「やっぱりバレーを楽しむっていうのは大事なことだなと、今日改めて感じました」
SVリーグ初代女王に輝いた大阪マーヴェラスの林琴奈は、確信に満ちた表情で言った。
5月2、3日に行われたSVリーグ・ファイナルで、NECレッドロケッツ川崎を相手に1セットも失うことなく2連勝。2戦目は巻き返しを図るNECにリードされる場面もあったが、下を向く選手はいない。選手同士でしっかりと目を合わせ、アグレッシブに、かつ賢く、躍動し続けた。
「『勝たないといけない』というふうに、自分たちでプレッシャーをいつもかけながらやっていましたが、そういうのを全部捨てて、バレーを楽しもうと話していました」と林は続けた。

前身のJTマーヴェラスは、当時の2部に当たるV・チャレンジリーグに所属していた2015-16シーズンに吉原知子前監督が就任すると、1年で1部のV・プレミアリーグに昇格。そして昇格4年目の2019-20シーズンにリーグ優勝を果たし、翌年、連覇を達成。昨季までの5年間で4度ファイナルに進出する常勝チームとなったが、次第に「勝ちたい」という思いは「勝たなければ」に変わっていた。
昨季はレギュラーシーズンでは全勝優勝を果たしたが、それだけにファイナルでのしかかったプレッシャーはとてつもなく大きかった。結果的に、昨季のリーグで唯一の敗戦が、ファイナルのNEC戦となり優勝に届かなかった。
今季も37勝7敗という圧倒的な成績でレギュラーシーズンを制したが、チャンピオンシップ(プレーオフ)を前に、キャプテンの田中瑞稀はこう語っていた。
「今季は『負けたらどうしよう』という気持ちがあまりないんです。レギュラーシーズン序盤にデンソーに負けた時も、『今ここで負けられてよかった』という気持ちがあった。そこから、チームとしてどこをもっと強化していくべきかというのが見つけられました」

敗戦後は重苦しい空気に支配されていた昨季までとは明らかに違っていた。
リベロの目黒優佳も、「言ったらいけないかもしれないけど」と前置きしてこう話す。
「今シーズンは負けた時も、ロッカールームがめっちゃ明るいんです。ポジティブに『明日はこうしよう』みたいな会話が増えていた。以前は、負けたら、この世の終わりみたいな雰囲気になっていたけど(苦笑)、今季は『次だ』という感じになれています」
ポジティブな思考は、選手にトライさせ、考えさせるスタイルの酒井大祐監督の影響が大きい。田中は、初めてトップリーグで監督を務める指揮官をこう表現した。
「吉原監督は、プレーヤーとしてもすごく尊敬していた人で、“お母さん”みたいな感じだったんですけど、酒井監督は選手に近いというか、一緒にチームを築き上げていっている、一緒に成長しているみたいな感覚です。私はキャプテンだからというのもありますが、コミュニケーションを取る機会が多くて、こちらからいろいろと相談したり、提案したりということも多いです」

目黒は“能動的”“主体的”という言葉を使った。
「昨季は『これをしなければいけない』というものがあって、それが崩れた時に、自分的に行き詰まってしまったし、固定観念があった。でも今季は、自分たちが『こうしたい』というものを頭に置いてやれている。『これをやらなきゃいけない』と硬くなるんじゃなく、『こうしたい』『こうしたらもっとうまくいくだろうな』と主体的に動けている。チームとしての作戦はあるけど、それだけにガチガチになるんじゃなく、選手、スタッフ、いろんな人が見る角度から『こうしたほうがいいんじゃないか』と声を発して、柔軟に対応できているところはいいかなと思います」
プレー面でも精神面でも、今季はいい意味での“あそび”がある。細かいディフェンスシステムや決め事はあるが、選手の判断で動くべきところは動く。
ワンハンドでボールに食らいつくなど、再三粘り強い守備を見せたセッターの東美奈もこう話す。
「約束事もあるんですけど、相手の状態によって、その都度臨機応変に対応しなければいけない場合もある。約束事だけに縛られると、上がらないボールもあるので」

2戦先勝方式で行われたデンソーエアリービーズとのセミファイナルでは、初戦にセットカウント0-3で敗れたが、この時も選手たちは前を向いていた。
目黒は、「あとがないという状況を、逆に楽しんでいた感じがありました。やるべきことを全員がわかっていたので」と振り返る。
柔軟に選手たち自身が考え、状況を変える力をつけてきたからこそ、苦境も自分たち次第で打開できると信じられた。
昨季までマーヴェラスに所属し、今季はNECの一員としてファイナルのコートに立った和田由紀子が、今季のマーヴェラスの印象をこう語っていたのが印象的だった。
「選手それぞれがチームに関わって、自分たちの作りたいチームを作っている、というのをすごく感じますし、プレーしている姿がより楽しそうだな感じます」
選手が主体的に携わり、構築してきたチームで極めた頂点は、格別の景色だったに違いない。

