[写真]=サントリーホールディングス株式会社

 リーグ形式を変えて2018-19シーズンから始まったV.LEAGUEでは6シーズンで3度のリーグ制覇。とくに昨季は世界クラブ選手権で日本チーム初の銅メダルを獲得、リーグと黒鷲旗全日本男女選抜バレーボール大会の国内二冠を達成したサントリーサンバーズ大阪は大同生命SVリーグ(以下、SVリーグ)に向けて大型補強を敢行し、新たな戦いの中でも注目を集めることは必至だ。シーズン開幕まで3ヵ月(取材時点)、「ワクワクも緊張もなく、準備でバタバタですね(笑)」と日々奔走する栗原圭介ゼネラルマネジャーに話を聞いた。

※取材は2024年7月実施

――いよいよSVリーグ開幕の機運が高まってきました。チームとしては新リーグ発足に対して、どのように向き合われましたか?

栗原GM 我々は現在、『大阪から世界へ』というミッションを掲げて活動しており、SVリーグの最終目標である『2030年に世界最高峰のリーグを実現する』に共感したのが正直なところです。そこでまず着手したのは、チームを強くする、ということ。SVリーグに向けてバレーボール界が動き出したのが昨年で、ちょうど我々としてはアジアクラブ選手権を制し、世界クラブ選手権で3位になり、いよいよ世界ナンバーワンを獲るために強化していくタイミングでした。それもあって、SVリーグの方向性はすんなりと納得しましたね。

――その世界クラブ選手権も含めた昨シーズンの結果全体をどのように感じられていますか?

栗原GM 昨シーズンはほんとうにこれ以上にない結果を手にしたと感じています。天皇杯は世界クラブ選手権参加のため辞退しましたが、国内二冠と、世界クラブ選手権ではメダル獲得を目標としていたので、それを達成できたことに非常に満足しています。

――その2023-24シーズンからSVリーグに向けた強化として、男子日本代表の髙橋藍選手の獲得は今オフ最大のトピックスでした。反響はいかがでしたか?

栗原GM 予想はしていましたが、やはり…すごいな、というのが正直な感想です。それこそ芸能人以上の反響と言いますか。ある程度は想像していましたが、その上をいきましたね。

――ファンクラブの「サンバーズフレンズ」では、すでに完売のカテゴリーもお見受けします。そうしたスピード感も例年とは異なりますか?

栗原GM そうですね。最上位カテゴリーについては定員も50名ということもあり、毎年、即日完売なのですが、それ以外のカテゴリーについても新たに値段設定をしたなかで、すぐに枠が埋まりました。皆さんが日本でも試合をご覧になられたいという思いでいらっしゃるのだと受け止めています。もちろん、これまでチームをずっと応援してくださっているファンの方々に向けてもしっかりとフォローしながら、ファンクラブを設計しました。

 こうした動きを見ていて、従来のファンとはまた違う層の方々が入ってきていると実感します。そうした方々に新しく接点を設けることを、例えばホームゲームの運営一つをとっても、我々の試合に初めて足を運んでいただけたり、バレーボールを生で見ること自体が初めてという方もいらっしゃるでしょうから、ルールの説明や会場内のインフォメーションなどストレスなく観戦できる体制を作ることがまず大事だと考えています。そのうえで演出や音楽など非日常の空間を提供することが、リピーターにつながることでしょう。最初は人気選手がきっかけであれ、そこからたまたま違う選手に目がいったり、チームを応援する一体感を味わってもらえたり、といった体験ができるような仕掛けを今、みんなで意見を出し合い考えているところです。

――選手への“単推し”のみならず、チーム全体を応援してもらう“箱推し”につなげていくわけですね。一方で、今年の年明けにキャプテンの大宅真樹選手がホームゲームの現状についてSNS上で「ガラガラなのが寂しい」という声を上げました。フロントとしてはどのように受け止めましたか?

