1994年から始まったV.LEAGUEにおいて6度の優勝を誇り、これまでも日本代表の選手が数多く並んできた名門パナソニック パンサーズが今年から装いを新たにした。2024ー25シーズンから始まる大同生命SV.LEAGUE(SVリーグ)が掲げるビジョンと同じく、「世界一を目指す」そして「グローバルに価値を高めていく」。そのためにリブランディングを図り、新生「大阪ブルテオン」として今年からスタートをきる。その背景や今後のビジョンについてパナソニック スポーツ株式会社の久保田剛社長に話を聞いた。
※取材は2024年7月に実施
――今年の6月11日にリブランディング発表会を実施されました。以降の、周囲の反響はいかがですか?
久保田社長 ポジティブなご意見はもちろん、その逆に『寂しい』という声も聞きますので、両方ですね。それは承知の上ですし、今回のようにクラブ名を変えることは新しいスタートであるわけですから。期待していただいている方には当然、その期待に応えなければなりませんし、反対に失うものもあるかもしれませんが、これまでのパナソニック パンサーズとはまた違ったプラスアルファがあって応援していただけるようなクラブにならなければと思っています。
――久保田社長にとって、意外だった反応などはありますか?
久保田社長 ある記者さんから、『パナソニックという企業名を外すのはマイナスではないか』という意見をいただきました。サッカーのJリーグでクラブ運営に関わっていた時は、企業名がついていることにネガティブな反応があることを多く見てきましたが、フラットに見て、企業名がついていることに違和感がない方がいらっしゃるのは事実ですし、むしろ、それがプラスだと受け止めている方もいるのだ、とあらためて感じる機会でした。
――そのような中で今回、「大阪ブルテオン」という名称への変更に踏みきりました
久保田社長 私自身の認識としてはまず“地域”がベースにあって、そこで活動するクラブに後からスポンサーがネーミングライツなどの資金的な支援で加わるケースと、先に“企業”の実業団クラブとして活動して、あとから地域名を入れるのでは、まるで意味が違うと考えています。それに、バレーボール界としては同じアリーナスポーツでバスケットボールのBリーグを意識せざるをえませんし、実際にBリーグは地域に根ざした方向性で活動を展開しています。
そうしたスポーツがあるなかで、企業色を前面に出している競技やクラブと、どちらを応援したいですかと聞かれたら…。これは様々な見方があるので決めつけることはできませんが、私の中では地域にしっかりと根を張ることをクラブの名前から宣言して、その方向に変わらなければ、という思いが前提にありました。
要はどうすればサステナブルな競技になるかということ。ここが重要な視点です。企業名を表記したほうがサステナブルな存在になると期待される競技も確かにある中で、バレーボールはサッカーやバスケットボールと同様の方向性がサステナブルにつながると、私は考えます。
――リブランディング自体は今年2月に発表がありました。実際はいつぐらいから動き出していたのでしょうか?
久保田社長 正直に言いますと、5年前にパナソニック株式会社に入社(当時は企業スポーツセンター所長に就任)したときから、これはいずれ変えなければと考えていました。その思いは2、3年前からさらに強くなり、今回SVリーグの話が出て、これが最適なタイミングになるだろうと実行に移しました。具体的に動いたのは昨年の秋ごろになります。
――2年前にパナソニック スポーツの子会社となったガンバ大阪も、2021年にロゴなどを刷新しました。今回のバレーボールクラブ「パナソニック パンサーズ」から「大阪ブルテオン」へのリブランディングに関しては、その時と異なる部分や共通点はあるのでしょうか?
久保田社長 ガンバ大阪は、まさにリブランディングでした。私が主導したわけではありませんが、クラブの考え方そのものを整理して行動指針をクリアにするものになりました。一方で、このパナソニック パンサーズから大阪ブルテオンへのリブランディングはバレーボール界自体に対する大きな変化を表しているものだと感じています。
――リブランディングには、どこから着手し、どのように進められたのですか?
久保田社長 まずフロントのメンバー全員でディスカッションすることから始めました。名前を変えることは目的ではなく手段であり当然、戦略も変わってきますので。『どう変わりたいのか』『どうなっていかなければならないのか』を何度も話し合いました。ただ、商標登録の関係もあり、例えば『ネーミングを募集します』といったことはできず、どうしてもクローズに進めざるをえなかったのは正直なところです。
――最終的に「大阪ブルテオン」の新名称と新ロゴに決まりました。
久保田社長 おそらく400~500ぐらいの候補がありましたね。そこから絞りに、絞りました。また日本国内だけではなく、アジア戦略も意識していましたので、タイやインドネシア、フィリピンなどに類似商標がないかも含めて、かなり慎重に検討しました。
ロゴに関してはガンバ大阪のように近年のスポーツ業界ではシンプル路線になっており、同時に、オリジナリティを出すことが難しくもありました。どうしても似ているものがあるという見方が出てくるものですが、そこは専門家が類似性を判断してくださいますからね。
その中でもやはり、大阪そしてパンサーズの持っているDNAを大事にしたかったので、“青”にはすごくこだわりましたし、結果的にいい名前になったと感じています。
――ユニフォームも株式会社エスエスケイがトップパートナーとなり同社が展開するヒュンメルブランドのデザインに一新されました。パナソニック パンサーズ時代から“会場でレプリカユニフォームを着て応援してもらう”カルチャーをつくっていましたが、それは今後も変わらないものでしょうか?
