9月19日、大阪府堺市で「強く、広く、社会とつなぐ~地域と共創するスポーツチームを目指して~」が、堺市を本拠地とするSVリーグ男子の日本製鉄堺ブレイザーズ(以下、日鉄堺BZ)主催、SVリーグのタイトルパートナーである大同生命保険株式会社(以下、大同生命)の共催で行われた。

 大同生命は2024-25シーズンからSVリーグのタイトルパートナーを務めており、地域の方々とつながり、共創しスポーツを通じた地域発展を目的に複数のクラブで地元中小企業・個人事業所の方々を対象にイベントを開催。堺市のイベントには約50社が参加し、東京五輪2020男子日本代表監督で日鉄堺BZ元監督の中垣内祐一氏をはじめ、公益社団法人SVリーグの大河正明チェアマンが講演者として登壇したほか、日鉄堺BZの竹元裕太郎キャプテン、堀江友裕選手、森愛樹選手、チームOBで強化副部長兼GM補佐を務める佐川翔氏も参加した。

 開会の挨拶では、株式会社ブレイザーズスポーツクラブ代表取締役社長の有本亮介氏が登壇。チームの成り立ちをはじめ、堺市、南海電気鉄道株式会社、堺駅前商店会、大浜体育館指定管理者で大浜体育館魅力創出事業実行委員会を立ち上げ、ホームアリーナの大浜だいしんアリーナを中心に地域の活性化に取り組んでいることなどが報告された。

 講演会では、最初に中垣内祐一氏が登壇。中垣内氏といえば全日本男子のエースとして活躍し、日鉄堺BZでも中心選手としてプレー。引退後は指導者として活動していた経歴を持つ。今回は「東京五輪に向けたチームマネジメント」というテーマのもと、自身の経験や日本と海外の指導方法の違いなどを踏まえつつ、企業経営にも通じる講演を行った。

 まず、スポーツに対するイメージや指導法の変化に触れたうえで、日本男子バレーが長らく低迷した理由について言及。「最近の男子バレーは強くなりすごく盛り上がっていますが、なぜそれまでは弱かったのか。はっきり言って、日本にはいい指導者がいなかったことにつきます」と語り、その要因として企業スポーツの構造を挙げた。企業スポーツでは、多くの選手が社員として所属し、引退後は社業に復帰するケースが多く、指導者になってもキャリアを積む機会が限られていたという。そのため、「これまでいい指導者になる可能性のある選手は他社も含めたくさんいましたが、社業に戻ると現場復帰の可能性はほぼなくなる。これが企業スポーツの1つの問題点でした」。結果として、戦術やテクニックなどもガラパゴス化しやすい環境になっていたが、現在では海外から指導者を招聘。活性化していることも伝えられた。

 そして、ここから話はチームや企業を運営するうえで重要なポジションであるリーダー論へ。「良い監督やマネージャーは選手のコントロールに長けています」と、リーダーに必要な10の要素・スキルの中から「選手のモチベーション管理」に焦点を当て解説。指導者が学ぶコーチング理論「PATROL」をはじめ、「『なぜミスしたんだ!』というようなネガティブな表現は一切しないように心がけ、前向きになるような表現をしていくことに務めました」と実践例などを交えながら、選手との向き合い方や指導者としての心構えについて語った。

 講演終盤には、MIT組織学習センターの共同創始者であるダニエル・キム氏によって提唱された「成功循環モデル」をもとに、勝てるチーム作りにおける重要な要素についても紹介。「勝つチームには勝つチームの雰囲気、負けるチームには負けるチームの雰囲気があります。リーダーに必要なことは、まずは勝てるような雰囲気を作ること。それをせず、いきなり結果だけを求めようと思ってもうまくいきません」と話し、企業経営にも通じるヒントを提示した。

 最後に、チームのエグゼクティブアドバイザーとして「ブレイザーズはあまり人気のあるチームとは言えませんが、選手たち、チームスタッフは日本一を目指して日夜頑張っています。堺市民にこれまで以上に愛される、堺を代表するスポーツチームとしてしっかりと頑張っていきたいと考えていますので、今後ともご支援よろしくお願いします」と呼び掛け、講演を締めくくった。

 続いて登壇したSVリーグの大河正明チェアマンは、「『夢のアリーナ』がつなぐ地域コミュニティ」をテーマに講演。「サッカーを中心に、老若男女が集まってコミュニティを作る。スポーツでもっと幸せな国へ」というプロサッカーリーグ・Jリーグの理念や取り組みをベースに、プロチームの在り方やSVリーグが目指す姿を語った。

