3月16日のサントリーサンバーズ大阪戦の終了後、東京グレートベアーズのチャンピオンシップ進出決定が場内にアナウンスされると、東京体育館に集まった約7000人の観客から大きな歓声が上がった。
チーム創部と同じ2022年、東京GBの一員となった戸嵜嵩大は言う。
「数字的にプレーオフに行けるのではないかというのは少し前からわかっていたのですが、確定したときは、やはり〝やっと決まった〟とホッとする気持ちが強かったです。ただ、アナウンスがあったときに観客の方がすごく湧いてくれた。改めて僕らだけではなく、ファンの方と一緒に戦ってきたのだと感激しました」
創部以来、掲げてきた大きな目標をファンと喜び合った瞬間だった。
開幕直後から見せた快進撃「昨年とは相手の戦い方が違う」
バレーボールリーグが将来的に完全プロ化を目指し、開幕した『大同生命SV.LEAGUE 2024-25』大会。発足から3シーズン目となる東京GBにとっては、開幕直後から昨シーズンまでとは違う、成長の手応えを感じる戦いが続いた。開幕節は前年度優勝のウルフドッグス名古屋を相手に、敗れはしたもののどちらも1セットを奪う好ゲームを見せ、続く東レ静岡、広島THには連勝。11月3日、有明アリーナで開催されたサントリーとのGAME1では3対2とフルセットの激戦の上、勝利を収める。
試合後、主将の古賀太一郎は語った。

「強力なサーブで攻められ、苦しい展開にはなりましたが、今日のサントリーさんは〝リスクを負ってでも強いサーブを打って、そこから突破口を開いていこう〟という戦術を貫いてきました。これは昨シーズンまでには見られなかった戦い方です。明らかにグレートベアーズのステージが一段階上がったということだと感じています」
東京GBは休部が決定したFC東京バレーボールチームを、株式会社ネイチャーラボが全体譲渡という形で発足。2022年のことだった。1年目は開幕9連敗を経験し、最終成績は10チーム中8位。2年目は勝利数を前年より7試合増やし7位と順位を上げたものの、1勝の差で惜しくもプレーオフ進出を逃す。2020年に海外リーグからFC東京に移籍し、なかなか結果を出せない時代を知る古賀だったが、今シーズンは開幕序盤の段階でチームの成長を実感していたという。
「我々は今季が3シーズン目ですが、今シーズン、試合に出場している若手選手は、勝負どころでもしっかり戦えるメンタリティを持っていると感じますね」
開幕節から主戦として試合に出場した入団1年目の後藤陸翔や伊藤吏玖、パリ五輪の日本代表セッター・深津旭弘に代わってトスを上げる機会が大幅に増えた24歳の今橋祐希などフレッシュな選手の台頭が目立った。

「後藤に関して言えば昨年、オリンピックが開催されている最中、同級生の髙橋藍選手がオリンピックの舞台で活躍していたのが刺激になったのかもしれませんが、夏場のトレーニング、ボール練習を人一倍頑張っていました。将来、日本代表になるという自覚もあるし、実力もついてきています。伊藤は各世代で優勝するなど、圧倒的に勝った経験の方が多い選手。良くも悪くもこれまでいたグレートベアーズの選手とは全く違うメンタリティを持っています。試合中、どんなに点差が開いていようと自分のプレーを淡々とこなす。そういったところに強みがあると思います」(古賀)
ただし、こうして若い力が躍動できるのは柳田将洋、深津ら頼りになるベテラン勢が後ろに控えているからである。今橋は語る。
「開幕から多くの試合に出させていただきましたが、そこまでプレッシャーは感じていません。むしろ深津さんが控えてくれていることで、自分は伸び伸びとプレーできていますし、それが今シーズンのグレートベアーズにとっても強みであることは確かです。今は昨シーズン、自分たちより順位が上だったチームに対してもしっかり戦えているし、勝てている。大きな自信に繋がっています」
今橋と深津の違いについて大竹壱青はこう分析した。
