10月19日、豊田合成記念体育館エントリオでは試合前のイベントで“開幕宣言”が行われた。2024-25 大同生命SVリーグを戦う男子のウルフドッグス名古屋にとっては、これが今季のホーム開幕戦。そこで、チームを運営するTG SPORTS株式会社の横井俊広代表取締役社長(SGM)がファンを前に「GO! WOLFDOGS!」と高らかに宣言するのが毎年の恒例行事となっている。
WD名古屋といえば、2019年に前身の「豊田合成トレフェルサ」から現在の名称へ変更した過去を持つ。地域に根ざした活動を推し進めるバレーボール界に先んじて起こしてきたアクションやその舞台裏、そして、この先のビジョンを横井SGMに聞いた。(取材日:9月5日)
――2019-20シーズンから「ウルフドッグス名古屋」に名称を変えて、今季で6季目を迎えました。あらためて、そもそもの経緯から聞かせてもらえますか?
横井SGM「元々は、リーグ自体が事業化を推し進める2018-19シーズンからの“新リーグ構想”(SVリーグの前身「V.LEAGUE」)が背景にありました。私どもも2015-16シーズンのリーグ制覇を踏まえて、今後はさらにバレーボールを盛り上げていきたいという思いを持っていましたし、そこで新リーグ構想における『運営会社を立ち上げること』そして『自前のアリーナを保有すること』に着手したわけです。ただ実際、エントリオに関しては2016年頃から社内には相談していました」
――1961年から始まった歴史あるチームが名称を変更する。大きな決断だったと想像しますが…
横井SGM「地域の皆さんに支えていただき、愛されるチームになりたい思いがある以上、運営するうえでは『豊田合成』という企業名を冠するのではなく、やはり地域の方に応援していただきやすいという観点が重要でした。また、チームが企業主体から地域のクラブに変わったのだ、と分かりやすく示す狙いがありました。ですから、名称を変更することにはまったく抵抗がありませんでしたし、当初からそのつもりでした」
――そうして決まったのが「ウルフドッグス名古屋」でした
横井SGM「チーム名に関しては公募で行い、300件くらいの候補がありました。かっこいい名称をたくさん考えていただきましたが、著作権や知的財産権などを踏まえると、使える名称はほんとうに少なかったんですね。さらには『これ、いいね』となっても、調べたら同じ名称のスポーツチームがあるといったケースも。そのなかで、“ウルフドッグ”というオオカミと犬のハイブリッド犬種がいる、さらには3メートルの跳躍力を備えた個体であり、バレーボールチームにふさわしいという点から最終的にウルフドッグスに決まりました。
ただ、それ以上に悩んだのは地域名の部分でしたね。実際にチームの活動拠点(稲沢市近辺)は、尾張地区に該当するんですね。なので当初の案としては、『ウルフドッグス尾張名古屋』もあったんです。今秋に名古屋市とのホームタウン協定が実現しましたが、それまでは地域の方々からすれば『どうして名古屋なの?』という思いを持たれたかもしれません。ですが、どうしても名称が長くなってしまうので『ウルフドッグス名古屋』にしたわけです。とはいえ尾張地区には名古屋も含んでいますし、私個人としては今も“尾張名古屋”の気持ちでいます」
――愛知県内とくに名古屋には、サッカー・Jリーグの名古屋グランパスエイトやプロ野球の中日ドラゴンズなどの大きなプロスポーツクラブがあります。地域性を打ち出すうえで、それらは難しさにもつながったりしたものですか?
横井SGM「難しさはあるとは思います。ですが、それらのチームとはエリアが異なりますし、私たちはインドア競技です。時期に関しても、今後はJリーグが一部重なるようですが、野球は年間でもシーズンが真逆ですからね。それほど無理があるとは考えていません。加えて、我々の尾張地区ではそれほど目立ったスポーツクラブがあるわけではないので、それほど障害にはならないのかなとも。ただ、やはり街中を歩いていると、グランパスやドラゴンズは地域に根強く浸透していますよね。小学生でもドラゴンズのキャップを被ったり、ランドセルのカバーがグランパスだったりしますから」
――WD名古屋も地域に根ざした活動を進めてきたと思います
横井SGM「我々も(チームマスコットの)ウルドくんと一緒に小学校での挨拶運動へ出向いたり、毎週木曜日にはエントリオ近辺の清掃活動を行っていくことで徐々にチームの存在やウルドくんの知名度が上がっていると感じます。それこそ2019年の名称変更とともに、そうした活動に着手したわけですが、その当初から比べると地元の方々とのつながりは増えています。たまに街中で『横井さんですよね?』と声をかけられることもあるので、こちらとしては気が抜けないのですが(笑)。
そうしたことも含めて、地域との接点はとても増えているのかなと実感します。ただ、『ウルフドッグス名古屋=バレーボールのチーム』で『国内リーグで優勝を争っている』というところまで一般的に知れ渡っているかどうかで言えば、まだまだ浸透していないのが正直な感触です。なんとなく『ウルフドッグスってあるよね』と見聞きしていても、私たちが実際にどんなチームで、どんな取り組みをしているかまでを理解していただけているという点では少数だと思いますね」
――それでもホームゲームを始め、ファンの方々の熱量や人気の高まりは感じますか?
