日本代表の壮行会で爆笑をさらった甲斐優斗 [写真]=金田慎平

 大胆であるか、些細なことであるかに限らず、確かな変化を見せる選手は、面白い。

 男子バレー日本代表の1年を振り返れば、幾多もの“変化”があるが、最も象徴的な“変化”に加えて“進化”を遂げた選手をあえて1人挙げるならば、きっとこの人ではないだろうか。

 甲斐優斗、20歳。

 昨年9月25日、五輪予選の開幕が直前に迫る中でのカナダとの親善試合がちょうど20回目の誕生日。試合を終えたばかりのコートで派手な装飾をまとい、笑顔で祝福に応じる。日本代表に選出されたばかりの「少年」の名残が消えなかった。

 だが今はどうか。

 主要国際大会では実に47年ぶりとなる決勝進出を果たし、銀メダルを獲得したネーションズリーグ。日本にとって初戦のアルゼンチン戦からスタメンで出場すると、2mの高さを活かした攻撃だけでなく、サーブレシーブやブロック、サーブでも随所でチームを盛り立て、3対1での勝利に大いに貢献して見せた。石川祐希、髙橋藍を欠いたブラジルラウンドは、アルゼンチン戦のみならず、甲斐がスタメン出場を果たして活躍する姿に日本のみならず世界が驚愕した。

相手よりも高い打点からスパイクを放つ甲斐優斗 ©Getty Images

 さらに驚かされたのは、スタメンではなくリザーブで出場した福岡・小倉ラウンドで見せた姿だった。試合開始直後から、アップゾーンでチューブや棒を使い、スクワットや腕立て伏せをしながら方や股関節周囲、背中にも刺激を加える。

 いつ出番が来てもいいように、いかなる時も準備するのは当然だろう。そう見る声も少なくないことはわかったうえであえて言うならば、昨年までの甲斐は違った。アップを始めるのはセット終盤。五輪予選と専修大での全日本インカレを終え、フランスリーグのパリ・バレーでのプレーが決まった時も、日本代表の伊藤健士コーチは冗談交じりにこう言った。

「甲斐は全然準備しないですから(笑)。パリ・バレーで宮浦(健人)の姿を見て、途中から出る時でもこれだけ準備をするから、ああいうプレーができるんだ、というのを学んでほしいんですよ」

 手本と名指しされた宮浦も同様だ。パリ・バレーでの練習前や練習後、宮浦は誰より早く来てチューブを使った準備を始め、帰るのはストレッチに時間をかけるため一番最後。苦笑いを浮かべながら甲斐を見送った。

「甲斐はストレッチしないですからね。いつもあっという間に帰るんですよ(笑)」

パリ・バレー時代の甲斐優斗 ©Getty Images

 その甲斐が、試合開始直後から入念にアップを始める。どんな変化があったのか。

「去年までは終盤、17点以降とか20点以降にアップを始めていたんですけど今年は試合が始まった時から前衛で出る場面も増えた。常に、徐々に終盤にかけて上げていくように準備をしていこうと思うようになりました」

 高さを増したスパイクや、準備の成果を活かし、投入直後、しかも試合中盤や終盤の競り合った痺れる場面で着実に相手を崩すサーブ。1つ1つのプレーもさることながら、もう1つ、大きな変化がコミュニケーションの面でも生じている。

 甲斐の名が初めて全国に轟いたのは東京五輪翌年、2022年の春高バレーだ。地元選手が集まる日南振徳高のエースとして準決勝進出。準優勝した鎮西高に敗れたが、大会を代表するエースとして注目を集め、専修大に入ってから間もなく日本代表にも召集されるきっかけとなった大会だ。国際大会を除けば、日本で最も多くのメディアが集まるバレーボールの大会が春高でもある。活躍した甲斐の周りを多くのメディアが囲んだが、質問が投げかけられるたび、1つ1つ噛み砕いて答えるため、沈黙が続く。「人見知り」と自認する性格ゆえでもあるのだが、取材の機会が増えるごとに質問に応じる姿も板につき、ネーションズリーグのフィリピンラウンドでは、地元メディアから「カメラに向かって投げキッスを」と求められ、恥ずかしそうに応じた後「なんか、やれって言われたんで、やっちゃいました」と顔を赤くする姿も見た。

 同部屋になることが多かった、という大塚達宣やパリ・バレーでも一緒だった宮浦、髙橋藍など世代の近い選手と話す機会が増えたことで「慣れてきた」と甲斐は笑うが、コミュニケーションの上達ぶりを見せつけたのは、7月8日に行われたJVA壮行会だ。

 壇上に並んだ選手が1人ずつ背番号と共に自身の名を述べる。甲斐の前に話した髙橋藍が「インスタグラムフォロワー250万人の」と会場を沸かせた後で、少々やりにくいかと思いきや、続いての挨拶が爆笑をさらった。

「背番号15、甲斐くんです」

 周りに促されたのか。それとも自分で決めたのか。問うと、笑いながら答えた。

「前の選手たちがいろいろやっていたので、自分も何かやったら面白いんじゃないかなと思ってやりました。今後やるかはわからないですけど、また機会があれば何か考えてみようかなと思います」

甲斐の挨拶に思わず笑ってしまった石川祐希と西田有志 [写真]=金田慎平

 間もなく開幕する初の五輪。

「オリンピックは大きな舞台。そこで自分が何ができるかは行ってみないとわからないので楽しみにしていますし、早い段階でオリンピックに出場できるのは貴重だと思っているので、オリンピックの雰囲気を感じられることを楽しみながら、日本に帰って来られたらいいなと思います」

 予選グループリーグではドイツ、アルゼンチン、アメリカと対戦する。強豪ばかりが揃うグループではあるが、ネーションズリーグの予選ラウンド最終戦ではアメリカと戦い、3対0で勝利した。メインのメンバーが互いに出ていない中での試合とはいえ、勝利は勝利。そして最後の決勝点は、甲斐のスパイクだった。

「アメリカを相手にスパイクも上から決めることができたので、自信になりました。自分のサーブやスパイクについて、相手から苦手意識を持たれていたらいいな、と思います」

 伸び盛りの20歳は、パリでどこまで進化を遂げるのか。ただひたすらに、楽しみだ。