当時はチーム最年少の19歳。それでも石川祐希のエース対角を務め、29年ぶりとなる五輪の決勝トーナメント進出に貢献した。それが髙橋藍、2021年のことだ。
日本代表に初めて登録されたのはその前年だったが、コロナ禍のため代表活動はゼロに等しく、この年が実質のデビューイヤー。にも関わらず、五輪の舞台に立ったことは、その才能がいかなるものかを物語っていた。だが、本人は当時をこう振り返る。
「まだまだ準備不足だったといいますか。もっともっと自分が戦えたら、という悔しさの中で五輪が終わりました」
パリ五輪でさらなる飛躍を目指す日本代表とともに、髙橋もまた「あの悔しさを埋めるための3年間」と表現する挑戦に身を投じてきた。
その最たるものがイタリア・セリエAでのプレーである。日本体育大学2年生時から、過去には石川祐希も所属したパドヴァと契約。初年度となる2021/22シーズンは途中合流ということもあり、主にリベロでの起用だったが、再びパドヴァに加わった翌シーズンはチームのエースとして活躍。そして2023/24シーズンは上位勢のモンツァへステップアップすると、リーグ戦序盤からルーベやモデナといった強豪クラブから勝ち星を奪い、プレーオフに進出。3戦先勝方式の準決勝ラウンドでは前年度王者のトレンティーノに2連敗を喫しながらも3連勝を飾る劇的な展開で突破を決める。その準決勝ラウンドでモンツァが反撃の口火をきった第3戦のMVPこそ、髙橋だった。
2023/24シーズンのモンツァには髙橋のほか、スティーブン・マーやエリック・レプキーというカナダ代表の両エースが名前を連ねており、アウトサイドヒッター陣の起用は焦点の一つでもあった。対する髙橋は「シーズンの入り方から大事にしていた」といい、チーム合流時から力を発揮することでアピールに成功。レギュラーの座を確立すると同時に、チームもレプキーをオポジットで起用するなど戦術を練り上げた。
そうしてモンツァとしては史上初となるプレーオフ決勝進出を果たす。最後は世界クラブ王者であり、結果としてリーグ三冠を達成するペルージャに屈したが、髙橋は「そこで勝つことが、これまた難しいのだと思いました。準決勝とは比べものにならないぐらいに、“最高峰”を感じました」とどこか晴れやかに語った。自身は決勝の舞台で常に2桁得点をマーク。なかでもペルージャから唯一の勝ち星をあげた第2戦ではマッチポイントから最後にスパイクを放ち、試合を決定づける姿はまさにエースそのものだった。
その1本は髙橋がチームを勝たせ、仲間たちから信頼を集めていた証しとも言えた。特にモンツァでセッターを務めたブラジル代表のフェルナンド・クレリングと髙橋は「気が合うものどうし」で絶大な信頼関係を構築。「試合における重要な場面で託されたたきに、しっかりと得点につなげたり、ミスをしないようには心がけていました。その積み重ねがファイナルでの最後の1点も含めて、信頼につながった」と髙橋は振り返り、クレリングも今年6月に来日した際に「藍は今シーズン、とても素晴らしいパフォーマンスを見せたよ。怪我もあったけれど、いつもコートに向かい、そこでいいプレーを披露した。僕たちが目標を達成する、その手助けをしてくれたね」と評価を口にした。
イタリアの地でチームメートと絆を育み、自身3季目のセリエAを終えた髙橋は充実の表情で日本代表に合流したのである。
「試合の勝ち方や、1点がほしい場面で点数を取りきれる力、それは実際にセリエAのファイナルを戦い抜くまでの経験を通して身についてきているので。勝負強さの部分で最も貢献できるのかなと思います」
代表活動を前にした取材の場でそのように語った髙橋はその言葉どおり、ネーションズリーグで格段に進化した姿を見せた。予選ラウンド第2週の福岡大会では、合流してまもないことから「コンビに関してもっと合わせていかなければ。細かい調整が必要です」と言いつつも、イタリアでのトレーニングによって増したジャンプ力と、さらには海外勢のブロックに対して「指先を狙うなど、まずは止められないことを常に意識して、相手と駆け引きしながら打てた」と冷静にアタックを繰り出し、高い決定率を残した。
コート上での自信と頼もしさにあふれた姿は、“準備不足”とこぼしたかつての面影はない。イタリアでの成功体験が、髙橋をそうさせている。
「プレーオフでも(準々決勝ラウンドの)ルーベに対してはレギュラーシーズンで勝利していたので、“勝つイメージ”を持って臨めていました。準決勝ラウンドも第3戦に勝利したことで、それ以降もリズムに乗れた。“勝つイメージ”をいかに持っているかはとても重要だと感じました」
「それは日本代表でも同じです。パリ五輪でのメダル獲得の照準を合わせている以上、ネーションズリーグがいい機会になります。昨年は3位で終わっているので、準決勝を勝つイメージがない。銅メダルのイメージはあったとしても、それではパリ五輪本番で銀以上の目標を掲げるのは難しいと思いますから。そのためにも昨年の結果を上回ることが、パリにつながると思います」
だからこそ、男子日本代表が今年のネーションズリーグで決勝の舞台に立ち、銀メダルを手にしたことには価値があった。残念ながら髙橋は今年1月に負傷した左足首の後遺症のため、コートを離れていたとして、も。
当然、本人はそこに悔しさを覚えている。けれども、「少しでも多くの選手が決勝に立つイメージを持てたことが大きい」と髙橋は語った。そうだ、ネーションズリーグでは叶わなかったとはいえ、自身はすでにイタリアで経験している。そこに辿り着く過程と、そこで勝ちきる難しさを。
きっとパリ五輪ではコートに舞い戻ってくる。もっともっと自分が戦えたら、なんて微塵も感じさせないプレー姿を、見せてくれるに違いない。