「深津さんは経験が豊富で安定感のあるセッター。対して今橋は、多分バレーボールをよく観ている人、プレーしている人からすれば『面白いアタッカーの使い方をするな』と思われるセッターだと思います。この攻撃を使ってみよう、あの攻撃を使ってみようと、チャレンジできるのが彼の強み。そして先輩に対しても臆さずにグイグイ言ってくるタイプなので、それはセッターとしての長所であり、今橋の長所だと思いますね」
若手とベテランの力が融合し、開幕から18試合目となる大阪ブルテオン戦で順調ともいえる今シーズン10勝を挙げた。
3月、チームに訪れた危機「全選手が一体となる戦いが必要」
全員がAチーム。そして全員で勝ち、全員で負けるというのがカスパー・ヴオリネン監督の口癖で、普段の練習中から先発出場の多さにこだわらず、さまざまなポジション、対角を組み合わせてチームを編成し、練習している。本来はアウトサイドヒッターである戸嵜や後藤、亀山拓巳をオポジットで起用することも多い。後藤は語る。
「最初は戸惑ったり、本来のポジションで出たいという気持ちがあったのですが、プロとしてさらに上に行くために、そして今一番何が必要かといえば与えられたチャンスを生かして監督の要求に100%応えることだと思います。そこで結果を出せばチーム内での自分の価値が上がりますし、そうやって考えているうちに戸惑いはなくなりました」
その柔軟なチーム方針がリーグ終盤、チームの危機を救うこととなる。
3月1日、大阪ブルテオンとの第17節GAME1において東京GBのマチェイ・ムザイによる相手選手への差別的・侮辱的発言があったことが確認された。東京GBからは翌日の試合出場の自粛、SVリーグからは計10試合の出場停止処分と制裁金50万円を課すことが発表される。
この一件を受け、東京GBは3月2日のGAME2ではムザイの抜けたオポジットに後藤、アウトサイドにアレックス・フェレイラと、今シーズンはスタメン出場から遠ざかっていた柳田を起用。敗れはしたもののフルセットの激戦に持ち込んだのだ。
試合後、柳田は試合を振り返った。
「チームがこういった(危機的状況)ときに出場するのは、これまでのキャリアの中でも数多く経験してきたつもりです。大事な場面で頼ってもらえることに選手としての自分の価値を見いだしている部分もありますね。今日はスタートから最後まで出ましたが、そういった大事な場面で決められた得点もありました。僕の中では想定していたよりは冷静にボールを追いかけたり、しっかり打つことができたんじゃないかなと思います。この先は今日以上にチーム一体となった戦いが必要になります。僕以外にトスが上がる時も次のボールを待てる準備をして取り組みたいと思います」
出場停止前まで圧倒的な得点力、そして高さを生かしたブロックでチームに貢献してきたムザイを欠くことは当然、戦力的には大きな痛手だった。しかし全員でこの難局を乗り切るしかない。そんな覚悟が見えた一戦だった。
その後、東京GBにとっては苦しい戦いが続く。第35節のSTINGS愛知相手には1勝をもぎ取るものの、続く36節のサントリーには連敗を喫す。ただし、シーズン序盤に積み重ねた勝ち星が効き、3月16日には他クラブの試合結果もあってチャンピンシップ進出が確定した。
最終節となる4月5~6日の日本製鉄堺ブレイザーズ戦、最後のホームゲームを連勝で締めくくった東京GBは、弾みをつけて4月18日からのクォーターファイナルを迎えることとなる。
「順位が決まっている中での試合となりましたが、最後のホームゲームということで僕たちにとっては非常に大切な試合でした。しっかり戦えることを再確認し、さらに勢いをつけてプレーオフに臨めると思っています」(柳田)
クォーターファイナルの相手はレギュラーラウンド1勝5敗と苦戦したジェイテクトSTINGS愛知である。東京GBにとって未知の領域となるチャンピオンシップで、どのような戦いを見せるのか。
「我々が目指すところは決まっている」(柳田)と、レギュラーラウンド同様、全員の力を集結して臨むだけだ。
