SVリーグのALL STAR GAMESのチーム分けが、12月18日、両チームのキャプテンによるドラフト会議で決定した。女子の両キャプテン、山田二千華と佐藤淑乃は、ドラフト1位で同じ選手を指名した。今季クインシーズ刈谷に加入したセッター、ヌットサラ・トムコムである。
結果的に「TEAM YOSHINO」のキャプテン佐藤があたりくじを引き当てた。逃した山田は、「タイのレジェンドでもありますし、本当に経験が豊富な方なので、こういういろんな選手が集まるオールスターという舞台で活躍してくれるのかなという期待も込めて、一緒にやりたかった。(獲得できなくて)残念です」と悔しがった。
佐藤は、指名した理由をこう話す。
「一番の理由は、やっぱり一緒にバレーボールをやってみたかったから。レジェンドで、いろんな経験をされている選手。そういう方が日本にいること自体がすごく貴重なことなので選ばせていただきました。トスを打てるのが楽しみですし、それにいろいろと話を聞いていると、すごく人柄もいい方だそうなので。姉(佐藤彩乃)が刈谷で一緒にプレーしているので、姉とヌットサラ選手と、他にも何人かで一緒に1回だけ遊びに行ったことがあったんですけど、すごく明るい選手だったので、プレー以外も盛り上げてもらえるかなと思いました」

日本代表で活躍する2人に“レジェンド”と言わしめるヌットサラとはどんな選手なのか。
ヌットサラはタイ代表の司令塔として、プルームジット・ティンカオやオヌマー・シッティラックなどのスパイカー陣と繰り出す高速コンビバレーを武器に、国際舞台で台頭していった。現在タイは世界ランキング18位で、アジアの中では日本、中国に次ぐ三番手につけているが、ヌットサラの世代が大きくタイ代表の地位を引き上げたから今がある。日本代表とも好勝負を繰り広げ、特に竹下佳江さんが司令塔を務めた日本とのコンビバレー対決は見応えがあった。
クラブシーズンはアゼルバイジャンやトルコ、アメリカなどを渡り歩き、世界トップレベルのスパイカーたちとシーズンを重ねてきた。そして40歳になった今季、選手兼任コーチとして、刈谷にやってきた。
その理由を、ヌットサラはこう語った。
「SVリーグではタイの選手がたくさん活躍していますし、セッターとして、タイのスタイルはわかっているし、これまでヨーロッパとアメリカでプレーしてきて、今年日本でプレーしないかというオファーをもらったので、単純に面白そうだなと興味が深まり、日本に来ることを選びました。セッターコーチという役割もあって、両方をやるのは本当に難しいことだと思いますが、自分の経験や自信を活かして教えていければ。全力をチームに捧げたいと思っています」
11月15日の大阪マーヴェラス戦で、二枚替えでSVリーグ初出場を果たすと、低い返球からでもしゃがみ込んでクイックを使うなど、スピード感のある攻撃展開でリズムを変えたり、攻撃の幅を広げて流れを引き寄せ、チームの勝利に貢献。

「初めて日本の試合でプレーして、率直に楽しかった。クインシーズで2ヶ月間一緒に過ごし、チームメイトとはお互いのことがわかってきたので、今日こうしてみんなとコートに立つことができて本当に嬉しいです。映像を何度も見て、相手の特徴を捉えていたし、最初コートの外から、コート内の選手たちがどうやったら活躍できるかを考えながら見ていたので、適応できたと思います」と笑顔で話した。
酒井新悟監督も満面の笑みだった。
「今日は相手が昨季のチャンピオンチームなので、彼女の力を借りようと思って、初めてベンチに入れましたが、いい仕事をしてくれました。今日見てもらったように、トスの質が素晴らしい。ボールが回転しないですからね。やっぱり世界を代表するセッターだなと思いました」
そしてプレー以上に酒井監督が絶賛するのが、人柄やコミュニケーション力だ。
「他のセッターに、20点以降の戦い方からトスの上げ方まで、いろいろとコーチングしてくれますし、それ以外の部分でも、今季は外国籍選手がヌットサラを合わせて4人いるんですが、そのコミュニティをしっかりまとめてくれて、日本人の若い選手とつなぐ役割もしてくれたり、本当にいろいろなところで貢献してくれている。本当に素晴らしいプレーヤーであり、素晴らしいパーソナリティを持った選手。本当に来てもらってよかったと思っています」
セッターの髙佐風梨は、ヌットサラについて、「試合の中でアドバイスをくれるだけじゃなく、日頃の練習から自主練習にもついてくれるし、練習時間以外でも映像を見せてくれてアドバイスをくれたり、常にコミュニケーションを取ってくれます。ダメな部分ももちろん言ってくれるんですけど、よかったプレーをすごく褒めてくれる方なので、いい吸収をたくさんできていると感じます」と話す。

何かアドバイスする際、ヌットサラは決して否定も強制もせず、「自分の持ち味を活かしつつ、でもこういう考え方もあるから、トライできる時にトライしてみて。よかったら続ければいいし、自分に合わないと思ったらもうやらなくてもいいよ」と選択肢を与えてくれるという。そうした中で髙佐は今季、自身の変化を感じている。
「昨シーズンまでは丁寧なプレーを意識していたんですけど、今シーズンはそれだけじゃなく、トライするところはトライする、というのを意識するようになりました」
いつも明るく、バレーも日本での生活も楽しんでいる様子が、本人の表情や周囲の言葉から伝わってくる。他チームの選手までもが「一緒にプレーしてみたい」と惹きつけられるのも納得だ。
コンビネーションにさらに磨きがかかるであろう後半戦、ヌットサラがどんなプレーを披露し、チームをどんなふうに変えていくのか注目だ。




