スタンドから沸き起こった“法政コール”と“専修コール”が、セットを追うごとに加熱していく。12月4日に行われた全日本インカレ男子3回戦・専修大学対法政大学戦はフルセットの大激戦となった。
大会連覇を狙う専修大のエース甲斐優斗と、法政大のエース高橋慶帆。日本代表に名を連ねる同世代の大砲が迫力のある打ち合いを繰り広げた。甲斐はSVリーグの大阪ブルテオン、高橋はフランスリーグのパリ・バレーでシーズンを送っており、大学に合流したのは大会直前だが、その力を存分にぶつけ合った。
法政大は高橋だけでなく、スパイカー陣がそれぞれに躍動。川波颯(4年)のサービスエースなどで流れを掴み、1、2セットを連取した。しかし追い込まれた専修大は第3セット以降、甲斐が本領を発揮すると、周囲も勢いづいて2セットを取り返し、フルセットに持ち込んだ。第5セットは法政大がリードするが、専修大はブロックで逆転。終盤は甲斐のスパイクで得点を重ね、マッチポイントを握った。最後は、高橋のサーブがネットにかかり、専修大が15-12で勝利した。
高橋は試合後、涙を流すチームメイトに1人1人言葉をかけ、自身もそっと離れてユニフォームで涙をぬぐった。
「言葉にするのはちょっと難しいんですけど、まずは悔しさが込み上げたというか……」
しかし少し時間が経ち取材に応じた時には、「プロとか、代表でやる時とはまた違った雰囲気で、本当に楽しくプレーができました」と晴れやかな表情で語った。
チームにミスが出たり、周囲が判定に対して熱くなっても、高橋は常に穏やかな笑顔で周りに声をかけ続けた。限られた一瞬一瞬を大切に、いい記憶として刻もうと努めているかのようだった。
甲斐と対戦できる喜びも噛み締めていた。公式戦で2人が対戦するのは初めてのことだ。
「いやーもう楽しかったですね。本当に楽しかった。優斗はライバルというよりは、お互いに尊敬しあっているという表現が一番近いのかなと思う。同年代で高校時代からやってきて、U-20だったり、代表で一緒だったんですけど、今回初めて対戦して、改めて、優斗が相手にいる時の怖さというのをすごく感じる試合だったなと思います」

高橋は、昨季に続き今季もパリ・バレーでプレーする選択をし、9月にパリに渡ったが、最後の全日本インカレには出場すると最初から決めていた。
「まずは自分が成長したい、日本代表でしっかり結果を残せるようになりたいと考えているので、今季はできるだけ早く(パリに)合流して、レベルの高い環境でやることにしました。ただ、自分がこうしていろんな活動、例えば代表活動や、クラブチーム(2年時のジェイテクトSTINGS愛知、3、4年時のパリ・バレー)に所属するという挑戦を許してくれたのが法政で、自分がやりたいことを思うようにやらせてくれたので、最後は、4年間一緒にやってきたメンバーもいる大学で、しっかりいい形で終わりたいなと思って帰ってきました」
帰国したのは大会直前で、4日間ほどしか一緒に練習できなかったため、最初はコンビが合わない場面も多かった。
法政大のセッター五十嵐健人(4年)は習志野高校時代から高橋とコンビを組んできた。だが、「慶帆が帰ってくると聞いてから、自分の中で彼をイメージしながら練習はしていたんですけど、ちょっと違っていた。彼がパリでやっていたトスのスピードが予想より速かったので、それに合わせるのはちょっと苦労しました」と五十嵐。
それでも試合を追うごとに息が合い、3試合目となった専修大戦では、高橋は羽ばたくような伸びやかなフォームで、高い打点から次々にスパイクを決めた。甲斐が「彼(高橋)のほうがスパイクの部分ではすごくよかったので、一対一の勝負だったら、今日は自分は負けたかなと思います」と語ったほど。
五十嵐は大学卒業後は9人制バレーに進むため、高橋と共にプレーするのは今大会が最後。「彼とはもう違うステージになってしまうので、この大会ではしっかりやり切って、2人でいい思い出にできたらなと思っています」と語っていた。
高橋にとっても五十嵐はかけがえのない存在だ。
「五十嵐とは高校からずっと一緒にやっていて、プライベートでもめちゃめちゃ仲がいいんです。彼は、フラットに見てくれるというか。どんな時でも冷静ですし、表情も変えない。それがいい時も悪い時ももちろんありますけど、高校からずっと培ってきたコンビなので、それが今日で終わってしまったことはすごく悔しい、というのが正直な感想です。
帰国してから時間もなかったし、ちょっとトスも速くしていたので、最初はコンビが合わない部分もありましたけど、やっぱり信頼関係がある仲なので、悪い時も声を掛け合って、すぐに修正して、ということができた。試合を重ねるにつれて、コンビはどんどん精度が上がっていったなと感じました」
最後の試合を終えた後は、「7年間、トス上げてくれてありがとう」と感謝の思いを伝えた。
大学バレーを終えた高橋は、感慨に浸る間もなくパリに戻り、またストイックに自分を磨く。
「これからはもう学生ではなくなる。今自分が抱えている課題をしっかり克服して、海外の厳しい環境で自分を鍛え抜くことを第一にやっていきたいなと思っています」
五十嵐は、「もう一緒にプレーすることはないけど、外から応援します。頑張ってほしい。期待しています」とエールを送る。そして、「これからも休みが合えば、一緒にご飯行きたいな」とも。
これからも変わらぬ親友。気心の知れた仲間に背中を押され、高橋は世界に羽ばたいていく。




