黒く染めた髪は気合の現れ。27選手が一堂に会した6月5日の男子バレー日本代表のキックオフ会見での第一声、大宅真樹は「例年にないぐらい強い覚悟をもって臨みたい」と口にした。
短い言葉に込められた、並々ならぬ思い。真意を問うと、照れくさそうに笑いながらも、大宅はきっぱりと言い切った。
「今年にかけている思いは違うということを短い言葉で伝えたかった。そう思った時に“覚悟”という言葉が出てきたんです。試合自体は海外の選手と対戦しますが、その前にチームメイトとも勝負しなきゃいけないし、自分自身とも勝負しなきゃいけない。そこはやっぱり、勝負事なので。代表に関しては挫折もありましたし、もう二度と同じ経験をしたくない、という思いもあります。僕にとってはロスが最後のチャンスになると思っているので、そのスタートの年。今年はすごく大事になると思うし、だからこそ、あえて言葉にして伝えました」
大宅が日本代表に初選出されたのは2018年。高校、大学時代にもU19やU21などアンダーカテゴリー日本代表として活躍、2017-18シーズンから内定選手としてサントリーサンバーズ(現サントリーサンバーズ大阪)に加入後、サンバーズの大宅として残した成績はVリーグで三度、SVリーグ初年度の昨季も含めれば四度の優勝を飾った。
さらに個人に目を向ければ二度、MVPに選出された。チームの勝利、優勝に貢献した選手に贈られることが多いMVPは最も点を獲った選手など、アタッカーが選ばれることが多く、セッターで受賞すること自体が快挙だ。チームの主将も務め、名実共にチームを勝利に導いたセッターとして輝かしい戦績を残し続けてきた。
だが、日本代表へと目を向けると決してその評価はイコールではなかった。
初選出の2018年はインドネシアで開催されたアジア競技大会出場のチャンスを得ていたが、大会前にケガで離脱を余儀なくされた。その後も日本代表登録選手には名を連ねるも東京五輪は落選。「まだ自分の熱量が足りなかった」と語る苦い経験を経て、「選手として最大の目標に掲げていた」のが2024年のパリ五輪。
サンバーズで連覇を成し遂げ、アジアクラブ選手権、世界選手権、世界クラブ選手権とセッターとして求められる数々の経験は重ねてきた。ただ目標として掲げるのではなく、人生を懸けて臨む。2022年の発足当初からそう公言してきたが、大宅がパリ五輪のコートに立つことはなかった。
今でも「二度としたくない」と大宅が振り返るのがパリ五輪前年の2023年の苦い経験だ。
「メンバーには入っていても、合宿にも招集されなかった。あれが自分にとっての代表を振り返った時に一番の挫折でした。もちろんいろんな理由があって呼ばれなかったことはクリアにしようと思っています。でも、今考えても何でだったんだろう、という思いは残っています」
一度はどん底まで落ちた、と回顧する。だが、願う場所でプレーができなくても、積み上げてきたことや積み重ねて出してきた成果が消えるわけではない。大宅と同じ経験をした多くの選手たちから、事あるごとに声をかけられるうち、少しずつ気持ちが前を向いた。
そしてもう1つ、悔しさだけでなく大宅に再び前を向かせる原動力になったのが2022年と2023年に誕生した2人の我が子の存在だ。
「今年(2024-25)のシーズンが終わった時、奥さんのお母さんから『焦る顔をしなくなったね』と言われたんです。自分では気づかなかったんですけど、徐々に余裕がある人間になってきたのかな、って思えたんです。たとえば試合で負けている場面でも何か面白いことをしてやろう、あえて今ここを使う? という場所から決めさせたらカッコいいな、と考えて、できるようになった。あの時、合宿に呼ばれなかった時の思いも残り続けているからこそ、今、新たに代表へかける思いは強くなっていると思うし、子どもたちにも国内リーグで戦う姿は見せられても、日の丸をつけた試合は見せられていないので、子どもたちに、という思いも強いですね」
昂ぶる思いを抱えつつ、だからこそ冷静に。ポジションをつかみ取るために必要な自らの課題も受け入れる。
「福澤(達哉)さんと対談をした時に『サントリーで見ている大宅を知っているからこそ、代表の大宅を見ているともったいなさがすごくある』と言われて、その通りだなと。代表に来るとどこかで、“自分でいいのか?”という思いがあって緊張してしまったり、自分からグイグイ行けない。でもそういう面も今季はゼロにして、自分からコミュニケーションを取りに行くことは意識するようになりました」
11日に初戦を迎えるネーションズリーグ。新監督に就任したロラン・ティリ監督が「中国ラウンドでは昨年のパリ五輪から考えれば60%ほどメンバーの再編成がある」と話したように、さまざまな選手にチャンスが与えられる可能性は高い。その中で、いかにセッターとして存在感を発揮できるか。
「攻撃の中心になるのは宮浦(健人)と大塚(達宣)、オリンピックや海外も経験している選手なので顔つきも違うし余裕がある。宮浦が代表に初めて呼ばれた時、自分も一緒だったんですけどその頃と比べると顔つきもプレーも全然違う。経験って大事だな、と改めて感じさせられています。攻撃以外の面では小川(智大)の存在が大きいので、僕自身も彼らに戦い方や気持ちの持ち方を教わりながら戦っていきたい。この1シーズン、セッター陣にとってはかなりのチャンスだと思うので、つかみにいきたいです」
すべての経験を力に。並々ならぬ“覚悟”を抱くシーズンが始まる。