多くの選手の話を聞けば聞くほど、みんなこの人が大好きなんだな、と実感する。
大好き、というのは語弊があるか。むしろ尊敬。リスペクト。選手たちが「関田が」「関田さんが」「セキさんが」と関田誠大の名を挙げるたび、さまざまな関田像が浮かび上がる。
中でも、愛とエピソードに満ちているのはミドルブロッカーの面々だ。山内晶大と髙橋健太郎、小野寺太志がそれぞれ印象深い場面や、関田からのトスを語る。しかも皆嬉しそうに。
そして必ず全員、口を揃えてこう言う。
「上げてくるな、っていう時がわかるんですよ」
サイドアウトでもラリー中でも、事前のデータや相手のブロックシフト。さまざまな要素を頭でかみ砕いた上で関田は次の攻撃を選択する。ローテーションによって、さらにはレシーブの返球位置によって、この攻撃は使えないとか、ここからは入りにくいとか、またプラスの要素も存在するが、そんなすべてを飛び越えて、ここぞという時の関田のトスは「来る」とわかる。
今季、ジェイテクトSTINGSで共にプレーする髙橋健太郎はこう言う。
「言葉でうまく説明できないんですけど、顔を見たり、目を見たりすればすぐわかる。絶対来る、って思うし、本当に絶対来る。何で、というのを言えたらいいんですけど、セキさんが上げてくる時は絶対わかる、としか言えない。でも絶対、来る、という時はわかるんです」
同じ質問を関田にもぶつけると、「考えてないんですよ」と笑う。
「考えていないことのほうが多いし、そもそも考えていたら上げられないかもしれない。上げた後に“そこじゃなかった”ってなるかもしれない。相手のブロックを見て、こっちの入り方を見て、ここだ、と見えるしひらめく。そういう感じなんです」
会場でも、テレビや配信でのリアルタイムの画面を通した映像でも、関田を見ればいかに相手のブロックを見ているかがよくわかる。相手のサーブやスパイクを受け、自チームのレシーブが来る落下点に入りながら、ほんの一瞬、首を振り、ちらっと見る。その瞬間に攻撃を変えることも多いが、世界のトップになればなるほど、ブロックシステムや後ろのレシーブも含めたトータルディフェンスは鉄壁で、穴も隙もない。そこでいかにアタッカーを活かし、決めさせるか。ブロックされたり、決められたり、その結果試合に負ければ矛先が向けられるのがセッターというポジションでもある。
「めちゃくちゃ難しいし、疲れますよ。1試合終わっただけで、ものすごく疲弊する。だから、楽しい、とは簡単に思えないです」
決して大げさではなく、試合では頭脳も身体もメンタルもすべてを使い果たすのではないかと思うほど、関田の運動量や、トスワークを筆頭にセッターの関田に委ねられる部分は多い。レシーブが多少離れた位置でも、そこから難なくクイックやバックアタック、逆サイドにも上げるが、簡単な技術ではなく、スパイク以上に関田のセットに感嘆の声が上がる場面は少なくない。
それだけの技術があれば、それだけで楽しいのではないかと錯覚するが、関田にとっては「それぐらいは普通だから」と言い切る。
「会場が沸いて、盛り上がってもらえるのは嬉しいですけど、僕の中ではこれぐらいできないと、と常に思っているので。(セッターとして)目指すのは、たとえばパスが割れたとしても、どんなところからでもいろんな攻撃を使いたいし、ただ使うだけではなくその精度も上げたい。いろんな状況、いろんなところでしっかりセットしたいし、いろんなコンビをつくりたい。そうすれば、相手も的を絞れないじゃないですか。ここしかないじゃなくて、こっちもあって、これもできるしなおかつ精度もいい。それが僕の理想ですね」
五輪への初挑戦は2016年のリオデジャネイロ五輪。14名のメンバーには選ばれていたが、ほとんど出場機会がないまま大会を終えた。2018年から日本代表の正セッターとなり、初の五輪となった東京大会は日本男子バレーとして29年ぶりにベスト8進出を果たしたが「夢の舞台」と言うように、世界と対等に肩を並べて戦うというよりも、まだ、見上げる相手に挑む意識のほうが強かった。
あれから3年。世界選手権やネーションズリーグ、アジア選手権や五輪予選。日本代表としても1人の選手、セッターとしてもさまざまな経験を重ね、円熟味を増した中で臨む二度目の五輪は、確実に、これまでの五輪とは違う。
「今回は目標というか。そこでしっかり結果を出したい、という気持ちのほうが強いです」
五輪が近づけば周囲からは「メダル」が期待される。関田自身も最初は「言わされる感じで言っていた」と笑う。
「本心としてはメダル、欲しいです。でもあんまり言いたくない。なぜかというと、それが本当に難しいと思うからです。だって、“メダル”と言えば期待されるじゃないですか。期待してくれるのはありがたいことなんですけど、でも、そんなに簡単じゃない。だから簡単には言えないですよね」
日本だけでなくすべての国が力をつけ、五輪出場権やチーム内のメンバー争いも繰り広げる中でのネーションズリーグで、決勝進出を果たした。主要国際大会では実に47年ぶり。銀メダル獲得という快挙を成し遂げ、目指すパリ五輪の開幕を間近に控えた今、日本代表の選手たちが宣言する目標は実に力強く、関田も同様だ。
「金メダル獲得を目指します」
決して簡単ではないことはわかっている。でも、やるからには頂点を目指す。「やる」と決めたらやり抜く男が「金メダル」と口にする。その重さと意味を噛みしめて、日本の勝利、何より、関田が目指す究極のバレーを世界最高峰の舞台で見せつけてほしい。