[写真]=坂口功将

 レギュラーシーズンも大詰めを迎えると同時に、リーグのホワイトデー企画として展開されている「きゅん1GP 2025」。SVリーグ女子の全14チームから1名ずつがエントリーし、“ナンバーワンきゅん選手”を争うなか(投票締切は3月24日23:59)、埼玉上尾メディックスから参戦しているのが仁井田桃子だ。

 下北沢成徳高校(東京)を卒業後に埼玉上尾に入団。今季で在籍は6季目を数えるが、「大卒の選手が主に入ってくるので、いつまでもチームでいちばん年下のポジションなんです」と笑う。代名詞と言えるのが、底抜けの明るさ。今でこそ「その役回りは代わりました」と言うが、以前は試合直前の円陣で声を張り上げてチームのムードを一気に高める役割を担っていた。「男子バレーの西田有志さん(大阪ブルテオン)のような鼓舞するスタイルに憧れます。なかなか女子バレーでは見られないタイプだと思いますし、すごいなって。男子バレー自体、見るのが好きで西田選手はチェックしています」と明かすように、プレーから得点後の表情、コート内外の振る舞いまで、そこにいるだけで周囲の雰囲気が上がる“元気娘”である。

 だが実のところ、昨季は葛藤を抱えていた。2023-24シーズンでは主にセッター対角、いわゆるオポジットのポジションでプレーしていた仁井田。シーズン前半戦ではスタメンで起用されていたものの、年明けからは高校の先輩でもある黒後愛の出番が増え、それに伴いベンチに控える時間帯が長くなったのだ。

[写真]=坂口功将

「腐る…とまではいきませんが、スタートで出られないことに気持ちが揺らいでいた部分はあります。正直に言えば、モチベーションが下がっていた時期でした」

 学生時代からの「仁井田=常にハイテンション」という印象を持ってすれば、その告白は意外にも感じられた。

「ほんとうに昨季は『バレーボールが楽しくないな』と思ってしまうほどでした。なかなか強気でいけない自分がいて、リーグの後半は『このまま黒後選手が出ていたほうがチームはうまくいくんじゃないか』なんて考えてしまったりも。ですが、今季を迎えるにあたっては気持ちの整理ができました。たとえ試合に出られなくても自分にできることをやるんだ、という良い精神状態でプレーできています」

 聞くに、誰かに促されたわけでもない。「自分の中で気がつけた」ことで、前向きになれたという。そうした、自身の中で沈んだ経験をしたからこそ、今季はどんな立場に置かれても揺るがない。たとえ同じポジションに黒後と、さらには外国籍選手のニカ・マルコヴィッチ(スロベニア)という新戦力が加わったとしても、だ。

「ライト(オポジット)は私も入れて3人いるわけですが、黒後選手とニカ選手は攻撃力があり、後衛でもバックアタックを仕掛けられます。私自身、攻撃力は2人と比べて劣る部分はありますが、後衛ではサーブレシーブの安定感が求められているのだと思いますし、違う役割を担う存在だと」

「自分の数字でいえば『それほど今日は決定率がよくなかったな』と感じるときもありますが、とはいえチームが勝利している試合もあるので、そこは気にせず。3人いる分、出られない場面もあるので、そりゃあフラストレーションがたまるときだって。でも、心は健康に過ごせたらいいなと思うんです」

[写真]=坂口功将

 今季のチームでいえば、週末の2試合のうち土曜日と日曜日で2人のセッターを使い分けている。対角に入る仁井田も、岩崎こよみと鎌田咲希のどちらが司令塔を務めるかによって試合中の打数も異なるわけだが…。

「トスの質も違いますし、そこは難しいですが、セッターの2人とも自分のことを理解してトスを上げてくれていますし、信頼してくれているなと感じます」

「自分が前衛にいるときは、打数の多い少ない、決まる決まらないにかかわらずセッターを少しでも楽にさせられたらいいと考えています。打数は多いほうが‥もちろん打ちたいですよ(笑)。打ちたいんですけど、そればかりが前に出るとサーブレシーブがおろそかになってしまうことがあったので。今季は『しっかりとサーブレシーブを上げてから』を意識して、それほど攻撃を重視しすぎないように心がけています」

 自分自身そしてチーム内競争と向き合う今シーズン。昨年末の皇后杯で仁井田は、意気込みをこのように語った。

「もし今の時点で、リーグの決勝戦のメンバーを決めるとなったら、おそらく私はライトに入らないと思うんです。それはわかっている。だからこそ最終的にシゲさん(大久保茂和監督)がメンバー選考にめちゃくちゃ悩むくらいの選手になるのが目標です。黒後選手やニカ選手に負けず、チーム内で信用されることはもちろん、プレー面や精神面でも安定できるように。対戦相手もあるので実際に試合に出るかどうかはわかりませんが、決勝のオーダーに残れるように頑張ります!!」

 そんな思いで努力する姿はきっと、見る人を“きゅん”とさせることだろう。

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