栗原GM そこに関しては、選手たちの生の声、ほんとうの意見だと思っています。我々、フロント側の運営だけの問題ではないとは思いつつも、やはりまだまだといいますか、運営力不足を痛感したところでした。真摯に受け止め、とはいえチームとしてもその現実と向き合う、いいきっかけになったと感じていますし、それほどマイナスには捉えていません。

――そのホームゲームですが、2024-25 SVリーグのスケジュールも発表され、試合数も昨年より増えることになりました。

栗原GM 我々はホームアリーナを所有しておりませんので、どうしても1つのシーズンで4つか5つの会場で開催していくことになります。その数だけ運営のパターンを考えなければなりませんので、労力も増えますし、そこは難しいところです。ですが、髙橋藍選手や小野寺太志選手という日本代表の面々や、ポーランド代表のアレクサンデル・シリフカ選手も加わりましたし、一人でも多くのお客様に来場していただき、最大限の座席数を設けられるように計画していきます。

――サントリーのホームゲームでは、社風である“やってみはなれ”を感じるイベントや企画をお見受けします。GMという立場からはどう向き合っているのでしょうか。

栗原GM なるべく意見を尊重するようにはしています。ですが、重要なのは、実行したその先まで考えて行動できているか。事業である以上、ただやりたいだけではだめで、見通しが立っているのであれば“やってみはなれ”となるわけです。

――栗原GM自身はサントリーで現役時代を過ごされ、その後スタッフとして携わり、今に至ります。現在はプロ選手も増え、SVリーグのように事業的な側面にフォーカスする動きが当たり前となっていますが、現役当時のご自身はいかがでしたか?

栗原GM その頃はまったく何も考えていませんでしたね(笑)。自分が選手である以上、いかにして試合に出るかしか頭になかった。もちろん、チームの運営に費用がかかっている認識は持っているわけですが、そもそも企業スポーツであり、収益を上げることよりもCSR(企業による社会貢献活動)的な位置付けのほうが強かったものですから。それはどのチームも同じだったと思います。そのときから考えることができていたら、私の身の振り方も変わっていたのかもしれませんが…当時の自分にその余裕はありませんでした。

――その点において、今のチームや現役選手たちの取り組み方はどのように映っていますか?

栗原GM やはりSVリーグになるということで、チームとしても要所で選手たちに情報を共有する機会を設けています。それに選手たちも、そうした部分に興味を持ち出しているのが事実です。私の現役時代と違って、あらゆる情報がすぐに入ってきますし、こちらとしても運営面などについては包み隠さず、かといって一方的に伝えるわけではありませんが。チーム内でもそうして情報を交換し合う環境ができています。

――栗原GMが入団されてからサントリーはVリーグ5連覇という金字塔を打ち立てました。そうして今、サントリーは再び強豪の地位を確立した印象です。

栗原GM 仰るとおり本当に、第二の黄金期と言いますか。手前味噌ですが、あの5連覇が最高到達点とすれば、それに匹敵するような、加えて当時にはなかった世界を舞台にした戦いも増えていますので、その点も含めて再び黄金期を迎えようとしているのではないかと感じています。ですが、国内でも14年間優勝から遠ざかる時期もありましたから、一つ気を抜くと、すぐにそうなってしまいかねない。そうならないためには強化の予算も必要になってきますし、それをいかに確保するかが今の私の仕事でもあります。そして、事業面においてもチームとして成功させていくことが、我々が迎える次のステージと言えるでしょう。うれしいことにバレーボールでは結果が出ていますので、運営面や事業面の成長に向けて今は注力しています。

――SVリーグでは各チームがいっそう事業的な側面と向き合うことになります。

栗原GM その点において各チームがしのぎを削りながら、当然ライバルなわけですけれど、これまでも一緒にリーグを作ってきたものどうしですから仲間意識も抱えつつ、お互いのいいところは真似しながら進めていければと考えています。それに、どのチームもおそらく目指す先は一緒で。昨年に続いて今年も実施するタイでの親善試合のようなアジア圏の興行も含めて、手を取り合いながら展開していきたいです。もちろん、まずは各チームがそれぞれ独自のホームゲームを展開していくことが重要だと思いますね。

――10月11日の2024-25 SVリーグ開幕戦は大阪ブルテオンとの対戦カードに決まりました。新体制のチームで臨む、新リーグへの船出をどのように飾りたいと考えていますか?

栗原GM 開幕戦を勝利で飾りたいのはどのチームも一緒でしょう。ただし今年はSVリーグのスタートに加えて、昨シーズンのファイナルの再戦、そして東京で大々的に開催されるとあって、当日はいろんな思いで迎えることになると想像しています。オープニングマッチをやらせてもらえることは非常に光栄ですし、大阪ブルテオンと開幕をしっかり盛り上げたい。結果は当然、勝ち負けが生じるわけですが、おそらく紙一重の戦いになるでしょうし、“絶対に勝ちにいく”とは別で、世の中に向けてSVリーグ開幕をしっかりと発信できる機会にできればと思います。