[写真]=金田慎平

 7月26日に開幕を迎えるパリ2024オリンピック(パリ五輪)。バレーボールでは、男子日本代表と女子日本代表に加え、ビーチバレーボールの女子日本代表も出場する。

 その中でも、バレーボールの男女日本代表は先日行われたネーションズリーグ(VNL)で男女ともに史上初の銀メダルを獲得。今回のパリ五輪でも、メダル獲得に向けて大きく国民の期待が高まっている。

 五輪でメダル獲得となれば男子は1972年のミュンヘン大会以来、女子は2012年のロンドン大会以来となるが、今の日本代表の強さのカギやパリ五輪での代表にかける期待、その先に描いているビジョンについて、日本バレーボール協会(JVA)の川合俊一会長に話を聞いた。

――まず、今のバレーボール界の盛り上がりというのはどのように捉えていますか?

川合会長「男子に関しては2年前ぐらいから段々力をつけてきて、去年のネーションズリーグは3位で、今年は2位と、一昨年くらいからいい傾向になってきましたね。というのも、男子はイタリアとかフランスのリーグで、海外でのプレーを経験していることがものすごく活きているんですよね。石川(祐希)選手にしろ、髙橋(藍)選手にしろ、海外で自分より大きい人たちと戦っているから日本代表になってもいつも通りで、そういった面で海外に出ている選手の技術の経験、精神的な経験というのは、ものすごく今の強さに繋がっていると思います」

「女子に関しては、東京五輪は予選ラウンドで敗退してしまった。あそこから盛り返すのはものすごく大変だと思ったんですけど、眞鍋(政義)監督がチームを立て直して、成績もしっかり(FIVB)ランキング7位まで引き上げてくれた。今回のVNLではパリ五輪の出場権も獲得できて、過去最高の2位になった。今のVNLで2位になるのはものすごく大変なんですよ。女子もそういった面ではしっかりと力つけてきたなと思います」

VNLではパリ五輪の出場を決めた女子日本代表 [写真]=金田慎平

――改めてVNLは日本代表にとってどんな大会でしたか?

川合会長「特に女子に関してはパリ五輪の出場権がかかっていたので、もう必死ですよね。去年の(パリ五輪予選で)最後ブラジルに勝てれば…出場権獲得まであと少しだった。その悔しさがあったのでVNLにすべてをかけていた。そのVNLの一試合目、(当時)FIVBランキング1位のトルコに勝ったんですよ。あれを見て、『強くなったな』と確信しましたね。本当に力をつけたという感じがしました」

「男子は、パリ五輪の出場権を持っていたのである程度自由にできたと思うんですよね。世界ランキングが自分たちより上位のチームに負けてもポイントがあまり減らないので、うまく調整しながら戦っていった。(フィリップ・)ブラン監督はもう勝つことしか考えてないから、そこは外国人監督のいいところですよね。ちゃんと大会を通してマネージメントされていましたね」

――特に女子では顕著ですが、いわゆるフィジカル面というかサイズ面では厳しい中で、世界とやり合えている一番のポイントはどこでしょうか?

川合会長「それはやっぱり守備力ですね。そして守備をしっかりして、ボールを取った後にしっかり攻撃すること。取るだけじゃダメなので、取った後の攻撃がしっかりできること。この2つでしょうね」

「男子も一緒で、もう守備力なんですよ。相手のほうが高くて、すごいのをドンと打ってくる。それを石川選手、髙橋藍選手、リベロの選手が待ち構えている。3人リベロが入っているようなものなので、守備がすごいですよ」

「男女とも日本バレーですよね。やっぱり守備からのカウンターみたいな感じになっていて、それが崩れるとちょっと厳しい。特に男子はまともに打たれたらほとんど決められてしまうので、そこでどうするかというと、サーブで相手を崩して気持ちよく打てないような状態にして守備して取っていくとか。男子も女子もサーブが弱くなった時点でちょっと勝ちづらくなりますね」

――日本代表として守備力を重視していこうという風にどこかで方向性を変えていったんでしょうか?

川合会長「いや、自然とそうなったのではないでしょうか。例えば、石川選手や髙橋藍選手は海外に行って最初はリベロをやっていた。その効果もあると思います。あとは世界のトップ選手のパワーのあるサーブやスパイクを常に取っていれば慣れてくるじゃないですか。海外リーグで速いスパイクや高い角度のアタックを取っていれば、日本代表でもいつも通りでプレーできる。急に日本代表になって『うわ高い!うわパワーある!』という状態からのスタートじゃないのは、特に男子は強みです」

セリエAのベストレシーバーにも選ばれた髙橋藍©LEGA PALLAVOLO

――国内は国内でありながら、海外に出ていく良さが出ているということですよね。一方で国内では10月からSVリーグ(大同生命SV.LEAGUE、2024年10月に開幕する日本のトップリーグ)が開幕しますが、そのあたりはいかかですか?

