壮大な夢に向けた、新たな一歩。

 SVリーグ2年目を並々ならぬ決意と覚悟のもとで迎えたのが、クインシーズ刈谷だ。昨季はレギュラーラウンド9位。チャンピオンシップ進出をあと一歩で逃した。その悔しさをバネに、次こそは上位進出を、と掲げるのはもちろんだが、その覚悟が口先だけでなく本気で「変化」と「変革」を目指すものであると強い意志を感じさせたのが、8月25日に行われた新体制発表だった。

 北河英典代表から「3年以内のリーグ優勝」を目標に掲げること。加えて、28年に三河安城駅前に新設され、Bリーグのシーホース三河と共用するホームアリーナ構想について発表され、新たなシーズンに臨むスタッフ、選手が新しいユニフォーム姿で並ぶ。今季就任した酒井新悟監督からも「チームの歴史的な瞬間に立ち会い、身が引き締まる思い。勝つこと、結果を残すことはもちろん、成長を楽しんでもらえるように。クインシーズ刈谷の未来を地域、ファンの皆さんと一緒に築き上げていきたい」と決意が述べられた。

 今季在籍7シーズン目を迎える主将の鴫原ひなたや、副将の吉永有希。昨季も主軸を担った選手が揃う中、新体制発表の場には欠席となったが、チームの「変革」に向け、象徴ともいえるのが今季、新加入した外国籍選手の存在だ。

 かつてクインシーズでのプレー経験があるオポジット、ダニエル・カッティーノやミドルブロッカーのマリー・シェルツェル、アウトサイドヒッターのソフィア・クズネツォワといった面々に加え、最も目を引くのがセッターでコーチも兼任するヌットサラ・トムコムの加入だ。

タイ代表のセッターとして活躍したヌットサラ [写真]=Getty Images

 タイ代表のセッターとして日本でもなじみの深い選手であるだけでなく、ユース年代から共にプレーしてきたチームメイトと築き上げたコンビバレーはタイや日本だけでなく世界を魅了した。いわば“レジェンド”と言うべきセッターが初めて日本のクラブでプレーすることになるのだが、同じセッターで今季は日本代表として韓国遠征も経験した髙佐風梨は「最初は(ヌットサラを)全然知らなかった」と苦笑いを浮かべる。

「私は全然わからなかったんですけど、加入が決まった時に加地(春花)と(佐藤)彩乃さんが『すごい!』と言っていたので、すごい選手が来るんだな、と思って映像を見たらとにかくすごくて。こんなバレーがあるんだ、と思いました。でもタイ特有のバレーは独特でもあるので、これがクインシーズでどんな形になるのかも楽しみだし、個人的には勉強になることしかない。いいところをたくさん見て、学んで、自分の良さを消さずに成長したい、という思いが強くなりました」

セッターの髙佐風梨(左)

 同じセッターの髙佐が「学びたい」と言うのに対し、実際にそのトスを打つ側はどう感じているのか。9月の合流以後、練習を重ねる中でアウトサイドヒッターの鴫原と吉永は「とにかく打ちやすい」と口を揃え、鴫原は「人間性もとてつもなく素晴らしい」と目を輝かせる。

「『ここに上げてほしい』と言えば絶対トスが来る安心感はもちろんですけど、人柄も本当に最高。アップダウンがなくて、いつも陽気だけどチームのことをちゃんと見ていて、それぞれの選手に対する声のかけ方もアドバイスしてくれる。来てすぐ日本語を話そうとしてくれていたり、あれだけのベテラン選手なのに周りが言いにくい空気感はゼロ。攻撃のパターンに対しても『このローテが弱いからこっちにもっと入ってほしい』とか、すごく具体的に伝えてくれるので、バレーボールを通していろんなことを伝授してもらっています」

キャプテンの鴫原ひなた(中央左)

 まさに最強の“助っ人”と呼ぶべき存在の加入ではあるが、外国籍選手が増えればそれだけチーム内競争も激化するのは当然のこと。他ならぬ、鴫原自身も実感している1人でもある。

「今までは外国籍選手1人とアジア枠だったのが、今シーズンからは倍になった。チームとしては本当に頼もしい、素晴らしいことだと思うけれど、私自身もアウトサイドヒッターで外国籍の選手と一緒にプレーするのは初めてなので、自分自身ももっと頑張らないといけない、というプレッシャーもあります。外国籍の選手が増えたからそれだけ日本選手の出番が少なくなるということではないけれど、レベルアップしなければ出る機会は減る。少ない枠を争うのは厳しい戦いになるとわかりきっているし、練習中から悩むことも増えました。もともといろいろ考えるタイプなんですけど、今は本当に、毎日“頑張らなきゃいけない”って思っています」

 プレッシャー、と聞けばマイナスのように捉えられるが、決してそうではない。むしろ鴫原は「このチームだから頑張れるし、頑張りたい」と言葉に力を込めた。

「(試合に)出る人には出る人、出られない人には出られない人の苦しさがあって、シーズンを過ごす中で楽しいことも嬉しいことも、そうじゃないこともたくさんあると思うんです。でもそれぞれがどんな感情を抱いていてもチームのために動けるのがこのチームで、そういうチームで練習できている実感があるので、いいチームであるだけじゃなく、極めるところはちゃんと極められるように私もできる限りのことを全力で果たしたい。今まで、粘るけど最後に勝ち切れなかった、という試合やシーズンが多かったので、今年は最後に勝ち切れるチームになれるように。日本代表選手がいるチームではないので、なかなか注目してもらいづらいのかもしれないですけど、それでもいいバレーをし続けて、チームとしてみんなで頑張っていきたいです」

 光が当たる日が、必ず来る。自分自身を、“こんなにいいチームはない”と胸を張って言える仲間と共に、信じて進み続ける。

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この記事を書いたのは

田中夕子

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