大同生命SV.LEAGUE(SVリーグ)は10月から2シーズン目がスタートしている。SVリーグは「世界最高峰」を目指した改革を行い、来シーズンからのプロ化も決まった。しかし急速な変化が起こる中で、ファンや選手に「何が起こっているか」「リーグがどういう狙いを持っているのか」が十分に伝わっていない状況もある。
引退した選手も含めてスターの一挙手一投足が頻繁に記事となる一方で、彼らを輝かせるための地味な「土台作り」はなかなかファンに届かない。そこを知ってもらうことで、ファンや選手の不必要な不安やストレスを消すこともできるはずだ。
2シーズン目の開幕とタイミングを合わせて、「チェアマン通信『SVリーグのリアルをお届け』」と題し、バレーボールキングで大河正明・SVリーグチェアマンのインタビュー記事を定期的に発信することが決まった。初回は2024-25シーズンの実績と、今後の経営計画と成長戦略、リーグ戦のタイ開催などについて語ってもらっている。
――チェアマンからファンに対して定期的に発信をするとのことですが、どのような狙いをお持ちかお話しいただいていいですか?
大河 バレーボールは「東洋の魔女」の時代から認知度が高くて、長く応援してくださっているファンもいます。しかし事業として成功してきたか、成長しているかというと違いました。それを引き上げていく意識を持って、私はこの仕事をやっています。
野球もサッカーもバスケットボールも世界で活躍する選手を輩出して、世界ランキングが上がっています。ただ選手やチームだけでなく、事業にもある種の競争があります。その大切さ、内容をお伝えしたいという考えは前から持っていました。ファンはもちろんですが、選手やクラブスタッフ、パートナーや行政の皆さんに読んでいただくことも意識しています。
――今春の試合数問題に対する選手の反発を見ても、「議論の過程、決定が現場に伝わっていない」ところが見て取れました。
大河 2年半くらい前に説明したことが、2024-25シーズンの終盤になって話題になりましたね。サッカーやバスケットボールの運営に携わった経験から、リーグの「(各チームの代表が参加する)実行委員会」「理事会」で決まった内容は、クラブが選手や現場にも伝えている前提を持っていました。バレーボールはまったく違って、それは残念な驚きでした。
リーグ側のガバナンス、組織の問題でもあると思います。今まではシーズンの日程を担当者だけで決めていました。今後は専門家が個別の会議で意見を積み上げるだけでなく、実行委員に共有して実行委員会で諮り、最後は理事会で決める縦のラインをしっかり揃える習慣づけが大事だなと痛感をしています。実行委員でも、担当者会議の内容を知らない人がいて、そこは変えねばなりません。

――情報が実行委員に伝わる、クラブから選手に伝わる、何よりファンにしっかり伝わることが大切ですね。
大河 そうです。そこをやっていくことも僕の役目ですし、この連載の狙いです。今のバレーボール界は、まだ情報がつながれていません。最後のアタックは実行委員や理事かもしれないけど、トスが上がってくるまでの作業がしっかりつながっていないとダメですね。

――まず2024-25シーズンの事業面についてお聞きします、リーグ総収益(売上)が約36億円で、Vリーグだった2023-24シーズンから大きく伸びています。
大河 (2023-24シーズンの)V1に比べると約4倍の伸びを見せています、パートナーからの協賛金、放送配信権料が大きく伸びました。2年前に「V.LEAGUE REBORN」を作ったときは、最初のシーズンは20億くらいの予算を立てていましたが、それを大きく上回る成果です。
――もっとも額が多いのはパートナー収入だと思いますが、そこはいかがでしたか?
大河 10億円は何とか集めたいと思っていたのが、大きく超過達成しました。2025-26シーズンからはオープンハウスグループさん、コーセーさん、それから(床材の)クリヤマジャパンさんが入ります。まだお知らせできませんが、他にもいくつか「種」はあります。
――プロリーグとして大切になるのが、リーグが事業収入をクラブにしっかり「還元」することです。各クラブへの配分金はどうなっていますか?
