2025年度女子日本代表に登録された35名のうち、五輪出場を複数回経験しているのは3名だけ。昨年のパリ五輪を経て一気に世代交代したことが、そこには色濃く表れている。
そのなかの一人、山田二千華(NECレッドロケッツ川崎)は東京2020大会、パリ大会と2度の五輪出場を果たしてきたわけだが、それぞれ自身にとっては内容が異なるものだった。
「東京五輪は無観客でしたし、自分も代表活動を初めてまもないときでしたので、何がなんだかわからないなかで大会が終わっていきました。そこからパリ五輪までの準備期間は3年しかなくて。それでも立場的にも東京大会よりコートに立つ時間が長くなりましたし、年齢的にも年下の選手がいるなかでプレーする必要が出てきました。環境や立場が変わったことで心境の変化もありましたし、3年だけれども自分の中では成長できた部分もあります」
「ですが、ああいう大きな舞台でプレーができるからこそ、もっともっと自分のベストを尽くしたかったなと思います。五輪はどの競技においても、トップの選手が目指す場所であって、そこでプレーできることは簡単ではない。だからこそベストが出せず、自分たちの目標にたどり着けなかった悔しさがあった、そんなパリ大会でした」
メダル獲得を目指して臨んだパリ五輪は、結果として予選ラウンド敗退に終わっている。ではパリ五輪を終えた直後、すぐに次のロサンゼルス大会を考えることができただろうか。そう投げかけると山田はやんわりと否定した。
「考えていなかったです。もちろん悔しさを晴らせられる場所は同じ五輪だと思うんですけれど、やはり4年という時間は長いですから。私自身、代表活動も1シーズンを重ねてここまできたので、そんなに先を見ずに、まずは目の前のシーズンをしっかりと戦って、自分のベストを尽くしていくべきだな、とは毎回思っています」
もちろん、五輪という舞台に思いがないわけではない。一歩ずつ踏み出していく、その先に五輪があれば。
「実際に2028年のイメージは湧かないですけれど、もしバレーをやっているならば、そこまでに1年1年、成長したい気持ちは変わりません。それに、その1年1年を無駄にしたくないですから。バレーをやっている以上、しっかりベストを尽くして、可能であれば日本代表の舞台にもう一度立ちたいと思います」
5月22日の女子日本代表キックオフ会見のあとの取材で、山田は何度も「ベストを尽くす」と口にした。そのマインドが彼女の中で確たるものになった背景には、パリ大会で現役生活に区切りをつけた、あの先輩の存在があった。山田は言う。
「そのアクションをくれたのは、(古賀)紗理那さんです。ずっと『ニチカはやらないともったいないよ』と言ってくれて。自分自身は代表に入る選手だと思っていなかったのですが、いざ日本代表では紗理那さんにたくさんの声をかけてもらいました。紗理那さん自身がベストを尽くす人間で、それを目の前で見ることができた。ベストを尽くすことによって結果は自然とついてきますし、だからこそ、その大切さを学ぶことができました」
2028年のロサンゼルス五輪を含めて、この先も競技人生が続くなか、山田はそのときどきでベストを尽くす。それによって、自身を更新し続けるのだ。“ベストパフォーマンスの山田二千華”をまだ、我々は知らない。