元女子日本代表の大山加奈さん [写真]=須田康暉

 大山加奈さんは2003年のワールドカップ、2004年の北京オリンピックで活躍をした女子バレーボール日本代表の中心選手だった。一方で腰の故障などでキャリアは短く、「栄光と挫折」の残酷な対比を経験したアスリートでもある。

 今では普及活動や「プレイヤーデベロップメントマネージャー」など、育成年代とトップ選手の双方に「向き合う」「寄り添う」取り組みを続けている。彼女が目指すものはただ目先のレベルを上げることでなく「選手の人生が豊かになる」こと。現役選手に対しても決して「先輩目線」ではなく、思いやりのある、前向きなコメントが多いところは大山さんの特徴だろう。

 そんな大山さんにパリオリンピックを悔しい結果で終えた女子日本代表と、間もなく開幕する「SVリーグ」について語ってもらった。

――バレーボールの女子日本代表はパリオリンピックを1勝2敗、1次リーグ敗退で終えています。プールBの第3戦はケニアに勝ちましたが、初戦でポーランドにセットカウント1-3、第2戦でブラジルに0-3で敗れて、ベスト8に進めませんでした。大会を振り返っていただいて、どういうご感想ですか?

大山 まずピーキングの難しさをすごく感じました。ネーションズリーグが本当に直前(※日本の最終戦は6月23日でパリ五輪開幕のほぼ1カ月前)で、そこでは出場権獲得が大きな目標になっていました。大きな目標を達成したら、どうしても人間はふと「抜ける」ことがありますよね。また新しいピークを、しかもさらに高いところに作るのは決して簡単ではありません。そこは昨シーズンの予選(パリ五輪最終予選2023)で出場権を取れなかったことが響いてしまった部分です。

――初戦のポーランド戦が分かれ目になってしまった印象です。

大山 タラレバになってしまいますけど、そうですね……。でもオリンピックになると海外の選手たちは目の色が変わって、今までと違う戦い方をしてきます。だから簡単ではないだろうなと思っていました。

女子だけではなくて、男子も本当だったらもっとバレーボールを楽しんでいる選手たちじゃないですか。でもパリでは固さが見られたので、(準々決勝で敗れた男子も含めて)オリンピックはこうだねと現実を突きつけられた大会だったなと感じます。

初戦のポーランド戦を日本は1-3で落とした [写真]=Getty Images

――チームの良かった部分はどう評価されますか?

大山 出場権をネーションズリーグで取れたのは本当に大きいことです。女子バレーは昔から「東洋の魔女」(※1964年の東京五輪で金メダルを獲得したチームの愛称)のイメージもあって、勝って当たり前と見られがちです。でもどの国も力をつけてきていますし、オリンピックに出られるのは世界のトップ12です。東京オリンピックからガタガタいってもおかしくなかったと思いますが、しっかり条件をクリアしてオリンピックに出たところは、評価してあげないといけない部分です。

――ブラジル戦は現地で取材していて、重苦しい雰囲気に感じました。

大山 やはり「勝たなければいけない」というものはすごく感じ取れましたね。勝ちたいより「勝たなきゃ」という雰囲気です。ネーションズリーグは「勝ちたい」だったと思いますが、オリンピックになるとやはり「勝たなきゃ」になる。それは思考としてかなり違うものです。

――今回のチームは古賀紗理那選手がキャプテン、エースで、色んなモノを背負っているように見えました。

大山 目指すレベルがすごく高い選手だったので、チームにも大きな影響を与えていたと思います。あれだけの強いリーダーシップを持てる選手は決して多くないので、ときに強すぎてしまうこともあったかもしれませんが、それによって東京オリンピックから崩れず、しっかりチームを作り上げられました。古賀選手の貢献は大きかったと思います。

パリ五輪を最後に現役を引退した古賀紗理那 [写真]=Getty Images

――古賀選手引退の影響、女子代表の次期リーダーについてはどう見ていますか?

大山 正直、誰が次キャプテンになるかは、見当もつかない状況です。ひとり軸になる選手が必要だなと思いつつも、誰かに依存するのでなく「チームで束になって戦うバレーボール」を日本はしていかないといけません。そこ(軸になる強力なリーダー、選手の不在)から良い影響が生まれればいいなと願っています。

――次のロサンゼルスオリンピックまで4年間で、女子代表の取り組みについて何かアイディアはお持ちですか?

大山 男子のバレーボールは「日本は背が低いからこうしよう」ではなくて、まず世界標準をしっかりできるようになってから日本のオリジナル……という取り組みをしていました。これまでの日本は男女とも「日本は体格的に劣るから、スピードで行こう」という考え方だったんです。でもスパイカーの能力が活かされず、苦しいバレーボールになってしまっていました。それを大きく変えたのが今回の男子です。

女子もネーションズリーグはそういうバレーボールだったのですが、追い込まれたり「勝たなきゃ」となったりすると、速さに固執してしまう傾向がありました。能力ある選手はたくさんいるのに、その良さが生かされないところをどうしても感じました。まずは個々の能力を信じて、世界標準のバレーボールをするところが必要です。そしてその上で、日本らしさ、オリジナリティを磨いていくのが良いのかなと思います。

男子日本代表を世界レベルに引き上げたフィリップ・ブラン監督 [写真]=Getty Images

――これから4年間で「ここが良くなる」という部分はどこですか?

大山 それは監督が誰になるかで大きく変わるので、今「ここ」というのは出しにくいです。

――10月には男女ともに「SVリーグ」が発足します。「お客を呼ぶ」「楽しんでもらう」という部分は、はっきり今までと違う発想のリーグになります。

大山 選手もチームも今まで、集客に対してあまり当事者意識がありませんでした。そこに当事者意識が生まれることは大きな変化です。競技以外への取り組みで、バレーボールの価値は上がっていくはずです。

もちろん結果はすごく大事で、強いチームだから魅力を感じる、応援したいと思う人もいます。一方でいかに地域活性化、地域貢献につなげるかは本当に大事です。SVリーグの誕生で、そういった意識が根付いていく期待感を強く持っています。

――大山さんの選手時代に「自分がお客を呼ぶ」という感覚、責任感は持っていましたか?

大山 ないですね……。当時のVリーグはいつも満員でしたし、インタビューでも「誰に何を届けたいか」は考えていませんでした。本当にプロ意識を欠いていたな……という反省は持っています。でも今、特に男子はそういった意識がすごく高くて。見ていて尊敬します。だからこそあれだけ応援してもらえているとも思います。SVリーグのスタートで、女子の選手たちにもそうなってもらいたいなという期待でいっぱいです。

SVリーグへの期待についても語ってくれた [写真]=須田康暉

――男子バスケはBリーグができてお客が増えて、レベルも上がるいい循環が生まれています。

大山 新しいアリーナもどんどん建って、見ていて本当にすごいなと思います。アリーナに人が集まって盛り上がって、街も活性化されていきますよね。バレーボールでも「自分たちが競技をやることでみんなを幸せにできる」と感じられたら、選手のモチベーションはより高くなります。そして競技をやる目的、意義にも目が向くと思います。そこまで意識できる選手が増えれば、競技力のアップにもつながるはずです。