大河 2024-25シーズンから収入36億円のうち、配分金と賞金で合わせて6億円程度をクラブに還元しています。賞金を除く配分金は、1クラブあたり平均2000万くらいです。リーグの優勝賞金は男女とも3000万円で、今までよりは格段に増えています。ただBリーグの年間優勝賞金は5000万円、J1の優勝賞金が3億円ですね。
売り上げの増加はクラブに還元する部分、内部に投資してSVリーグ全体を大きくして、クラブに間接的に還元する部分と、この2つで考えています。

――リーグが稼いだとして、選手やファンにどういうメリットがあるのか、そこも伝わっていない印象もあります。
大河 現在リーグが取り組んでいるのはチケットシステムとリーグ共通ファンクラブシステムの整備です。大阪や愛知にお住まいのファンには特定のチームだけではなく、2チーム3チームを観戦されている方も多くいらっしゃいます。今シーズンに取り組んだシステム構築で、一つのID で様々なチームのチケット購入ができるだけではなく、複数のチームのファンクラブ入会やファンクラブ会員向けのチケット先行販売・優待販売等のサービスをご利用いただくことができるようになりました。
もう一つは試合中のファンに向けたサービスとして「バレーボールステーション」を導入しました。スタッツデータを整理して表示しやすくなって、試合中にローテーションをビジュアルにしてビジョンで見られる試合もあります。
さらに言えばリーグの収入が増えることでクラブへの分配金が増え、ひいては選手の報酬が増えるという面もありますね。Bリーグのときもそうでしたが、導入時のトラブルはあって、ご迷惑をかけているところは確かに多いと思います。将来的にはバレーボールに関する様々なチケットを同じプラットフォームで購入できる状態にできれば、ファンの皆様にもメリットが出る仕組みになると考えています。
――経営計画についてお聞きします。リーグとSVリーグ全クラブの売り上げ合計は2024-25シーズンの見込みが249億円です。今後の目標は27-28シーズンが350億円、30-31シーズンは500億ですから、かなりの成長を見込んでいます。どう収益を増やしますか?
大河 リーグとしては、まず協賛パートナーを増やしていくことが一つです。さらに今季から始まるVBTVでの全世界対象の配信には期待しています。日本の放送配信権料は海外に比べて安いと言われていますし、バレーボールもサッカーやアメリカの四大スポーツに比べると低いことは確かです。
ただバレーボール界全体が世界でビジネスチャンスを掴み、我々が世界最高峰のリーグとして世界中のトップ選手を集め、それにより海外での放送配信権料をまず増やしていくところは目指しています。
2030年まで視野に入れると、スポーツの「コンテンツホルダー」としての深堀りを狙っています。現状はチケット収入、放送配信権料、パートナーからの協賛金、グッズと決まった収入が大半ですが、実は「その周り」には大きなポテンシャルがあります。他の会社と一緒に出資して会社を設立する、投資して違うビジネスをやる発想です。
スポーツテック関連でもベンチャーの会社は結構あるのですが、技術はあっても資本力がなかったりします。まだ具体的な話まではできませんが、SVリーグが一定の金額を出資して、その会社の技術力と我々のコンテンツ力を掛け合わせるイメージです。
例えばリーグが映像制作にも関わった方がいいだろうと思います。スポーツツーリズムであれば、外国には旅行代理店を持っているリーグがあったりします。どういうところが投資対象になるのか、今まさに選定するような作業を始めようとしています。そのようなことで、売上を増やしていきたいと考えています。
――となると社団法人と別に、傘下の会社を設立するべきかもしれませんね。
大河 サッカー、バスケットボールはリーグとしての社団法人と別に事業会社を持っていますが、SVリーグはありません。これは2026-27シーズンくらいを念頭に置いて、そもそも設立するのか、設立するならどういうビジネスをやっていけばいいのか、慎重に議論を進めます。
