ビーチバレーボールで国内デビューを飾った水町泰杜(トヨタ自動車)[写真]=坂口功将

 インドアとビーチバレーボールの二刀流として今年から活動する水町泰杜(トヨタ自動車)。この週末は「ジャパンビーチバレーボールツアー2024 第4戦 立川立飛大会」に出場する。さかのぼること2週間、本人が国内大会デビュー戦で味わったビーチバレーボールならではの醍醐味や面白さを、所属先を同じくする先輩プレーヤーの証言も交えながら紐解く。

 誰もなしえなかった二刀流の道へ。昨年冬にインドアとビーチバレーボールの両立を発表した水町は、2023-24 Vリーグを戦い終えた今年5月から本格的に舞台を砂の上へ移した。日本のトップ選手が数多く名を連ねるトヨタ自動車ビーチバレーボール部に所属し、さっそくスロベニアでの海外遠征合宿を経験。現地ではイタリアのオープン大会で実戦デビューを果たすと、その後、クロアチアの大会では優勝に輝いた。

 そうして1ヵ月近くの武者修行を経て、6月中旬に帰国。6月29日〜30日の「ワールドマスターズゲームズ2027関西開催記念 ジャパンビーチバレーボールツアー2024サテライト南あわじ大会」で国内大会デビューを飾る。水町の姿を一目見ようと、サテライト大会では異例ともいえる数の観客の姿が見られ、大会運営に携わった中学生たちが「見たかってん!!」「かっこいいなぁ」と目を輝かせる様子も。水町の人気と注目度の高さをうかがわせた。

 さて、肝心の戦績はというと、大会自体はトーナメント戦で行われ、一回戦は2-0(21-19,26-24)のストレート勝ちを収める。第2セットは先にセットポイントをにぎられてからの逆転だった。だが「ブレイクの場面での僕のレシーブがポンコツ過ぎました」と苦笑いを浮かべたように、本人にとってはやや苦い初白星だったようだ。

 続く第2戦は同じトヨタ自動車の先輩・進藤涼との対戦に。その進藤/渡辺周馬(東京グレートベアーズ)ペアはシードで、これが大会初戦とあってか、出だしからミスも目立つ。水町/マイ・ナヌト(スロベニア)ペアは序盤の大量リードをキープしたまま、21-14で第1セットを先取する。

 一方、第2セットは逆の展開に。水町が進藤に4度のブロックシャットを浴びるなど、なかなかサイドアウトを奪えず。終盤に水町がサービスエースを奪って追い上げるも、16-21で及ばなかった。

 そうして最終第3セットは終盤まで競り合うものの、水町の痛いスパイクアウトもあり、12-15で軍配は進藤/渡辺ペアに上がる。「第2セットで相手にブレイクされて…。(ペアの)マイがアタックするシチュエーションも増えたのですが、僕のセットがイマイチでしたね。第3セットはマインドチェンジして臨んだのですが…大事な場面でのボールコントロールの精度や、そうした経験自体がまだ足りないと感じました」と水町は初戦以上に悔しげな表情を浮かべながら敗因を語った。

 終わってみれば、経験の多さで上回るペアが逆転勝利を収めたわけだが、その第2セットに“ビーチバレーボールならでは”の試合運びがあった。試合後、進藤は解説もまじえて、このように明かしてくれた。

「第1セットは単に自分たちのスパイクミスが多かった、に尽きます。そうして第2セットからはまずサーブのリズムを変えました。インドアと違って、ビーチバレーボールはサーバーが構えたら主審の笛が鳴るんです。たとえレシーバーが準備をしていなくても。それで相手がペア同士で会話しているときに、構えて、笛が鳴ってからすぐに打って奪ったエースが第2セット中盤にありました。その逆で、笛が鳴ってから制限時間いっぱいまで呼吸を置いて、強くサーブを打ったりも。そういうリズムがビーチバレーボールでは大事になってくるんです」

 プレーを開始する、その初手から自分たちのリズムに引きずりこむというわけだ。それは相手のリズムを崩すためでもある。水町はかねてから「自分に高さがないぶん、スピードや速いリズムでの戦い方が必要」と語っていたが、そうさせないサーブの打ち方を進藤は講じていた。

