バレーボールキングでは「チェアマン通信『SVリーグのリアルをお届け』」と題し、今シーズンから大河正明・SVリーグチェアマンのインタビュー記事を連載している。ファンや選手に「どんな改革が進められているか」「そこにどんな意味があるのか」を伝えることが、本連載の目的だ。
大同生命SV.LEAGUE(SVリーグ)は10月10月に女子、24日に男子が開幕した。選手たちの熱い戦いと同時進行で様々な議論、改革が進められている。2024-25シーズンから既にリーグの枠組みは大きく変わったが、2026-27シーズンからは男女ともクラブの“プロ化”がSVリーグ参戦の条件になる。
チェアマン通信の第2回はSVリーグの「プロ化」について、大河チェアマンに語ってもらっている。
――まずVリーグの日本バレーボール協会(JVA)への移管についてお聞きします。長くファンに親しまれてきたVリーグですし、先行きについてファンに不安も広がっているようです。
大河 こちらの説明不足で、選手やファンの皆様に不安をお与えしてしまい、申し訳なく思います。
2024-25シーズンからSVリーグが発足してV1、V2、V3の3部制から、SVとVの実質2部制に移行しました。私は現時点でVリーグを運営する「一般社団法人ジャパンバレーボールリーグ(JVL)」の代表理事も兼ねています。
2026-27シーズンからはプロ化を念頭に置いている、ないしはプロ化のチャンスをうかがっているチームが移行する形で、事実上 SV の2部に当たるSV.LEAGUE GROWTH(SVグロース)を発足させます。この新しい体系に合わせて、V リーグの役割や位置づけについて検討を重ねてきました。
現行のV リーグはJVLが運営していますが、この体制は2025-26シーズンを最終シーズンとして、JVA(協会)に移管する運びになりました。JVLに所属する各クラブの代表者が参加する実行委員会、理事会でも丁寧な議論をして賛同を得た結論です。
理由はやはりSVリーグとSVグロースの「プロ化」です。アマチュアでやっていくチーム、事業としてやっていく体制の構築にはまだ少し時間がかかるチームもありますが、そういったチームに適した環境が必要です。プロ志向のチームと「それ以外」が混ざると、それぞれの利害がぶつかって運営が難しくなります。JVAでそういったチームの試合環境を整備することになっていますが、詳細が決まってから協会から発表する流れになっています。
――新体制、名称についてはいつ頃の発表になるのですか?
大河 Vリーグの後継となる社会人リーグへの申し込みは先週末にいったん締め切られていて、これから審査が行われて、3月頃に協会側から仕組みも含めた発表があると想定しています。
ファンの方は「Vリーグ」という名称に愛着をお持ちだと思います。形式的にその名称は協会で議論されていくものですが、私の個人的な希望としては通称として「 V リーグ」は残していってほしいなと思います。

――今回は「SVリーグのプロ化」をテーマに進めます。まずプロ化のスケジュールをお話しいただいていいですか?
大河 各チームには2026-27シーズンから、運営法人を独立化させてくださいとお伝えしています。オーナー会社の決議が間に合わない場合もあるかもしれないので、その場合は2027-28シーズンから運営法人を独立させる確約書を出してもらうことを最低限の条件にしています。2026-27シーズンのライセンスを交付するなら、2026年の3月、もしくは4月のライセンス判定時にそこを確定していただくことが条件です。そこで運営法人の独立を「できる/できない」がはっきりします。
男女合計で24チームあって、確定ではありませんけど、どのチームも法人化に動いているのは確かです。11月30日がライセンス書類の提出締め切りで、そこに向けて親会社の役員会、経営会議といったレベルで意思決定が行われたと理解しています。
――例えばサントリーサンバーズ大阪は現時点で運営法人の独立した「プロ」ではないけど、お客さんも多く入って盛り上がっています。今のままでも十分楽しいというファンの方も多いと思います。なぜクラブのプロ化に向かうのか、その理由はいかがですか?
