[写真]=坂口功将

 2024-25 SVリーグの開幕まで2ヵ月を切り、各チームはプレシーズンマッチを行うなど、その機運は日に日に高まっている。参加チーム数や試合数の増加のほか、外国籍選手枠の拡大など従来からの様々な変更点が見られるなか、会場では一つの大きな変化がもたらされる。

 具体的にはまず、両チームのベンチが従来の副審側ではなく、反対の主審側に移ることだ。つまりコートを横から写した試合映像でいえば、奥側の見える位置にベンチやアップゾーンが設置されるかたちになる。同時に、手前側には副審が立ち、こちらはこれまで設けられていたフェンスやボードが撤廃。フロアレベルで観戦する、いわゆるアリーナ席はコートに近ければ近いほど、それこそ最前列となれば何もさえぎるものがなく、目の前に試合の光景が広がることになる。

 すでに国際大会では見られる方式で、ネーションズリーグなどで実際に体験した人もいるだろう。それが今年から始まるSVリーグで採用されるのだ。

アリーナ席では選手と同じ目線で試合を楽しむことができる [写真]=坂口功将

 今回、筆者が足を運んだのは8月10日にSVリーグ男子の日本製鉄堺ブレイザーズが開催したイベント「VOLLEYBALL MATSURI 2024」。ここでの観客席は“SVリーグ仕様”となっていた。

 日鉄堺BZと中国リーグの保定沃隶男子排球倶楽部によるエキシビションマッチでは、ボールを追って選手がアリーナ席最前列に飛び込むシーンも。試合後、そのエリアに座っていたお客さんに話を聞いてみると、反応は上々だった。

「けっこう近くて楽しかったですが、ちょっと不安といいますか(笑)。選手がこっちに来たときは避けたほうがいいのかな?と焦りました。ですが、こうして距離が近いのはいいなと感じましたね」

 これまでも試合ではボールを追いかけて、ときにはコート周りのフェンスと接触してでもボールをつなごうと選手たちがガッツあふれるプレーを見せる場面は何度もあった。フェンスが客席との境界でもあったわけだが、それがなくなるということで、見ている側としては少々ヒヤリとしてくる。ただ、選手たちは咄嗟の判断とはいえ、しっかりとゾーンを見極めているようだ。

ボールを追いかけた森愛樹がスライディングのようなかたちで客席へ突っ込むシーンも [写真]=坂口功将

 この日のエキシビションマッチで、ボールを追いかけて最後はスライディングのようなかたちで客席へ突っ込んだ日鉄堺BZのリベロ、森愛樹は話す。

「確かに柵(フェンス)があったほうが、思いきりいける部分はあるかもしれません。でも、そこまで気にならないといいますか。ここまでいったら危ないな、そこで止めよう、というのが自分の中であるので。ボールの軌道に対して、椅子はこのへんにあるな、とは大体意識しながらプレーしていますね」

 とはいえ、チームメイトの一人、上村琉乃介は「『愛樹さん、危ないな』とは思いました」と明かしたことから、やはり外から見ると肝を冷やす場面でもあるようだ。

 その上村は外国籍選手が不在のなか、ルーキーながらオポジットとして躍動。また2年目のアウトサイドヒッター、安井恒介もこのエキシビションマッチでは攻守で大車輪の活躍を披露した。2人に、アタックの助走などでフェンスがないことは影響してくるもの?と聞くと、「特にないですよ」と口をそろえた。もっとも安井は「自分はまだ周りが見えていないので(笑)。それに、あまり気にせずプレーするタイプですから」と、ちゃめっ気たっぷりに答えてくれた。

 そうした選手の姿を、よりダイナミックに味わえるのが、このフェンス撤廃の効果の一つだろう。コートサイドで、聞けば熱心に応援する安井に向けてカメラのシャッターを切っていたファンは胸を弾ませる。

「迫力がすごかったですよね。より選手が近くに感じますし。それに前に人が通らないのも嬉しい点です。さえぎられることなく写真を撮れますから。シーズン中も是非、この席で見たいと思います」

 新たな試合観戦の体験を提供する、その一つであることは確かだ。

保定との2試合で躍動した安井恒介 [写真]=坂口功将

 最後に、現場ではフロアレベルで撮影することもある筆者目線を。

 従来だとコート周りを“コの字型”で囲っていたフェンスと客席の間は、テレビやスチールのカメラマンの撮影スペースでもあった。だが聞くところによると、今回のSVリーグ仕様ではサイドライン側で、そうしたカメラマンによる撮影はできないという。唯一、副審が位置するセンターライン付近は、テレビのカメラマンが入れるようになるそうだ。

 今回は主催する日鉄堺BZの計らいで、筆者はそのエリアで撮影させてもらったが…。こちらはときとして副審が被ってしまう!! プレーをチェックするために副審は往々にして、ラリー中だとボールを保持している側のコートに体を寄せるのだが、シチュエーションによっては副審の背中がファインダーに入ってしまった。

 サイドライン側からだと、複数の選手による同時多発攻撃を繰り出すカットや、ブロックをかいくぐってインナーへスパイクを打ち込むアタッカーの姿をネット越しに撮影することができたものだが…。バレーボールのプレーシーンを伝える機会が少なくなるのは寂しいものだ。

報道するカメラマンとしてはコートレベルのカットは撮りにくくなるかも…!? [写真]=坂口功将

 さて、センターエリアに設けられたスペースはテレビカメラマンともう一つ、ボールを往来させるリトリバーのためのエリアでもある。この日のエキシビションマッチは日鉄堺BZのジュニアチーム「堺ジュニアブレイザーズ」の子どもたちがお手伝いとしてリトリバーを務めていた。ふと隣にいた、リトリバーに聞いてみる。やっていて、これまでと違う?

「エンドライン側にむかって投げるボールが、お客さんの足に当たってしまわないか。フェンスがあると気持ち的に楽でしたが、ちょっとやりづらかったですね(笑)」

 従来とは異なる仕組みに、彼らも順応する必要があるだろう。「頑張って!!」と声をかけて筆者は、まもなく始まる新しいリーグではどんな光景が広がるだろうか、と思いを馳せた。

ボールリトリバーを務めた堺ジュニアブレイザーズの子どもたち [写真]=坂口功将

(撮影条件や会場規定などは本稿の取材当時のものであり、SVL、JVLや各チームより発表されるものが正式な規定となる)