[写真]=田中夕子

 黄色のユニフォームが、これまで以上に強く、逞しく見えたのはきっと気のせいではない。

 7月29日から8月1日まで島根県松江市で開催されたインターハイで、4年ぶりの日本一に輝いた鎮西高の選手たちが見せる表情は明るく、堂々としていた。

 今もこれまでも、高校男子バレー界において鎮西が強豪と呼ばれるチームであることは特筆すべきことではない。現在日本代表で活躍する宮浦健人や、ビーチバレーとの二刀流でユニバーシアードを戦った水町泰杜、いくらでも挙がる豪華なOBの面々や輝かしい戦績。加えて今季は昨年度の主軸を担った選手も多く、大会前から優勝候補に挙げられていた。

 だが、見せた強さと明るさは、前評判の高さや伝統だけでは収まらない。確かな変化を感じた。

 試合の最中から、得点すれば各々が両手を掲げ、時に跳びはねながら、もぎ取った1点を全員で喜ぶ。何げないシーンではあったが、今年1月の春高で見た鎮西は、もっとクールで、どれほど強くともむしろ表情を変えずに戦う。そんな姿が印象的だったせいか、両手や片手を高く掲げ、「やったぞ」とばかりに吼える姿は新鮮に映った。

 実際に、彼らは変わったのか。

 市尼崎との決勝を3対0で勝利し、表彰式を終えた直後。大会を総括した畑野久雄監督が「まだまだ課題ばかり」と振り返り、選手名とともに具体的な課題を挙げる中、唯一「大会を通してずっと安定していた。一番よかったのは見ての通り」と手放しで褒めたミドルブロッカーの西原涼瑛(3年)に聞くと、インターハイで見せた変化は偶然ではなく、意図した行動であったことを明かした。

「前回(25年1月開催)の春高で悔しい思いをしたので、インターハイは絶対に勝とう、ってみんなで意識をして臨みました。プレーの1つ1つはもちろんですけど、自分の中では練習中から、声を出すこともすごく意識してやってきたんです。たぶん、見ている人とか(対戦)相手からは、“鎮西は声を出さない”って思われているので、あえて出す。春高の東亜戦も、相手が声を出して盛り上げてくる雰囲気に負けてしまっていたし、今までもそこでやられることが多かったので、声を出したり、喜んだり、そういうところから変えていこう、という気持ちでした」

 悔しさは選手個々やチームを成長させ、強くなるためのきっかけとなる。

 西原だけでなく、今年1月の春高を経験した鎮西高の選手たちにとって、インターハイの原動力へとつながった敗戦がある。準々決勝の東亜学園戦だ。

 4試合目と6試合目、試合間が1時間もない中でのダブルヘッダーという圧倒的不利な条件もあったが、当たって砕けろと攻撃でも守備でも100%の力でぶつかってくる相手の勢いを受ける形となった結果、ストレートで敗れた。「雰囲気で負けていた」と西原が振り返っただけでなく、「自分のせい」と敗戦の責任を背負ったのが、岩下将大(3年)と一ノ瀬漣(2年)だった。

 同じ悔しさは二度と味わいたくない。インターハイでは2人のエースが爆発した。

 大会直前に主将でセッターの福田空(3年)が負傷、代わって入った2年生の木永青空(2年)に対して、同学年の一ノ瀬は「自分が支えなければいけないと思ってプレーした」と言い、岩下も「試合前から顔が青ざめていたので、1つ1つプレーが終わるたびに『大丈夫だから』と声をかけ続けた」と語るように、上がってきたトスを決めるだけでなく、コート内で常に会話し続ける。

 自分が決めた、決まらなかった、と個のパフォーマンスに目を向けるのではなく、チームのためにどう振る舞っていくのが真のエースか。春高で破れなかった殻を打ち破り、壁を超えて行こうとチャレンジし続けている姿が随所で見られた。

 さらにもう1つ、チームとして今まで以上にこだわってきたのがサーブ力の向上だ。

 高校だけでなく、昨今はすべてのカテゴリーで主導権を握るには、サーブで攻めるのは大前提といっても過言ではない。敗れた春高では「サーブで責められなかったことも敗因の1つだった」という一ノ瀬や岩下のサーブで得点を重ねた背景には、畑野監督が口酸っぱく選手に向けて言い続けてきた指針があった。

「今回のインターハイに向けて、選手には3つのサーブを打て、と言い続けてきました。1つは自分の得意なサーブ、もう1つは自分が得意なコースとは逆へ打つサーブ。もう1つがすりこむ(前に落とす)サーブ。まだまだ打てない選手が多かったですけど、何人かは、いいサーブを打って崩せていたとは思いますよ」

 攻める以上はリスクも背負う。だが、余分なミスはしない、というのも畑野監督の鉄則。決勝の2セット目にはこんなシーンがあった。

 第1セットを鎮西高が先取し、第2セットの序盤、4対4の場面でミドルブロッカーの平川陽翔(2年)が打ったサーブはネットにかかった。ベンチへ下がった平川に、畑野監督が少し長めに言葉をかける。その後、再び前衛でコートに戻り、このセット2巡目の平川がサーブを打つ際にはショートサーブが効果を発し、11対12から4連続得点を挙げ、2セット連取の原動力になった。

 あの時、何と声をかけたのか。そう問うと畑野監督は苦笑いを浮かべながら言った。

「あの試合だけで2本、平川はサーブをネットにかけていましたから。ネットにかけるミスは、サーブの中では一番ダメ。相手にとって何のダメージもない、いらんミスなんです。だから平川には練習から言い続けてきましたし、『お前のサーブが入ればポイントするんだ』と。実際にミスした後、ちゃんとサーブを打ったら本当に崩せた。だから『見てみ、お前のサーブが入っているから点数が伸びるんだぞ』と褒めてやりました」

 攻撃陣が揃っているから、いい選手が集まっているから強いのではなく、それぞれがやるべきことを理解して、練習から徹底し、なおかつ自分たちで考えて動く。

 だから、鎮西はインターハイで圧巻の強さを発揮し、4年ぶりの頂点に立った。

 優勝候補の大本命に違わぬ力を発揮し、夏の王者となったが、目指す先には秋の国体。そして年明けの春高を含めた「三冠」達成が今季の目標だ。

 1年時から鎮西のユニフォームを着てコートに立ち続けてきた、岩下が言った。

「どこのチームにも負けない力をつけないといけないし、どの試合も負けたくない。足りない部分も、成長した部分も見つかったので、成長したところはもっと伸ばして、改善すべきことは改善して。次の大会では、もっとよくなっている自分を見せられるようにやっていきたいです」

 次の戦いではどんな姿を見せるのか。三冠に向け、新たな一歩を踏み出していく。

この記事を書いたのは

田中夕子

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