横井SGM「それはもちろんです。ファンの方々にはいろんなタイプがいますし、とても熱狂的に選手を応援しに来られる方々の熱量は年々高まっています。同時に、ファミリー層や少し年配の方々の層も当初に比べると確実に増えています。特に昨季の終盤は小さなお子さん連れのご家族の姿を会場で多く見受けました。それはチームのバレーボール教室や、ウルドくんを介したふれあいイベントなどでのつながりが生んだ成果だと感じています」
――WD名古屋になってから、SNSやYouTubeでのオリジナル企画、選手の発信などに力を入れている印象があります
横井SGM「なかなか私のような世代はそういったことに長けておりませんので、チームとしてもまだまだ発信力は弱いと感じる部分です。もっともっとやれることだったり、私たちに注目してくださる方々が求めていらっしゃる情報はあるはずで。その点で、最近は『ウルドわいわいパーク オンライン』というコンテンツをスタートさせました。その中にはインターネットラジオの機能もありまして、実際に選手やチームスタッフが登場して対話するような番組を展開しています。
ただ、それはおそらくすでにチームのことを知っている方々が興味を持って聴いてくださっているはず。反対に、私たちのことをまったく知らない層にどうやってアプローチするか、そこに対する発信は課題だと感じています。オウンドメディアについて客観的な評価指標があるわけではないですし、周りが“まだまだ”と口にするからこそ、運営側もまだまだと思って取り組んでいる状態なのが正直なところ。SNSのフォロワー数やいいね!の数を見れば確実に増えてきている実感はありますし、決して何もやっていないわけではありませんが、今後は無関心層をいかに引き込むかも大事になってきます」
――昨年秋にSVリーグ創設が発表されました。チームとしては、すでに取り組んできたことも含めて、競技力の強化、ホームゲームの集客、チームの運営…など、どこに着手しましたか?
横井SGM「SVリーグが始まるということで、チームとしても“変わったね”と思っていただけるようにせねばと考えました。ですから、おっしゃられたすべてにおいて変化を施した、というのが答えになります。
とりわけホームゲームや試合会場にお越しいただいたお客さまには、日常を忘れて『見にきてよかったな』と思ってもらえるレベルを少しでも高くしていきたいと考えています。なかには遠方から時間とお金を使ってお越しになられている方々もいらっしゃるわけですからね。少しずつ着手しているつもりではありますが、そうした満足感をさらにレベルアップさせて、そう感じてもらえる人たちの割合を増やしたいです。
その一方で、『クラブとしてどうあり続けたいか』というチームのコンセプトはSVリーグになっても変えるつもりはありません。そうは言っても、いつまで継続できるかという試練にやがて直面するかもしれないですが、スローガンの『DARE TO CHALLENGE』のとおり、“成長するための挑戦を続ける”クラブでありたいです」
――監督やスタッフ、選手たちの口からも常々「成長する」という言葉が聞かれるのが、WD名古屋の印象です
横井SGM「例えば選手を獲得する際も、決して高校や大学でトップでなかった選手だとしても、私たちのチームに入ることで成長して、それがみんなの力となってトップになればいいと考えています。選手一人一人がここで成長する機会を見つけて、自分なりの目標をつくって、そこに向かって成長していく。それがチーム力につながるわけです。
スター選手の集団ではなくても、最後は総力で戦い抜くことを目指す。それにスポーツの戦いには必ず勝敗がつきますし、トップに立てるかは相手次第でもあるわけですが、少なくともトップ・オブ・ザ・トップに相当する力をつけたい。そのために日々、切磋琢磨して、チャレンジして、己を高めていく。そんなメンバーが集まるチームであり続けたいですし、その部分は変わらない、いえ、変えたくありません。
常に昨日よりも今日を、今日よりも明日をもっともっとよくしていく。“永続的な改善”は、(豊田合成のさらに母体である)トヨタグループにおいて現場に根付いた文化でもあるんです。少しずつでも改善することで、よくなっていくことを永久的に続ける。だから、ゴールがないんですよ。トップ・オブ・ザ・トップが終着点ではない。チームだって、試合に勝っても、優勝しても『まだまださらにこれができるじゃないか』と求めていくわけです。試合は結果を得ることの一つに過ぎないですし、その時点で相手を上回ったとしても、そこで私たちが歩みを止めることはない。SVリーグになっても、みんながそういう思いで戦っています」
――外国籍選手や国内移籍組など新しい顔ぶれで臨むシーズンになります。
横井SGM「対戦相手を見れば世界中のすごいスター選手が来ているので、今言ったことを続けられるかどうか…が私の本音になるかもしれませんね(笑)。ですが、やれる限りのことはチームとしてもやりたいと考えています。
それに今季は、私たちのスローガンに共感してくれた選手が集まってくれました。国内移籍の深津英臣や渡辺俊介、昨季途中加入の上林直澄だって『ここでチャレンジして、自分をさらに高めていきたい』と考える面々です。また、ニミル・アブデルアジズやティネ・ウルナウトもそういうタイプの選手です」
――2024-25シーズンをどのような気持ちで迎えますか?
横井SGM「私自身は、この先もチームが日々進化していくと確信しているので、そこに心配やプレッシャーはないんです。どこまで戦えるか、結果を残せるかは、もちろん相手次第なので。もちろんチームが成長した先に、トップで争えるレベルになるだろうという予感がありますし、最初はうまくいかないかもしれませんが、必ず修正できるはずなので。
私の立場だと本来は『優勝だ!!』と言わなければいけないのかもしれませんが、実際に戦うのはチームなので。それに、選手たちが『このチームでこれだけ成長できた』と自分の目標をさらに突き抜けられた実感を覚えてくれたら、私としては嬉しい。優勝したいですし、もちろん優勝すべきですよ。たくさんのファンやスポンサー企業にご支援いただいているので、最高の結果で恩返しがしたい。ですが、それだけではないと私は思うわけです」