またそういうビジネスをやろうとすれば、投資銀行や証券系の人材を探す必要が出てきます。既存の報酬体系にとらわれず、成功報酬を出すような仕組みも必要かもしれません。議論と決定はこれからですが、そういうことは成長の手がかりとして考え始めています。
――海外の放映権について言うと、「何十億円」というリーグの経営にインパクトの出る金額は取れないと思います。
大河 「海外の放映権料が2030年にどこまで行けそうかな?」と考えたときに、感覚的には10億円台に乗っかってくれば、大きなステップアップと言えるだろうとは思います。
タイで公式戦を行うプランは、まずSVリーグの認知度を上げることが狙いです。タイとベトナムは、観るスポーツとしての人気はバレーボールはサッカーに次ぐ2番目だそうです。タイだけで100億円くらいサッカーのプレミアリーグに(放映権料として)流れているという話を聞いたことがあります。SVリーグがいきなりそのレベルに到達することはありませんが、まず「このコンテンツに価値がある」と感じてもらうことが必要です。
日本代表の髙橋藍(サントリーサンバーズ大阪)や石川祐希(ペルージャ)は知られています。SVリーグの女子はタイ代表選手がかなり日本に来ていますから、それを見たいファンはいるでしょう。ヴィクトリーナ姫路が2年前にV2に降格したとき、(V2は公式配信がなかったため)独自でYouTubeの無料配信を実施したら、タイではその試合を20~30万人見ていたそうです。有料になるとどうなるかはわかりませんが、認知度は既にそこそこあるので、多くの方が視聴する可能性はあります。
他にも台湾、フィリピン、インドネシア、ベトナムは狙っていきたいし、意外に(データ的に)跳ねているのがブラジルです。女子ならロザマリア(・モンチベレル/デンソーエアリービーズ)、男子も(リカルド・)ルカレッリ(ジェイテクトSTINGS愛知)がいますから。

――タイで公式戦を開催する話が出ましたが、どのような枠組みですか?
大河 男女2チームずつで、週末に2試合ずつを想定しています。1万近く入る施設でやりたいと考えていますので、世界選手権があったような会場を中心にリサーチしているところです。男女が同じ会場で、別々の日にやる想定です。まず会場を確保する作業は必要ですが、タイで試合をやりたいチームをSVリーグの中で公募するつもりです。
ただ審査するのはリーグ側です。タイに親和性のある責任企業会社、選手といった要素で考えます。例えば大阪ブルテオンのように3年連続タイで試合を行っている実績があるクラブも有力になりますね。
また、興行の座組も検討しています。リーグが主管で進めた方がスムーズかもしれないとは考えていますが、どのような形でもチーム側への負担は最小化したいです。
――2シーズン目を迎えて、各クラブの取り組みはどうご覧になっていますか?
大河 男子の入場者数は劇的に変わっていて、それが数字にも反映されています。昨シーズンの平均観客数は男子が3,125人ですが、2022-23が1,431人で、2023-24が2,180人です。最初は「Bリーグを作ったやかましい奴が来た」という煩わしさもあったと思いますが、試合演出、チケッティングといった取り組みは徐々に進んでいます。
例えばホームアリーナが小さい、定まらないといったご苦労をされているクラブもあります。例えばVC長野トライデンツさんはシーズン途中まで平均1,200〜1,300人だからどうだろう?と少し心配していました。でも現場に足を運んだら盛り上がっていたし、エア・ウォーターアリーナ松本の改修が済んで4月に行った試合は連日4,000人近く入っていました。
SVリーグにJリーグのビッグクラブから採用したスタッフがいます。彼に当該クラブのマーケティングが百点だとしたら、SVリーグのクラブは何点?と聞いたんです。そうしたら「それ以上にやっているクラブがありますよ」という答えでした。SVリーグはまだまだ発展途上ですが、リーグやクラブのスタッフは本当に頑張ってくれていると思います。
取材・構成:大島和人




