ネーションズリーグでは随所で存在感を発揮した井上愛里沙 ©Volleyball World

 今年4月5日、女子日本代表のシーズン開幕記者会見で井上愛里沙の言葉からは高揚感がうかがえた。

「今シーズンも始まったなぁ、と。この半年間、所属チームで過ごした時間がほんとうにあっというまに感じます。パリ五輪予選で負けたあの日が昨日のようによみがえってくるんですよ。悔しさもありますが、『もっともっと頑張りたい』という気持ちが強いですね。こうして代表にきて、みんなの顔を見ると、ふつふつと湧き上がってきました」

 昨年のパリ五輪予選/ワールドカップバレー2023でブラジルに敗れて出場権を獲得できなかった10月8日からの半年間を、井上は“あっというま”と表現した。

「どうしてなんですかね(笑) クラブシーズン中は個人的にコンディションを整えたり、十分に強化できない期間もあったのですが、やるべきことはどこにいても変わらない、日本代表で通用するプレーをするんだと常に頭に入れて練習していたので、もしかしたら早く感じたのかもしれません」

 充実したものだった?という問いかけにうなずく。しっかりと準備を整えて代表シーズンを迎えたのが見てとれた。たとえ、どんな場所でも。井上は“やるべきこと”“やりたいこと”をぶらさない。

 これまでの歩みを振り返ると、2022/23シーズンはかねてから憧れを抱いていた海外挑戦を選び、フランスリーグでプレーした。そうして2023年度の代表活動を経て、次に選んだのは国内リーグ。ヴィクトリーナ姫路に入団するわけだが、チームは23-24シーズンをV2、いわゆる2部リーグで戦うことになった。そこではどうしても相手の高さやレベルが海外と、さらにはV1といったトップカテゴリーに比べると劣るのは間違いない。それでも、井上は自身のレベルアップと向き合っていた。

「総じて日本のチームは技術が高いですし、質にこだわることはチームとしてもそうですが、個人的にもできることを。例えばサーブに関していえば、相手どうこうではなく自分一人の時間なので、それはV1もV2も関係なく磨くことができます。特に競っている場面や劣勢の状況など自分の心拍数が上がって、きついときこそ、いかにミスなく効果的なサーブが打てるか。日々トライしていこうと考えていました」

 サーブはバレーボールのなかでも個人技にあたる。では、アタックは。それこそ、その難易度は相手によって左右されるわけだが…。

「フランスにいたときはずっと高い相手と戦っていたので意識できていましたが、国内になると相手の高さも違うので、難しい部分ではありました。ですが、自分たちのほうが身長が高いからこそ、相手はこうやって点数をとってくるんだ、と学べましたし、それはよかったなと思います」

「私自身は相手ブロックが低くても、ボールを打ちつけないことを意識していました。なるべくブロックにかからないように、目標を被ブロック0に置いて。また、何も考えずに決まっていたようなアタックでも、少しリスクを負って、点数の取り方の幅を広げる。攻撃の引き出しを意識して、練習中から試合に臨んできたので、それは代表にもつなげられるかなと」

 そう話すようにスキル面を磨き続けたわけだが、同時に、自身なりのリーダーシップをこの半年間、胸に留めていたふしがある。

 昨年末の皇后杯全日本バレーボール選手権大会で、試合後にテレビからのインタビューを受けた際のことだ。「V2でも日本一になる、ということをしっかりと証明して。チームを導けるリーダーに、なります」そのコメントで締めたわけだが、最後に一拍置いて、「なります」と言いきったのが印象的だった。その理由は――

「日本代表でメンタルトレーナーかた『なりたいと思います』では願望が絶対に実現しないと教えていただいたんです。それからは『勝ちたい』ではなく『勝つ』と断言するようにして。どうしても私はネガティブになりがちなのですが、そう口にすることで自分の精神状態もポジティブに切り替えて、保つことができています。

 それにパリ五輪予選では自分がチームを引っ張っていくという精神力、気力がないと戦いきれないと感じました。キャプテンの古賀紗理那選手は周りを見て、指示を出しているのがほんとうにすごいなと感じますし、その姿を見て吸収しつつ、自分なりにチームが苦しい場面でこそ、どうやって勝たせるかを想定しながら、チームに対して声がけをしていく。そんなリーダーになるんだと描いています」

 そう自らに課した井上だったが、肩書きはキャプテンやリーダーではなくとも、その気迫あふれるプレーは確かにチームに流れをもたらす。パリ五輪予選や今年のネーションズリーグでも、アタックに加えてフロアディフェンスでは体を投げ打ってボールをつなぐ姿があった。

「点数を取ることでチームに勢いをつくと思っていたので、とにかく上がってきた1本目から決めるつもりでコートに入りました。それにディフェンスができていなかったので、死ぬ気であげようと思ってボールに食らいついていました」

 そうした姿勢もまた、彼女なりの“自分がやるべき”ことなのだ。

 パリ五輪のメンバー発表会見の取材で「バレーボール人生の集大成として、すべてをぶつけたい」と口にした井上。落選した東京2020大会からの時間で身につけたものは数知れず。それらすべてを、パリの舞台で。