パリ五輪の出場権を獲得して日本に帰ってきたビーチバレーボール女子日本代表の選手たち [写真]=坂口功将

 ビーチバレーボールの女子日本代表は長谷川暁子(NTTコムウェア)/石井美樹(湘南RIGASSOビーチビーチバレーボールクラブ)ペアがパリ五輪に出場する。寧波(中国)で行われた「2024コンチネンタルカップ パリオリンピックアジア大陸予選 第3フェーズ」(以下、コンチネンタルカップ)で優勝を果たしてパリ行きの切符を獲得したわけだが、そこにはもう一つの日本代表の戦いがあった。

 コンチネンタルカップ優勝の翌日、日本に帰国した一団は歓喜で迎えられた。2008年北京五輪以来、実に16年ぶりとなる自力での出場権獲得だ。

 関係者たちから花束を受け取ったのは4人。このコンチネンタルカップに出場した女子日本代表チーム、長谷川/石井ペアと橋本涼加(トヨタ自動車)/村上礼華(ダイキアクシス)ペアである。彼女たちは一丸となって戦い、凱旋した。

笑顔で帰国したビーチバレーボールの女子日本代表 [写真]=坂口功将

 6月21日から23日に開催されたコンチネンタルカップ。大会は各国が“4人・2ペア・1チーム”で争う団体戦であり、違うペアどうしで2試合を戦う。そこで2勝した国が勝利、仮に1勝1敗の場合はゴールデンマッチに持ち込まれる。その決勝で日本は中国と対戦した。

 一番手として登場した長谷川/石井ペアは2-0(22-20,21-15)で先勝。だが、続く橋本/村上ペアが0-2(16-21,5-21)で敗れ、決着はゴールデンマッチへ。その大一番に抜擢されたのは長谷川/石井ペアだった。第2試合で黒星を喫した橋本は回顧する。

「(第2試合で)勝っていればストレートで(パリ五輪の)出場枠が取れる、かつ、私たちにとってもアピールの場でもありました。それが叶わなかったわけですが、ゴールデンマッチはアキさん(長谷川)とミキさん(石井)でいく、と伝えられ、『まだ試合は終わっていない。応援に行こう』という気持ちになりました」

 そのゴールデンセットで相手の中国はペアチェンジを講じてきた。その一人は、第2試合で橋本/村上ペアと対戦したばかりとあって、橋本は長谷川/石井ペアにできる限りの情報を共有した。

「ペアチェンジしたのがブロッカーだったんです。私たちは最初、その選手を狙わなかったのですが、第2セット目から狙うようにしたら効果的に崩れたので。そのことを伝えつつ、ですが最後はお二人の判断で試合をしてくれたと思います」(橋本)

 結果的に長谷川/石井ペアは2-1(21-10,21-23,16-14)の激闘を制し、コンチネンタルカップで優勝。日本はパリ五輪の出場枠を獲得した。アジア代表としての1枠、つまり1ペア分を。

中国に2勝した長谷川暁子(左)と石井美樹(右) [写真]=坂口功将

 大会を戦うのは2組のペアであるのに、付与されるのは1枠のみ。それが、五輪の切符を得るためのラストチャンスである、このコンチネンタルカップのルールだ。

「2チームで1枠しか取れないのはわかっていたことです。でも、4人全員で取りにいかないことには、それが叶わないのも知っていて。みんながベストを尽くした結果、出場枠が取れました。最終的にパリ五輪に出場するのがこのうちの誰かはわからないわけですが、そこをあんまり考えないようにして、まずは“取りにいく”ことに集中できるようにしたいと考えていました」

 今回の女子日本代表チームでキャプテンを務めた長谷川は、そのように語った。橋本が“アピールの場”と口にしたように、この大会は4人のうちからパリ五輪に派遣する1ペアを選考する機会でもあった。だが、兎にも角にも大会を制さないことには意味がない。加えて自分たちに目を向けると、チームとはいえ普段はネットを挟んで対戦するペアどうしである。なんとも複雑なものだろうと選手の胸中を察するが…。

「普段はお互いにライバルですが、試合をしていくと、自然と応援したくなるんです。最後のゴールデンマッチはほんとうに自分が試合をしているくらいの気持ちでした」と村上は言い、橋本も「ライバルと意識してしまう部分はありましたが、山本知寿監督から与えられた役割もあって。それを達成するために一生懸命、練習をしてきました。自分たちは2番手として相手の2番手に勝つことが第一目標だったので。それだけでした」とそこにあった思いを明かした。

 6月24日、成田空港で解団式が設けられた。およそ1年にわたる出場権獲得の道のりを振り返る。その後、報道陣の取材に応える橋本/村上ペアの2人の目から涙がこぼれた。

「誰が見ても、あのゴールデンマッチは感無量、と言いますか。同じ選手として刺激を受けるものでしたし、最後は泣きながら応援していました。まさにONE TEAMでしたね」

「私たちは最後、力不足ではありましたが、役不足ではなかった。胸を張って帰るべきだと思いますし、今後の試合につなげていきたい。本当にいい経験ができて光栄でした」(橋本)

「決勝で負けてしまって、すごく悔しいのが根本にあります。ですがゴールデンマッチを見て、本当に感動しました。一緒にこのチームで戦えてよかった、その涙です」(村上)

 その翌日、ビーチバレーボール強化委員会は選考の末、長谷川/石井ペアのパリ五輪派遣を決定した。ともにビーチバレーボールの競技歴は10年近くで、長谷川はこれが初、石井は東京2020大会に続く2度目の出場となる。

 本番ではパリの名所・エッフェル塔をバックに構える特設会場のコートで、日の丸をつけて戦う2人の姿が見られるだろう。そのときに思うのだ。これは彼女たち4人の“日本代表”がONE TEAMとなってつかんだ、夢切符だったのだと。

ビーチバレーボール女子日本代表としてパリ五輪の壮行会に参加した、左から山本和寿監督、長谷川、石井 [写真]=金田慎平