ヴィクトリーナ姫路がSVリーグ今季開幕から好発進している。開幕節で昨季優勝の大阪マーヴェラス、翌週は東レアローズ滋賀と、難敵相手にリーグ戦4連勝を飾っている。好調の要因は色々あるが、1つはAstemoリヴァーレ茨城から移籍加入した野中瑠衣だ。今年度の日本代表に初選出されるなど注目株の24歳が、アウトサイドヒッター、オポジット、リリーフレシーバーと八面六臂の活躍で、姫路3シーズン目となるアヴィタル・セリンジャー監督の采配を支えている。
劣勢だった試合で複数のポジションに入ってカバー
前所属先のAstemoリヴァーレ茨城では、昨季は主にオポジットとしてプレーしていた。ただ、アウトサイドヒッターとしてもプレーしてきており、ヴィクトリーナ姫路では基本的にアウトサイドヒッターとしてのポジションを任せられている。
10月10日の開幕戦では、アウトサイドヒッターの一角でスタメンで登場すると33打数15得点で決定率45.5%と、対角で攻撃面を期待されているイタリア代表のカミーラ・ミンガルディ以上の存在感を見せて、3対1の勝利に貢献した。

そして翌10月11日の試合で、野中の持つマルチぶりを示した。
前日チームで唯一コートに立ち続けたこともあってか(ミドルブロッカーは後衛でリベロと交代)、スタメンから外れた。アウトサイドにはカミーラと渡邉かやが、オポジットには宮部藍梨が入った。
宮部は今季、チームにミドルブロッカーからオポジットへの変更を志願し、同ポジションでスタメン出場した。ただ、第1セット、第2セットとなかなか調子が上がらなかった。
すると、セリンジャー監督は手を打つ。宮部の後衛3ローテを野中に交代。しかも、守備面を期待されたリリーフレシーバーとしてプレーした。第2セットでも同様に宮部と後衛3ローテだけ交代した。
今度は第3セット序盤、カミーラが大阪マーヴェラスの守備網に苦しみなかなかスパイクを決められず流れが悪かかったが、すかさずセリンジャー監督はカミーラに代えて野中とスイッチする。すると、野中が攻守で姫路のリズムを生み出す。リードされていたが一時逆転し、最終的にはこのセットを失ってしまったが、この第3セットの間に宮部が復調していきスパイクの決定力を取り戻していった。
第4セット、第5セットは野中がそのままアウトサイドヒッターとしてセットの始めから入り、主に守備面で機能しフルセット勝利に始めた。付け加えると、野中は前日はセッターの隣に入るポジション2だったが、この時はポジション5でプレーした。

名将の戦術上で重要なマルチロールプレーヤー
既に野中の能力の高さを知られていたとはいえ、それでもここまでのマルチぶりには驚かされた。セリンジャー監督からすれば、困った時に柔軟な対応が可能な選手が貴重なのは間違いない。
他にも、宮部と野中が後衛の時、オポジットの宮部を後衛ライトからではなく後衛センターからバックアタックに参加させるためか、野中が後衛ライトを守るシーンがあり、一般的な役割とは異なって混乱してもおかしくないが、野中はそつなくこなしている。

10月11日の記者会見で、野中に途中で入って後衛ライトを守るシーンについて問うと「まずはチームとして宮部選手のバックアタックを使いたいというところで、後半にかけて宮部選手のアタックが決定率を上がっていったので、そこを生かすためのディフェンスでした。自分で途中から入る時、ディフェンスに集中しようと思った」と明かしてくれた。
さらに、1試合の中だけでポジションや役割が変わっていったことについて難しさは無かったのかと質問すると、野中は殊勝に答えた。
「以前の私だったら、ちょっとどこか悔しいという気持ちがあったかもしれない。(姫路に入って)アウトサイドに挑戦したのも、私みたいな飛び道具じゃないですけど何かこれといいう飛び抜けているものがない分オールラウンドに、レフトもライトもディフェンスもサーブからでもいける選手になるのが、ステップアップにつながるのかなと思ったので今挑戦している。そういった中でこういう起用法は私の価値というか持ち味を発揮できる1つ。与えられた役割、スタートでいったり途中からいったりベンチにいる時も、自分にできる役割を全うしようという気持ちです」
本人は飛び抜けてるものがないというものの、身長176cmから繰り出されるスパイクは思い切り良くパンチ力があり決定率も平均4割、レセプションやディグでも十分な出来を見せ、サーブでは4試合終了時点ではあるがチームいちの4点を取っている。
10月18、19日の東レアローズ滋賀戦では、セリンジャー監督からの信頼を完全に得たのか、両日ともアウトサイドヒッターとしてスタメン出場し、交代することなくコートに立ち続けて3−1、3−0の快勝を支えた。
まだシーズン序盤ではあるが、早い段階でこういう起用を実践し成果を挙げたのは、非常に大きい。長いシーズンを戦う上で、野中の存在は今シーズンの姫路の武器になるはずだ。