川合会長「そうですね。そこでSVリーグになった時にものすごく可能性があるのが、バレーボールは国内に世界最高のリーグを作ることができるかもしれないということ。世界最高のリーグが日本にあるんだと。世界のトップの選手が集まってきて、みんなが日本でやればそうなる。だからSVリーグにものすごく期待するのは、リーグが掲げている『世界最高峰のリーグを作る』こと。これを本気で実現していただいていければ、世界のトップ選手がみんな日本に集まるので、人気が一気に出てくると思うんですよね」

「ある程度資金も必要だと思うんですけど、世界のトップ選手を日本に集めてきて、イタリアリーグと同等あるいはそれ上になれば、日本のトップ選手がSVリーグでプレーして、トップ選手がいるとお客さんも入って、そうするとSVリーグが成功すると思うんですよね」

――SVリーグでやっている海外のトップの選手を観ていると、代表戦になった時も対戦国のあの選手見たことあるとか、そういったことが増えてくるということですよね?

川合会長「そうですね。そうなってくると、今も少しずつ増えてきているんですけど、外国人同士の試合も観に行くお客さんがもっと増えると思うんですよ。日本の選手と同じチームの選手が出ていれば、日本戦以外の試合も『あの選手が出ているから観に行こう』となって、日本代表だけを応援するだけじゃないような感じになってくる。またバレーボール界がいい方向に向かうと思います」

――日本を中心に世界のバレーの人気が上がるようなことになったらすごいですよね。

川合会長「バレーボールはそれができる可能性があると思います。資金も必要になりますけど、一致団結して応援したいですね。日本代表の試合を観てSVリーグを観たりとか、SVリーグを観て日本代表を観たりとか。やはりそういう期待はいっぱいしています」

――改めて、いよいよオリンピックというところですが、どういう大会であってほしいですか?

川合会長「男女ともにVNLで銀メダルを取っているので、メダルを取れる可能性がともにある。特に男子がメダルを取れるかもというチャンスは50年ぶりぐらい。こんなチャンス滅多にないと思うんですよ。このチャンスを活かしたいなと思いますよね」

――世界に日本代表を見てもらう機会でもあると思うんですけども、日本のどういったところを見てもらいたいですか?

川合会長「やっぱりバレーボールはラリーが続けば続くほど盛り上がっていく。日本は男女とも守備がいいのでラリーが続くんですよ。ラリーの末に得点を決めるのがバレーボールの1つの醍醐味なんでね。ラリーが繋がっていく、落とさないバレーを展開する、その辺りを見てほしいですよね」

「男子に関しては石川選手、髙橋藍選手、西田(有志)選手を中心にサーブの決定力もある。あと、フローターサーブを打っている選手も結構いい。関田(誠大)選手とかミドルの2人(山内晶大選手、小野寺太志選手)も。軽く打っているのになんで相手は取れないんだろうと、テレビだと分かりづらいかもしれない。よく見ると相手が取るまでに変化していることがある。サーブも見どころです」

――今回のパリ五輪にはビーチバレーボール女子日本代表も出場しますが、どんな期待をされていますか?

川合会長「ビーチバレーボール女子日本代表は(自国開催だった東京大会を除いて)16年間本大会に行けていなかった。(パリ五輪に向けては)ある程度チャンスはあると思っていたので、コンチネンタルカップ(6月のアジア大陸予選)に懸けていた。コンチネンタルカップでは、準決勝でこれまで苦戦していたタイと当たり、いちばん大事な試合で勝った。決勝では中国とゴールデンマッチ(勝敗を決める3試合目)まで競って、最終セットをデュースの末に勝ち切ったのは観ていて本当に感動しました」

「(長谷川暁子/石井美樹組は)度胸が据わっていて、ここ一発のところで勝ったことがない相手に勝つとか、そういうことができるチームだと思います。日本の女子は守備がいいので、ちょっとリスクがあるかもしれないけど、サーブでどんどん攻めて相手を崩し、なんとかボールを取って決めていく。そういう形でいければ期待はものすごくできると思います」

「パリ五輪のビーチバレーボール競技は、エッフェル塔の正面でやるんですよ。最高のところですよ。もしビーチバレーボールの中継があるとなったら、ぜひそのロケーションや、なぜ世界で人気があるのかというところも見てもらいたいですね」

ビーチバレーボール女子日本代表としてパリ五輪に出場する長谷川暁子(左)と石井美樹(右) [写真]=金田慎平

――改めて、オリンピックがあり、SVリーグもあって、バレーボール自体が今後盛り上がっていくと思いますが、日本のバレーボール界がこうなってほしいであったり、こういう風にしていきたいということは何かありますか?

川合会長「もちろんオリンピックというのは、オリンピック種目の競技団体にとっては大きな目標なので、そこに出てメダルを目指すというのも大事です。けれども、やっぱりバレーボール人口が増えないと、底辺が広くないといい選手も出てこないので、バレーボールの人気を高めて、バレーボールをやりたいと思う子供たちを増やしていくのが、最も大事なことだと思うんですよね。たくさんの人がバレーボールをやってくれて、その中からいい選手が出てきて日本代表に選ばれると。ですから、一番はたくさんの人にやってもらうということを大事にしたいです」

「それと、我々は体罰と暴言をなくそうということをずっと目指している。小学生の指導者の方々には、子供たちに『バレーボールは楽しい』と思ってもらえるスポーツにしていくことをぜひとも意識していただきたいです。小学生の年代には『楽しい!バレー部入ろうぜ!』と思ってもらえる、そういうことじゃないと人口が増えていかないので、そこを目指していきたいです」

「しっかり日本代表の強化はしますが、裾野を広げる、競技者を増やす、バレーボールとビーチバレーボールを健全なスポーツにすることを目指すのが競技団体の使命だと思っていますので、それをしっかりやっていきたいと思います」