久保田社長 手前味噌になって恐縮ですが、あの文化は私がサッカー業界から来て、すぐに発信させていただいたものなんです。というのも、当時のバレーボールの会場を見ても、ほとんどそういうアイテムを身につけていないのが印象的でしたので。
ユニフォームを着て応援してもらうことによって会場の雰囲気もよくなりますし、ファンの方々と選手が“一緒に戦う”思いがさらに強くなり、クラブへのロイヤリティ(愛着)も深まります。今は会場に着いてから着る風景が見られますが、それこそ会場の行き帰りも着用してもらって、ユニフォームを着ること自体を誇りに感じてもらえるようなカルチャーになればと願っています。
また別の観点から、現在の全体8割を占める女性ファンの方々が街中で着られるようなファッション性のあるウェアなども一緒に開発できたら面白いですね。そういったことも先方とお話しさせていただいておりますので、ぜひ期待してもらいたいです。
――今後のビジョンについてお伺いします。記者会見では「競技力だけでなく、事業力や経営力が必要」という久保田社長の言葉がありました。その鍵となるのは、このインタビューの冒頭でも仰られたように、“地域”ということでしょうか?
久保田社長 そうです。常に地域と共にあり、地域と共に生きる考えで、より地域に寄せていきたいと思っています。例えば、ホームタウンの京阪『枚方公園』駅も3、4年前まではその名のとおり“枚方公園の駅”だったわけですが、今ではのぼりなどの意匠で“ブルテオンの駅”となっています。京阪電鉄もブルテオンだらけですし、後援会もつくっていただきました。また、サッカーなど他競技がやっているように、地域のお店1軒1軒を尋ねて、ポスターを貼ってもらったり、お話しをさせていただくほか、選手たちも普及活動など一生懸命に取り組んでくれています。
全体の8割を占める女性ファンの方々を引き続き大事にしつつ、今後は男性ファンやファミリー層など広く、地域に応援していただくという道筋をつくっていきたいと考えています。その第一歩として、今回のリブランディングは明確な意思表示になったのではないでしょうか。
――これまでを振り返っていただき、久保田社長が課題を痛感した場面や運営面での苦労などはありますか?
久保田社長 私が携わった当初、例えばパナソニックアリーナにおける競技運営。今でこそ試合の際はコート周りに仮設スタンドを敷いていますが、以前は平台を積んでいるだけ。後ろの席の方は、前の人の肩越しに試合を見なければなりませんでした。また、トイレに関しても、今も数が少なくて大変心苦しいのですが、以前は簡易な仮設トイレが会場外に設けてあるだけでした。ほとんどの来場者が女性であるにも関わらず、です。そこは費用をかけてでも改善するんだ、と。それら一つ一つを変えてきたつもりです
そうした取り組みの一方で、運営面に関してもファンクラブ会員の数は、有料・無料を合わせて2023-24シーズン終了時点で約2万人。22-23シーズンからすれば約3倍に増えました。(2024年9月時点では3万人を突破)
さらにはインスタグラムのフォロワー数は14万9,000人でSVリーグの中でもトップ。これはバレーボールのファン層の特性もあるかもしれませんが、Bリーグを見比べても、この数字を上回るのは千葉ジェッツふなばしだけです。(フォロワー数は2024年9月末時点)
この4、5年だけでもかなりクラブの持つポテンシャルを引き出せたと思いますし、選手やスタッフ全員の協力と、ファンの皆さまの理解のおかげです。とはいえ、私が思うにバレーボールは“もったいない選手権1位”のような競技ですから。さらによくなると考えています。
――国内バレーボールシーンにおけるトップランナーとしての姿勢や実行力、それが大阪ブルテオンの活動におけるキーワードの一つだと思います。それは久保田社長が携わる中で、そもそもクラブに備わっているものなのか、はたまた活動するなかで熟成されたものか、いかがでしょう。
久保田社長 元々、ポテンシャルはあるんです。私がくる以前から、日本代表選手を数多く輩出しています。戦略的な補強もあるとはいえ、それはやはり魅力あるクラブだからこそ選手が来てくれるわけです。その素地があると考えています。
同じパナソニック スポーツ傘下のチーム、ラグビー・リーグワンの埼玉パナソニックワイルドナイツも日本代表選手が10人以上います。初のコーポレートチームが誕生して以降、会社として70年以上かけて、複数のスポーツを応援してきました。OBを含めた人脈や施設などによって、それらは形成され、ましてや一夕一朝でできるものではありませんから、アップデートしながら今のブランド力を形成できているわけです。それをより正しく、さらには“見える化”することで、事業面においてしっかりと表現できるのではないかと思います。
――選手たち自身がさっそく“ブルテオンポーズ”を提案するような姿勢は、このクラブの“らしさ”だと感じます。
久保田社長 選手それぞれが“自分たちから変えていかなければならない”というバレーボール界に対する意識を持っているからこそ、だと感じています。そこがベースにあり、さらにファンの皆さんに支えられている、その立場にあることを選手たちがわかってくれていますから。どんどん意欲的に考えてアクションしてもらえたらと思いますし、私としても嬉しいかぎりです。
――新クラブとして臨む新リーグの船出になります。2024-25シーズンに向けて、久保田社長自身の心境はいかがですか?
久保田社長 もうワクワクですね。リーグも、クラブ自体もポテンシャルを秘めていますので、それを皆さんと一緒になり、大きな花として咲かせていきたいです。そのスタートですし華々しい幕開けになればいいなと思います。