京2020五輪へ初出場を果たした。

 とはいえ、である。日本代表のアウトサイドヒッターには世界で指折りのエースである石川祐希が、その対角に年齢は大塚の一つ下とはいえ、こちらも攻守で非凡な才能を携える髙橋藍が入る。当然、この2人だけでなく、日本代表に登録される面々はいずれもハイレベル。コートに、それもスタメンで立つのは容易ではなかった。

 東京2020五輪の翌年、パリ大会に向けて新たなサイクルが始まり、引き続きチームは石川と髙橋をエース対角に据えた。一方で大塚は国際大会においてリザーブに回った。そして、その起用法は多岐に渡った。ときにはリリーフサーバー、ときにはオポジット、試合によっては先発起用も。そうした状況について、大塚はこのように語っていた。2022年7月のネーションズリーグでスタメン出場を果たし、勝利に貢献した試合後の言葉だ。

「スタメンと言われると緊張はしますね。ですが、スタメンのほうが比較的余裕を持ってプレーができるというか…。リザーブだとほんとうに1点に懸ける、一発勝負になることが多いので。なるべく自分の中で波をつくりたくないのですが、スタメンだとプレー時間が長い分、多少の波も修正できるかなと。そこがスタメンとリザーブの違いに感じます」

「スタメンがAチーム、リザーブがBチーム、というわけではなく、今コートに出ているメンバーが、日本にとって最高のメンバーだと思うので。その一員として、自分の役割をまっとうすることを考えています。それを継続してやりたいでね」

 スタメンでもリザーブでも、その難しさに違いはあっても、プレーすること自体は同じ。それは翌年、帯同するチームが変わっても同様だった。

 2023年の日本代表はパリ五輪予選を最大のターゲットに強化する“A代表”と並行して、同年のアジア競技大会に向けた“B代表”を編成した。シーズン当初、大塚はそちらに回ることになったのである。

 これまでの大塚のキャリアを鑑みれば、周囲は「落ち込んでいるのではないか?」と想像したのも無理はない。けれども、当の本人はまるで意に介さず、むしろ、これまで以上に前向きな姿勢を見せていた。

「そこまで落ち込むことはなくて。逆に、まだまだ学んで吸収していく年齢だと思っているので。自分を成長させるために、自分の置かれた場所で思いきってプレーしよう、と考えています。もちろん悔しさはありましたが、それに引きずられる暇もなく、B代表の合宿に参加しましたからね(笑) A代表に残る残らない、よりも今できることを全部やって、それで残れるならよしだし、B代表に回ったとしてもよし。それも自分の経験になるかもしれないでしょう? 今できることを精一杯やっている感覚なので、けっこう楽しんでいる自分がいますね」

 結果的に、2023年はネーションズリーグの途中からA代表に合流。その後はパリ五輪予選で切符をつかむまで駆け抜けた。

 そんな経験を経て迎えた2024年。パリ五輪への強化と同時に、チーム内では大会本番に向けたメンバー争いも繰り広げられ、大塚はその渦中にいた。石川、髙橋、富田将馬ら実績ある面々に加え、さらには新星・甲斐優斗もメキメキと力をつけてきていた。チーム内競走への思いがゼロかと言われれば、そうではなかっただろう。だが、そこは大塚達宣である。今年のネーションズリーグでも一貫していた。

「(大会序盤から)いいメンタリティで試合ができていました。いざ試合が始まれば、チームが勝つために全力を出す。まずは自分が出せるものを発揮することをいちばんに考えていました」

 コートに立てば攻守で高いパフォーマンスを発揮し、髙橋が怪我の後遺症でチームを外れてからはスタメンとして石川の対角を務めて準優勝に貢献した。

ネーションズリーグで準優勝に大きく貢献した大塚達宣 ©Volleyball World

 振り返れば1年前、大塚は「自分が出るときって、チームとしてはうまく回っていない状況が多くて。だから自分の出番がないのは正直、チームがいいってことなんですよ」と笑いまじりに胸の内を明かした。今回の髙橋の離脱というシチュエーションはチームにとって痛手だったが、それでも“このチームには大塚がいる”ことが証明されたわけである。

 今年7月10日、パリ五輪前の最後の取材の場で大塚はネーションズリーグの戦いを踏まえ、意気込みを口にした。

「(髙橋が)いないと負けるのか?と言われるのは嫌ですし、自分が出るからには結果を出したい。その思いでプレーしていましたし、今回のネーションズリーグで、自分がコートに入ってもチームがうまく回るという自信がつきました。東京五輪以上に自分がチームに貢献できる部分は多くなったとは。あのとき以上のものを、個人としてもチームとしても求められていると思うので…」

 そのためには。答えは決まっていた。

「自分のやれることをやっていきたいです」

 まっとうし続けてきたミッションをパリの舞台でも遂行する。確かな自信を携えて。