背番号「1」と「3」がコート上で横並びになる。お互いの位置を確認して、手を軽く合わせると、相手サーブに備えた。
「対角を組めたことはとても嬉しかったですね。中学時代から知っている仲。こうやって社会人になっても一緒に戦える機会はそうそうないでしょうから」
背番号3をつけた染野輝(そめの・ひかる/ヴォレアス北海道)は声を弾ませて、そのときの胸中を振り返った。背番号1はキャプテンの水町泰杜(みずまち・たいと/ウルフドッグス名古屋)。ドイツは現地7月19日、「FISUワールドユニバーシティゲームズ(2025/ライン・ルール)」のバレーボール競技男子、予選ラウンド最終戦のチェコ戦で2人は同じコートに立っていた。
同世代をリードしてきた2人が初めて、一緒に日の丸をつけたのは10年前になる。2016年、当時中学3年生の2人はそろって「平成28年度全日本中学生選抜」(全中選抜)入りを果たし、オーストラリアへの海外遠征に出向いている。もっとも水町は中学2年生時からJOCジュニアオリンピックカップ全国都道府県対抗中学大会(JOC杯)の熊本県選抜入りを果たしており、すでに頭角を表していた。そのJOC杯で2年生ながら活躍する同級生の姿を染野は目に焼きつけていた。
「一方的に知っていたんです。坊主姿で、2年生なのにサービスエースばかり奪っていく、そんなイメージでした。その年明けの選抜合宿で一緒になって、そこから仲良くなっていきました」
中学2年生の終わり、2016年春に催された全国長身選手発掘育成合宿が直接関わる初めての場となった。水町は当時からはつらつとした表情でプレーし、常に明るいキャラクター。染野も温かい人柄の持ち主で、コート上ではこれでもかと闘志をむき出しにするタイプ。2人の関係はパズルのピースのように、うまくはまった。
やがて中学3年生時のJOC杯で熊本県選抜を日本一に導いた水町は、堂々と世代のトップランナーに。染野もまた、その高いポテンシャルを見初められ、全中選抜に名前を連ねる。そこでは水町がキャプテン、染野が副キャプテンを務めた。
その合宿では、こんなエピソードも。水町は笑いながら明かす。
「練習のアップで隊列を組んでコートを走るのですが、そのときに掛け声を出すんです。一人が『1、2-!!』と声を上げて、周りが『1、2、3、4』と続くことで足並みを揃える。それを全員で回していくのですが、(染野)輝がまるでリズム感がなくて!! 僕が先頭で輝が2番目だったのですが、輝が出す『1、2-!!』の掛け声にリズム感がなさすぎて、みんなの足がバラバラになってしまう。指導者に怒られて、最初からやり直しになるんです。もう僕、輝、僕、輝とずっとループしていました(笑)」
けれども見ればわかるように、ハートの強さは水町も感じ取っていた。当時の染野の印象を「ハイタッチが痛いやつ」と表現しつつ、「熱い男ですよね」としみじみと語るのであった。
以降は高校、大学とそれぞれのチームで大黒柱を担い、面白いことにいずれも学生生活は最後、直接対決で締めくくっている。高校3年生時の春高では水町の鎮西高校(熊本)と染野の駿台学園高校(東京)が、大学4年生時の全日本インカレは水町の早稲田大学と染野の順天堂大学が、対戦し、そこでの対戦成績は1勝1敗の痛み分け。そうして2年前の前回大会に続き、今年の夏はワールドユニバーシティゲームズ日本代表として再びチームメートになったのである。
いざ試合会場では、アップから2人の絡む様子が見られた。ことあるごとに、お互いのおしりをぶつけあっているのだ。

「(水町)泰杜が急に『ちょっとやろうや』と言い出したので、僕も『いいよ』と。両手まで使った“フルバーション”があるんですけど、試合中は縮小版でやろう、と決めました」と染野。
一見すれば仲がいいものどうしが、わきあいあいと繰り出すパフォーマンスに過ぎない。「特に意味はなくて。ただ僕がやりたかった(笑)」と水町は言うものの、実はこんな思いが込められていた。
「このチームのアウトサイドヒッター陣でいえば、僕と輝がディフェンシブなタイプで、藤原直也(ジェイテクトSTINGS愛知)と柳北悠李(広島サンダーズ)がオフェンシブなタイプ。僕がコートに立っているとき、輝はベンチに控えていましたが、僕がチームを離脱したあとは、代わりに輝が入る必要が出てくると踏んでいました。なので、たとえリザーブだったとしても、決勝トーナメントに進めば輝が中心になってやっていかなければいけない分、『お前は蚊帳の外じゃないよ』という意味も込めて、密にコミュニケーションをとるようにしていたんです」
大会途中から水町はビーチバレーボール競技に参加するため、インドアは予選ラウンドまでと決まっていた。そこでのスタメンは水町の対角を主に藤原が務めていたが、帯同した最終戦では途中から藤原に代わって染野が投入され、同じコートに。果たして、水町が離脱したあとは、染野がキャプテンマークを務めてチームを4位へ導いた。

出会ってから、今年で10年目を迎える。「今大会でいちばんの古株は、輝になりますね。中学生から、かぁ…。ちょっと胸にくるものがあります」と水町。あらためて染野の印象を聞くと、「いいキャラクターをしていますよね!! 輪の中心になると言いますか、みんなから目を向けられるような選手。輝を中心に回っていく、そういう素質がある人柄だと思っています」と語る。
対する染野も、水町をこのように表現した。
「中学のときから変わらず、あのままです。見ればわかる、『あ、泰杜だ』って(笑)。あれこそ“太陽”と呼ばれるにふさらしい男だよなと思いますね」
束の間の共闘を終えて、ここからは対戦相手に戻る。そこでは――
「もちろん、輝をサーブで狙います。とはいえ守備的なアウトサイドヒッターですから、チームの戦術としてはもう片方のアタッカーを狙うことになるはず。チームの意向に従いつつ、ときには輝へ。『いつでも狙っているぞ』とね」(水町)
「泰杜からの被サービスエースは0でいきたいですね。おそらく狙ってくると思いますから(笑)。もちろん負けるつもりはありません。勝てるように頑張ります」(染野)
同じコートでも、次はネット挟んで。水町がエンドラインに立ち、染野がレシーブを構える。勝負の行方はぜひ、SVリーグでご覧あれ。