 「夢のアリーナ」ではプロバスケットボール・Bリーグの事例を挙げながら、アリーナがチームや地域にもたらす効果について紹介。佐賀では県内初のアリーナ施設、SAGAアリーナが完成したことで県が盛り上がり、アウェイからの来場者も多いスポーツ興行などが地域経済の活性化の一助になっていることなどを伝えた。その中で日鉄堺BZが持つ可能性にも触れ、「2022年に初めて観に行ったのが日本製鉄堺体育館での試合で、その時のお客さまは1000人行くか行かないかくらいでした。それが、SVリーグになってから通路に立ち見が出る試合も出てきた。(短期間で)ここまで成長するチームはありません」と称賛。昨シーズンに特別賞「BREAKTHROUGH OF THE YEAR(最も「革新的な変化」を遂げたクラブ)」を受賞したことも紹介し、「日鉄堺BZは大きなコンテンツになってきているので、ぜひ応援をよろしくお願いします」と呼び掛けた。

 講演の締めくくりには、「日鉄堺BZというチームが堺に根付き、選手が活き活きと活躍することで、地域に恩返しをできるような関係を築いてもらいたい。それを全国に広げていくことが、“強く、広く、社会とつなぐ”というSVリーグのミッションである」と力強く述べ、日鉄堺BZにもエールを贈った。

 第2部のトークセッションでは、強化副部長兼GM補佐でOBの佐川氏をモデレーターに、日鉄堺BZの3選手、竹元裕太郎、堀江友裕、森愛樹が出演。長年チームの応援団長を務める熱血スポーツ芸人・なおき氏がMCを務め、「ホームタウン『堺』への思い」をテーマにざっくばらんなトークが展開された。

 まずは日鉄堺BZの印象について。下部組織の堺ジュニアブレイザーズに所属していた堺市出身の佐川氏が「当時、選手たちのことはすごいな、カッコいいなって憧れの選手として見ていました」と話せば、同じく堺市出身の堀江も「小学生の頃、金岡公園体育館によく試合を観に行っていました。いつか自分もここでバレーボールをしたいなってなんとなく思っていました」と地元のバレーボーラーにとって日鉄堺BZが憧れのチームだったことが分かるエピソードを披露した。堺市やスポンサー企業との取り組みについては、「堺まつりなど地域のお祭りに参加させてもらったり、今年はららぽーと堺で行われた堺スポーツフェスティバルにも参加させてもらいました。こういうPRは堺市の協力があってできていると思いますし、集客の効果は確実に上がっています」と佐川氏。また、応援してくれる企業が増えていることにも触れ、「ブレイザーズの輪をさらに広げていけたらと思っています」と意気込んだ。

 さらに、南海電車とのコラボで車両に選手の写真がデザインされたラッピングトレイン「ブレイザーズトレイン」も話題に。「見ることができたときは自分のラッピング写真を撮ります」(堀江)、「南海電車を良く使うので、遭遇したときは『いた!』ってびっくりしています」(森)、「まだ見ることができていないので、いつか見られたらいいなと思っています」(竹本)と選手たちが話す一方、佐川氏は「自分が現役のときにはなかったので悔しいですね」とうらやみ、笑いを誘った。

 最後に、「ホームゲームは日本一だと思いますので、あとはチームが日本一を取るだけだと思っています」(堀江)、「今年は日本一を目標に頑張っていきたいと思います」(森)、「アウェイで開幕2連勝、堺市で2連勝して、開幕4連勝で優勝へのスタートダッシュを皆様と一緒に切りたいと思います」(竹元)と語った選手たち。贈られた大きな拍手を受け、さらに士気を高めたに違いない。

2024-25シーズンのSVリーグトップサーブレシーバーも受賞した森愛樹

 閉会の挨拶では、大同生命の大枝恭子執行役員が登壇。「トークセッションではブレイザーズの魅力と堺への愛を存分に感じました」とチームの取り組みや地元への愛に触れ、「私たちもしっかりとブレイザーズの輪をつなげ、広げていきたいと思います」と支援を約束。来場者にも協力を呼び掛け、イベントは終了した。

 スポーツチームと行政や企業、地元が手を取り合うことで、地域がより活性化されていく——そんな可能性を提示した今回のイベント。日鉄堺BZと大同生命を中心とした地域共創の輪は今後さらに広がりを見せ、堺市の新たな活力となっていくことだろう。