[写真]=兼子愼一郎

 12月21日まで開催された天皇杯全日本バレーボール選手権大会は、白熱した決勝戦で幕を閉じた。設立10年目にして初めて決勝の舞台に立ったヴォレアス北海道は、ウルフドッグス名古屋に0-3で敗れたものの、大きな爪痕を残した。

「一度流れを渡してしまうと、もう取り返しがつかなくなる相手だと思っていたので、勝負所のトスというところはすごく意識していましたし、集中していました」

 優勝が決まってもなお緊張感を漂わせながら話すWD名古屋のセッター・深津英臣の言葉と表情からも、ヴォレアスがいかに危険な相手だったかが伝わってくる。準々決勝で優勝候補だったサントリーサンバーズ大阪を破り、準決勝では東京グレートベアーズに、2セットダウンから逆転勝利を収めて決勝に進んだヴォレアスの強さは本物だった。

「この大会で一番サーブがよかった」と深津が語ったように、ヴォレアスの快進撃の要因の一つはサーブだった。ラインぎわやレシーバーの間を的確に狙うサーブでエースを奪ったり、サーブレシーブを崩してブロックディフェンスから切り返し、得点に繋げていった。

[写真]=兼子愼一郎

 特に準決勝では、左右のサイドラインギリギリを攻めて12本ものエースを量産し、逆転の流れを作った。東京GBのリベロ・古賀太一郎はこう振り返った。

「的を絞りづらかったですね。5番(コートを6分割した際の後衛レフト)にも来るし、1番(後衛ライト)にも来るし、6番(後衛センター)にも来る。スピード勝負で来られたほうが対処しやすいんですけど、ああやって広角に打ち分けられると、こちらとしては絞りづらく、最後自分たちを信用できなかった部分がコート内で出て、サーブレシーブのオーガナイズがほころんでしまった。それだけ今日はヴォレアスさんのサーブがよかった」

 サーブはヴォレアスが徹底的に磨いてきた武器だ。練習に時間を割き、個々の課題の分析と改善にも努めてきた。

 準決勝で3本、決勝でも2本のサービスエースを決めるなど、今大会サーブで大きく貢献したミドルブロッカーの三好佳介は、Vリーグのヴィアティン三重から昨季移籍加入した。

「移籍する際もエド(・クライン)監督は自分のサーブを買ってくれていたんですけど、ヴィアティンではミスが多かったので、ヴォレアスに来てからは、毎回アナリストにフィードバックしてもらって、自分のどこがダメだったのか、しっかり見つめ直して取り組んできました。昨季は僕の特徴として、真ん中に集まってしまうところが課題だったんですが、普段からみんなで、コーンを置いてラインぎわを狙う練習などに取り組んでいるので、その成果が出ているのかなと思います」

 今季サントリーからレンタル移籍している染野輝も、ヴォレアスがサーブに重点を置いていることを肌で感じている。

「水曜日はコントロール気味にサイドラインやフロント、シーム(レシーバーの間)を狙うことにフォーカスして、木曜日はファーストサーブをやります。例えば120kmの速いサーブを打ったとしても、相手の正面に行ったら返されてしまうので、いかにコーナーやシームにコントロールして打てるかが大事だと、エド監督にはずっと言われています。サーブについてはそうやって毎週本当にしつこいぐらい練習しているので、選手の身について、自信になっているんじゃないかと思います」

 加えて、「勝たなければ」といったメンタルではなく、「まず楽しむ」ということを意思統一して臨んだことで、練習で身につけた技術をいかんなく発揮できた。

[写真]=兼子愼一郎

 2セットダウンから3セットを取り返し、初の決勝進出を決めた準決勝後の記者会見で、エド監督は「レジリエンス」という言葉を何度も使った。「困難や逆境を忍耐強く乗り越える力」といった意味合いだが、それはその試合だけでなく、ヴォレアスというチームを象徴する言葉のように響いた。

 2016年にプロバレーボールチームとして旭川市に誕生し、2017-18シーズンに、当時のトップリーグの3部に相当するV・チャレンジリーグⅡに参戦。19-20シーズンからは2部に昇格し、そのシーズン、念願だった1部との入替戦の権利を獲得するが、コロナ禍の影響で入替戦が中止に。その後は二度、入替戦で跳ね返されるが、22-23シーズンの入替戦に勝利し、悲願のVリーグ1部(現SVリーグ)昇格を果たした。

 昇格初年度の23-24シーズンは3勝33敗の9位、SVリーグとなった昨季は8勝に勝ち星を伸ばしたものの最下位。昨年の天皇杯はブロックラウンドで敗退し、ファイナルラウンド出場を逃していた。

 その中でも、「勝ちよりも、自分たちの成長に重きを置いてきた」と三好が言うように、勝敗に一喜一憂せず、地道に武器を磨き上げてきたことが今大会の決勝進出につながった。

「いい形で前に進めている証拠。我々は近道をせず、長期的な視点を持って我慢強くやってきました。成長というのは1日で表れるものではないので、謙虚に日々取り組んできた結果だと思います」と、設立初年度からチームとともに歩んできたエド監督は静かに手応えを噛み締めた。

 今シーズンはSVリーグでも現在7位につけている。この天皇杯でつかんだ自信が、さらなる躍進につながりそうだ。

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この記事を書いたのは

米虫紀子

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