コンディションを取り戻したことは前提として、近が今のチームでなお重宝される理由の一つには、その安定感抜群のパフォーマンスがある。指揮するヴァレリオ・バルドヴィン監督は言う。
「彼はコートの中で、多くの経験値をチームに還元してくれます。技術面でいえば、サーブはとても効果的で安定しています。ブロックに関しても、状況を読む能力にたけていますので、多くのシチュエーションでブロックタッチをとることができる。そうして我々に攻撃のチャンスをもたらす働きをしてくれています」
ミドルブロッカーというポジション柄もあるだろうが、決して派手なプレーがあるわけではない。豪快な打球やとんでもないジャンプ力、俊敏性やスピード感…どれもおそらくは今の近のステータス一覧には記されていない。けれども、バルドヴィン監督のWD名古屋が追求するのが「安定性」だからこそ、近というピースは欠かせないのだ。それは本人も理解している。
「チームとしては高いジャンプやアタックを備える選手が必要な場面もあるのですが、それ以上に堅実なプレーを求めている部分があります。その点も自分の今のプレースタイルと割とフィットしているのかなと思います。だって『あと10㎝高く跳べ』と要求されても、絶対に無理ですからね!?(笑)」
「ミドルブロッカーでいえば得点は傳田にワンちゃん(王 東宸)、小山と、僕の対角の選手がとってくれるので。それにチームとしても代々、オポジットやアウトサイドヒッターがたくさん得点してくれるので、僕個人としては『自分はアタックで点数を取らなくてもいい』くらいに思っています。ただ、少ない本数でも上がってきたボールは絶対にミスせずに決めればオッケーかなと」
「その代わり、バルさん(バルドヴィン監督)から言われているのは、『ネットから20〜30㎝の高さのボールに関しては確実にブロックへ』。チームとしてもサーブとブロックの戦術があって、それをきちんと遂行することを。それをやらなければ、僕はもう試合に出られないと思いますからね。それが自分のプレースタイルですし、チームにも求められているものです」

陰日向に咲く。ニミル・アブデルアジズの迫力満点のアタックとサーブ、深津英臣の魔法ようなトスワーク、水町泰杜の弾けるようなパフォーマンスと表情…。今季のWD名古屋を象徴するそれらのすぐそばで、近もまた彼にしか出せない輝きを放っている。