「彼らは比較的速い攻撃を仕掛けてきます。それに対して、ただ強く打つのではなく、前後の揺さぶりだったり。また相手の目線を変えるように、ときにはボールの軌道に高低をつけることで、相手が攻撃を仕掛けるリズムを変えることを意識してサーブを打っていました。本来なら、そうさせられたところで対応しようとなるのですが、彼らはできなかった。まだビーチバレーボールに慣れていないですからね」

 水町自身、ビーチバレーボール選手として活動して、このときでまだ2ヵ月ほど。ペアを組むマイもインドアと両立しており、ビーチバレーボールが本流というわけではない。試合運びという点で、経験豊富な相手の前に屈した。そして、それは第2セットで目立った被ブロックも然りだった。

「おそらく水町くんはブロックがよく見えているんですね。インドアの選手によくある特徴なのですが、見えている分、ブロックの横を抜いてくる。なので、僕も早めに腕を出して、見せておいてからアタックされたほうに動かして止めにいくことを。そこは駆け引きですね。それがはまりました」と進藤。これには水町自身も「ここでクロス打ちたいというシチュエーションでけっこう仕留められていました」と自覚していた。

 もっとも水町が話すに「第2セットは点差も開いていたので、どこが抜けて、どこが止められるかを第3セットに向けて確認しつつ、最後はライン側へのアタックも入れたりしていました」と工夫も。ただ、1本目をマイに集めることで、水町をトス役に回す、そのように進藤/渡辺ペアがコントロールしていたのも勝敗を分けたポイントだった。

 水町の国内大会初黒星には、“ビーチバレーボールならでは”の戦術やプレーが随所に散りばめられていた。そこで味わうすべてが水町にとって成長の糧となる。

 例えば、この大会は兵庫県の淡路島の海辺で開催されたが、海風が吹きすさぶ状況下は実質初めて。5月に臨んだイタリアでの大会は海辺のリゾート地だったが、砂浜自体が広大過ぎるあまりに風の影響はさほどなく。その頃は「(有利な風下とされる)グッドサイドも、バッドサイドも全然わからないっス」と嘆いていたが、今回は「サーブで顕著に違いが出ましたね。さすがにわかりました」と嬉しげだった。

 また、強みであるレシーブ面に関しても得るものがあった様子だ。進藤/渡辺ペア戦では、渡辺の強打を体全体で受け止め、そのボールが相手コートに返り、得点につながるケースが見られた。的確にコースに入り、抜群の反応でハードヒットに対応する、それは海外でさらに培われたものであるが、同時に本人は難しさを覚えていた。

「海外は高い打点から強くボールを打つケースが多くて、試合はサイドアウトの応酬みたいになるんです。ただ、日本で戦ってみて、思っていた以上にショット(※)が多かったです。その分、ラリーが続きますし、そこでのレシーブやボールのファーストタッチがとても大事になってくると感じました」

 水町が初戦を終えて、自身のレシーブを“ポンコツ”と表現した理由もここにある。実際、海外遠征合宿でビーチバレーボールのスロベニア代表のネイツ・ゼムリャクとペアを組んだ際の試合では「Don’t move」と口酸っぱく言われたそう。

「めっちゃ教えてもらいました。相手に打たれる前に動くんじゃない、って何度言われたことか(笑)ただ、それに対応してきただけに、強打を待っている自分がいるんです。それで、日本人選手のショットに対する一歩目の反応が遅れる。マインドチェンジしないと苦しみそうですね」

 ペアとなる相方に加えて、対戦相手の顔ぶれや講じてくる策、そして、そもそものシチュエーション。それらが一つとして同じではなく、さらにその振れ幅が大きいのがビーチバレーボールの醍醐味であり、それを水町は味わっているというわけだ。

 国内大会デビュー戦を終えて、「味方も敵も、プレーする選手によって、ほんとうにやり方を変えなきゃいけない。難しいっス」と吐く。ただ、こう続けた。「面白いですよ!! 逆に言えば、自分自身のやりようはいくらでもある、そう思うので」

 砂の上で繰り出す冒険の日々は、始まったばかりだ。

※ビーチバレーボールでは、指先を使ったアタック、いわゆるフェイントやプッシュは反則。曲げた指の背を使うポーキーショットや、指を突き立てて打つコブラショットという攻撃方法を用いる。(参考:公益財団法人日本バレーボール協会)