自信と悔しさ、どちらも含まれたスパイクが、力強い音と共にコートへ突き刺さる。
岩手でのオーストラリアとの親善試合にキャプテンとして臨んだ新井雄大は、「(キャプテンだからと)特別にやることはない」と笑いながらも、1人の選手として抱く、素直な思いを口にした。
「自分の中では(昨季のSVリーグでの)シーズン、自信を持てる結果を残せたと思っていたし、チャンスもあると思っていた。でも、実際に代表合宿が始まってからはそうじゃなくて、B代表だった。正直、悔しかったです。でもそれは僕だけじゃないので。親善試合とはいえ日本代表として出る試合でキャプテンを任されることはすごく光栄なので、とにかく気持ちを出して引っ張る。それだけはやりきる、と思って臨みました」
背番号「7」。2020年から日本代表に選出されているが、一桁の背番号をつけたのは初めて。2024/25シーズンは広島サンダーズでも全試合に出場を果たし、攻撃の柱として活躍。アウトサイドヒッターとしてだけでなく、シーズン終盤は学生時代以来となるオポジットも担った新井に広島のハビエル・ウェベル監督も「これからさらに世界で成長できるポテンシャル、力を持った選手」と信頼を寄せた。

だからこそ。少なからぬ自信があっただけに「悔しい」。それが正直な思いだった。だが、そこでふてくされていてはこれからにつながる道は絶たれるだけ。置かれた場所で成長する、と決意を固め、6月のカタール遠征や岩手での親善試合に臨むB代表の中心選手として周囲を牽引。真保綱一郎監督も「攻撃だけでなく守備もかなりよくなった。A代表に行くかもしれないと思っていたけれど、B代表に残るならキャプテンは彼に任せたかった」と言うように、オーストラリアとの親善試合では主将を務めた。
岩手に集った選手たちの顔ぶれはさまざま。最年長35歳のセッター深津英臣から、最年少18歳の練習生三宅綜大まで年齢は幅広く、加えて、ネーションズリーグの中国、ブルガリアラウンドに出場し、A代表からB代表へ戦う場が変わった選手もいる。これが初めてのチャンスと意気込む選手もいれば、新たな転機に再起を誓う選手、ネーションズリーグのメンバーから外れて失意を味わう選手もいる。22年のアジア競技大会のようにB代表のメンバーで臨む公式戦も今季は開催されない。
どこに照準を合わせるか。モチベーションの維持も難しい状況ではあったが、岩手での親善試合で見せた新井の活躍は、AでもBでも同じ日本代表であることを強く印象づけるものだった。
前日の練習試合では終始日本が優位に試合を運び、3セットを制したが親善試合では硬さも目立ち、第1セットはオーストラリアに先行された。嫌な流れでスタートする中、ハイセットを打ち切り、立て直したのが新井だ。
「みんな見たことがないような顔でバレーをしていたので、こんなに緊張するんだ、と思って。前半は相手のいいサーブが入って、レシーブも崩されていたんですけど、ダイレクトやミスで失点せず、ラリーに持ち込めば自分たちの展開に持ち込める。もともと僕はパスが得意なほうではないので、苦しい状況で上がってきたハイボールも相手の嫌なところへ落としたり、リバウンドを取る意識で(攻撃に)入りました。緊張もあるけど、いつもできるプレーができないのはもったいない。自分を乗せることも大事でしたけど、周りが乗ってくれればもっとよくなるし、周りをもっと楽にしてあげたい、という気持ちのほうが強かったです」
まさにその言葉を体現するようなプレーもあった。試合中盤、練習生の三宅が投入された直後だった。相手のサーブからの攻撃を1本では取れず、ラリーが続く中、最後に決めたのが新井のバックアタック。「なんとか決めてあげたいと思っていた」と笑い、三宅の姿をかつての自分に重ねる。
6年前の夏、薩摩川内での日本代表合宿に新井も練習生として参加したことがあった。
「大学3年の時、僕も同じようにみんながユニフォームを着ている中で練習着を着てコートに入った経験がある。三宅くんの姿を見て、『わー初々しいな』と思いましたね」
駿台学園高で2、3年時に春高を制した三宅の戦績には及ばないが、上越総合技術高2年で初めて春高に出場した際、まだ当時は無名だった少年がコートに叩きつけるスパイク音は一発で周囲を驚かせた。何本、何十本とほぼすべての攻撃を担いながらもジャンプの高さが落ちることはなく、相手からすれば「新井が打ってくる」とわかっていてもブロックの上から決める。翌年には世代を代表する選手の1人として注目を集めた。東海大でも1年時から試合出場を重ね、3年時に日本代表の練習生。4年になった2020年には練習生ではなく登録選手として日本代表に初選出された。
着実にステップアップを遂げ、昨季の広島でもチームの中心として存在感を発揮した。歩むべき一歩一歩を着実に前へと進めてきたが、振り返ればいくつもの悔しさや跳ね返された壁があり、今もまた、勝負と位置づけた中、チャンスをつかめないもどかしさを味わった。
でも、どれだけ悔しくても諦めたら終わり。さまざまな感情を抱きながらネーションズリーグの試合を見て、自身に何が足りないのか。冷静に考え、次へと意識を切り替えた。
「ここで(A代表に)選ばれなくても、すべて否定されているわけじゃない。やるべきことは自分の中にあるし、選ばれなかったとしても、自分がもっとうまくなるために努力していくことが大事。悔しい中でも、やる、やらないは自分次第なので。僕はいつ呼ばれても、サイドでもオポでも行けるように準備したいし、自分が行動して、示すことが自分のできることだと思ってやり続けるだけです」 親善試合は公式戦と同様に、試合前には両国の国歌が流れた。大勢の観客が詰めかけた中、キャプテンとして、日本代表のユニフォームを着てコートに立つ。そこにAもBも存在しない。同じプライドを持って戦う“日本代表”であることに代わりはない。
「キャプテンとしてああいう場に立つ。それ自体、普通じゃ経験できないことだと思うし、国歌を聞いた瞬間、頑張ってきてよかった、という思いも少し、ありました」
負けてたまるか。悔しさも力に変えて、もっと強くなる。勝負はここからだ。