パリ五輪・バレーボール男子決勝から1年が経った。すでに日本代表はロサンゼルス五輪でのメダル獲得に向け、スタートを切っている。
パリ五輪といえばやはり第3セット24-21のマッチポイントから逆転され、フルセットの激戦の末に敗れた準々決勝イタリア戦が記憶に鮮明に刻み込まれているが、パリ五輪後、日本代表のキャプテン・石川祐希がポイントに挙げていたのは、予選リーグ初戦のドイツ戦だった。
「一番大事だったと思うのは、初戦のドイツ戦。そこで負けたことで、ちょっと崩れてしまった」
そのドイツ戦の立ち上がりに日本の出鼻をくじいたのが、ドイツのオポジット、ジョルジ・グロゼルだった。2012年のロンドン五輪にも出場した経験を持つ、身長200cm、39歳(当時)の大ベテラン。だが年齢など関係ない。びっしりとタトゥーが入った筋骨隆々の右腕から放たれたサーブがうなりをあげて日本コートを襲う。そのサーブを起点にブロックでブレイクを重ねると、サーブレシーブの名手・髙橋藍からサービスエースを奪うなど、気がつけば9-2とドイツが日本を大きく引き離していた。グロゼルのこの日のサーブの最速は時速122kmを計測した。
日本はその後セットを取り返したが、結果的にセットカウント2-3で敗れた。グロゼルは両チームトップの24得点を記録。この試合を観て“グロゼル”の名前を覚えたという日本のバレーファンは多いだろう。
五輪の翌年は各国とも世代交代に着手する。今年のネーションズリーグは、ベテラン選手が代表を引退、あるいは休養して抜け、新戦力を加えて臨むチームが多かった。
だがその中に、40歳になったグロゼルがいた。予選ラウンド第3週の千葉大会では、出場は1試合のみだったが、コートを引き上げる際には日本のファンから「グロゼル!」と熱烈な歓声を浴び、サイン攻めにあっていた。
「日本で有名になりましたね」と声をかけると、豪快に笑った。
「そうみたいですね。僕のことを気に入ってもらえているみたいです(笑)。日本に来るのは楽しい。こんなに大勢のお客さんが試合を観にきてくれるのは嬉しいし、みんなすごくバレーボールを愛しているのを感じます」
五輪の翌年、40歳になっても代表に参加し、長距離の遠征も厭わない。そのモチベーションの源はどこにあるのか聞いた。
「昨年は体もプレーもすごくいい状態だったから。今週はまだ(クラブシーズン後の)ホリデーから戻ったばかりでそれほどいい状態ではないけど、それでもチームを助けることはできる。ロサンゼルス五輪に向けて、他の選手たちに、メンタリティを始め、すべてのことを伝えたい。もちろんロスまでいられるかどうかはわからないけど、1年であっても2年であっても3年であっても、代表のためにベストを尽くしたい。それが私のモチベーションです」
ごく自然なことのように言った。
グロゼルの妻・エレナはチェコ代表、そして娘のリアナもドイツ代表としてプレーしており、エレナは今年のネーションズリーグの日本戦でチームトップの12得点を挙げている。そうした家族の活躍からも、もちろんエネルギーをもらっているという。
これまでも、豊田合成トレフェルサ(現・ウルフドッグス名古屋)などでプレーしたイゴール・オムルチェンやクレク・バルトシュ(今季は東京グレートベアーズ)といった外国人選手から「年齢はただの数字」という言葉を聞いたが、まさにグロゼルはその言葉を体現している。今年のネーションズリーグの日本戦ではグロゼルの出場機会はなかったが、この先再び日本の前に立ちはだかる日が来るかもしれない。