夏場をゆっくりと、リラックスして過ごせたのは13年ぶり。ジェイテクトSTINGSで2シーズン目を迎えたアメリカ代表のトリー・デファルコは、10月25日の開幕に向け、2日に開催された開幕記者会見にチーム代表として出席。アメリカ代表としての活動には参加せずに過ごした、これまでとは異なる充実の夏を笑顔で語った。
「特別何かをするわけではなく、家族と貴重な時間を過ごしてリラックスしました。普段は長い期間をずっとバレーボールに捧げているので、こんなに長いオフを過ごせばバレーボールが恋しくなることもある。(同じクラブでプレーをするけれど)今シーズンは今シーズン、また新しいシーズンとして全力で戦っていきます」
日本でのファーストシーズンとなった昨季は、多くの選手からデファルコの話を耳にした。主張が強く、行動も規格外。さまざまなエピソードは聞けば笑える話だが、チームメイトとして過ごす中では手を焼くこともある。だが、オポジットの宮浦健人やセッターの関田誠大、ミドルブロッカーの髙橋健太郎やアウトサイドヒッターのリカルド・ルカレリ・ソウザなど主軸の選手をケガで欠く中、本来のポジションであるレフトサイドだけでなくオポジットも担ったデファルコは、「これまでで初めて」という経験をした、と振り返る。
「海外でプレーする中で、これほど自分がリーダーシップを取ろうとしたのは初めて。それも、ステップアップにつながる経験でした」
言葉を選ばず言えば、シーズン開幕当初や、自身のパフォーマンスが思い通りに進まない時は外から見ていても明らかに感情を露わにし、それがプレーにも直結しているように見えた。だがオポジットとしてプレーするデファルコは自ら点を取ってチームを盛り立てるのはもちろん、周囲に向けても積極的に声をかけて鼓舞する。
なぜ「今までにない」経験、リーダーシップが取れたのか。たずねると「ケガ人が多かったのは間違いない」と笑いながら、理由を明かす。
「1人や2人ではなく(ケガ人が多くて)人がいなかったので、苦しい状況に陥った状況からチームとして結束するには誰かが責任を持って前に進まなければならない。それが、たまたま自分でした」
デファルコ自身が「初めての経験だった」と振り返る姿を、共にプレーした関田や宮浦も「頼もしかった」と語っていた。苦境を乗り切るための策だったとはいえ、精神面の変化に加え、ほぼ未経験だったというオポジットとして多くの試合に出場したこと。加えて、ブロックだけでなくレシーブ力も加えたトータルディフェンスが優れた日本のSVリーグでプレーしたことで、スキルの幅も広がった、と語る。
「1本では(攻撃が)決まらず、ラリーが長くなる。その中で自分の攻撃、自分が得点する方法を見つけるために、コースやブロックの当てる場所も考えなければならない。その経験も私にとっては非常に大きなものでした」
思わぬ状況の中で芽生えた新たな意識と得た技術。それらをプラスの要素として挙げる一方で、ケガ人が相次ぐ苦しいチーム状況で戦い続ける経験をしたからこその苦言も呈する。
「SVリーグもこれからもっとたくさんの改善点、打開すべきこともあるはず。私にはビジネスの経験はないのでわかりませんが、今はどちらかと言えばビジネスモデルとしてSVリーグは試合数を増やして露出を増やし、ファンを獲得することで利益を得ようとしていると思いますが、選手の立場ではなかなか難しい面もある。特にナショナルチームへ参加する選手は、ナショナルチームでの活動を終えてフルに(SVリーグの)シーズンを戦うのは非常に難しい。とてもハイレベルな、素晴らしいリーグになる可能性があるからこそ、ビジネスモデルとしてだけでなく、選手の日常にも少し、目を向けてほしい、という願いはあります」
選手としての立場で語るべきことを語りながらも、会見後の取材では終始、試合中とは異なる柔らかな表情で応じた。中でも最も笑みがこぼれたのは、昨季まで共に戦った宮浦と今季はオポジットとアウトサイドとしてマッチアップする可能性があることに触れた時だ。
「とてもエキサイトするし楽しみです。ネット際でもきっと楽しい会話を交えながら、勝負することになるでしょう」
宮浦も「負けない」と宣言している。そう伝えると、「それならば」とばかりに宣言した。
「ケント、I’m coming for you!」
ジェイテクトと宮浦が移籍したウルフドッグス名古屋との初対戦は12月6日。少し先の話ではあるが、満を持しての宣戦布告。今季のデファルコ劇場も楽しみだ。
