今年8月に福井県で開催された「第54回全日本中学校バレーボール選手権大会」は女子の金蘭会中学(大阪)が史上初の5連覇を達成して幕を閉じた。
今年も、だった。決勝では3年連続で、第1セットを相手に先取されてからの逆転勝ちである。2022年の第52回大会は府内のライバルである大阪国際中学との“最終決着”の場で3年生が奮い立ち、翌2023年の第53回大会はフィジカル面や選手個々の能力において圧倒的に上回る北沢中学(東京)を相手に持ち前の粘りとチームワークでひっくり返した。
2セット先取の中学バレーにおいては、第1セットを奪われるだけでスペクタクルな展開と言えるわけだが、その2大会と比べると今年はどこか違って見えた。もちろん、佐藤芳子監督はチームに勢いをもたらそうと試合中も全身で感情を爆発させ、応援団は和太鼓を軸とした熱気あふれるコールで会場を支配する。けれどもコート上にいる当の選手たちは、決して焦ることも混乱する様子もなく、試合を進めていた。
そもそも今季は、佐藤監督の表現を借りるならば「まとまりがいい」チームだった。特に中心となる3年生たちは部活動でも学校生活でも問題を起こすことも、人間関係がぎくしゃくすることもなかった。「精神的に大人だった」(佐藤監督)ことでチームづくりは順調に進んだ。
だが、戦力でいえば決して「強い」とまでは断言できなかった。ドング礼楽と山中凛音の両アウトサイドヒッターはアタック力が突出しているわけではなく、一方でレシーブ力が抜群に安定しているかと言われれば、そうではない。キャプテンでセッターの吉田和桜、2年生リベロの小野花結は比較的能力は高かったものの、総合的には「去年と同じくらいの戦力」と佐藤監督の目には映っていた。
それでも大会を1週間後に控えた頃、佐藤監督にチームの出来を聞くと、きっぱりと答えた。
「このメンバーであれば、これ以上はない、という具合までには仕上がりました。練習も集中して取り組めています。どこかの相手に何かでやられて負ける、ことはない。仮に負けるとすれば、自滅でしょうね。実際に近畿大会の準決勝ではセットを落としかけたのですが、そこではサーブミスなど細かいミスが続いていたんです」
金蘭会中学は日頃の練習から細部にこだわっている。攻撃にしても守備にしても、例えばアタックでいえばiPadで映像を撮り、各自が自分のフォームを細かく確認する。どこかうまくいかないのであれば、その原因を追求し、時にはチームメートどうしで指摘することもいとわない。
戦術に関していえば、同時多発攻撃やスピード感あふれるコンビバレーを繰り出すわけではない。的確にサーブを打ち、サーブレシーブでもディグでもしっかりとボールを拾い上げ、ブロックフォローやカバーリングに包まれながらアタックを打つ。いたってシンプルだ。
そのうえで今夏、全国大会に臨むにあたって最後に加えたエッセンスは何だったのか。大会を前にキャプテンの吉田はこう語っている。
「最後は、信じてやるしかない、と。私の場合は近畿大会で練習してきたことを発揮できなかったので、これまでの自分を信じることを。チームでいえば、仲間の全員を信じて、協力しながら戦えたらいいなと思うんです」
いざ大会本番で、チームは順当に勝ち上がっていく。この1年間、目標を掲げる中で「全中5連覇」という単語が出てこないわけではなかったが、それでも「このチームでタイトルを目指すのは、この一回きりなので」(3年生ミドルブロッカーの渡辺夏々香)と、この1年間の集大成を福井の舞台で披露する。
名門・諫早中学(長崎)との決勝では相手のブロック&レシーブを前に決定機を奪えず、逆に、レフト、ライト、センターエリアのどこからでも繰り出される攻撃に苦しんだ。セットを落としたことに少なからずの焦りは生じる。けれども、「第1セットを気にしないことも大事ですが、それよりも相手の特徴や傾向など2セット目以降に活かせる部分があったので確認することを。それに『仲間を信じて』という言葉も聞かれました」と吉田キャプテン。セットを重ねるごとにボールを拾いあげる回数も、スパイクを決めきる場面も増えたドングも「信じるよ。自分を信じるよ!!」と声を張り上げた。聞くに、大会直前に設けたミーティングのテーマは「信じる、ではなく、信じきる」。その思いを胸に、選手たちは戦っていたのである。
フルセットにもつれた最終第3セット。21-17とやや点差が開き、相手のタイムアウトが明けると、コート上では山中がメンバー一人一人をそっと抱きしめていた。これまでには見られなかった光景だった。
「この試合が最後やから。今までやってきた仲間を信じて、絶対に最後までやろうと思っていました」
優勝に酔いしれた試合後、山中はそう明かした。それは、“信じきる”という彼女なりの意思表示であった。
「あの場面で、ああいう表現が出る。それも、この1年間でいちばん叱られていた山中が、というね。その姿を思い返しただけで、ぐっときますね」とほほえんだ佐藤監督に、結果ありきで無粋と思いながらも、ぶつけてみる。
監督自身は選手を信じきっていましたか?
「もちろん。とはいえ勝っても負けてもどちらでも受け入れられるという気持ちはあるんですよ。ただ大事なのは、負けないための準備はしてきた、ということ。彼女たちが『やる!!』というのは分かっていますから」
これまでの直近4大会も、過去7度の優勝も、チーム内ではお互いがお互いのことを信じていた。その信じることの熱量が、いつも以上に高かった。それが結果として、前人未到の偉業につながったのである。