大河 他の競技ですが、ラグビーの日本代表が2015年のワールドカップで南アフリカに勝った直後、当時のトップリーグは少し盛り上がりました。しかし1年経つと元に戻りました。サッカーでなでしこジャパンが2011年のワールドカップで世界チャンピオンになったときのなでしこリーグも、もっと言えば男子がメキシコオリンピックで銅メダルを取ったあとも、盛り上がりを持続できず元に戻ってしまいました。それは端的に言うと「プロフェッショナル」じゃないからです。バレーボールも最近ならロンドンオリンピックで女子が銅メダルを獲得して来場者が増えましたけど、それが続かなかった。
来ていただいたお客様のデータをしっかりと把握し、より良いサービスをさらに提供し、リピーターになってもらうーー。プロではなかったから仕方のないことではあるのでしょうが、B to C(Business to Consumer/一般消費者向けに商品やサービスを提供するビジネス)として当然やるべきことをやっていなかったわけです。
もう一つの目的は「選手のため」です。親会社の福利厚生費として人件費を出しているところが今までの実業団チームには多かったのですが、「稼いで」はいないわけで、増やそうにも限界があります。プロ化して、ファンとつながってグッズを売って、チケット販売やパートナーを増やす地道な努力をしていけば、収入を増やす余地はかなりあります。選手の報酬が増え、子どもたちにとってもバレーボール選手が夢のある職業の一つになるためにも、プロ化が必要です。それから話が質問から逸れるかもしれないけど……。
――どうぞ。
大河 バレーボールも実は2016年の9月20日に嶋岡(健治/当時のVリーグ会長)さんがプロ化宣言をしているんです。奇しくもバスケットボールのBリーグが開幕する2日前ですね(※編注:大河チェアマンは当時Bリーグのチェアマンだった)。11月までに申し込むようにチームに伝えたけど、その時は一つも申し込みがなかったそうです。
バレーボール界は「プロ化構想が出ても、企業側が乗らずに引き返す」という歴史を繰り返していました。ポテンシャルはバスケよりあると思うし、プロ化しないと明るい未来がないという危機感は皆さんお持ちだったと思います。しかし過去の経緯もあって、それが実現していませんでした。
私は3年前にバレーボール界に入ったときから、「プロ宣言」を性急にすると、足元から崩れていく危惧を感じていました。2023年4月に「V.LEAGUE REBORN」を発表したのですが「プロかアマかは問わず、フェアウェイは広く」とお伝えしました。まず「中身を充実させる」ことを優先したわけです。
オーナー企業の皆様には、ホームタウンとホームアリーナをしっかりと確保して、地域とちゃんと結びついて「強く・広く・社会とつなぐ」の実践に賛同してくれますね?と働きかけました。「お金を払ってもらっている以上、ファンに満足して帰ってもらうことだけはやってください」というところも強調しました。結果として全チームに、SVへ移ってもらえました。
――しかし今回はプロ化に踏み切ろうとしています。「運営法人の独立化」は企業の設立が伴いますから、人手や手間が掛かります。
大河 男子は既に7チームが親会社から切り離された法人です。大阪Bはバレー専業ではないけど「パナソニックスポーツ」という形で独立しています。サントリー、ジェイテクトSTINGS愛知、広島サンダーズの3チームはいわゆる部活動の形態です。
昨年の秋から男子・女子に分かれた分科会を3、4回ずつやっていました。まず男子からでもプロ化を進めようと思って、各チームと1対1で話をしました。分科会でも議論をして、今年(2025年)1月の理事会で「クラブのプロ化をする」「選手の過半数はプロ契約選手にする」「2026-27シーズンから決算を公開する」という内容が認められました。男子はBリーグの盛り上がりを見ているから、危機感は女子より圧倒的に大きかったです。
すると女子も「自分たちはどうするのか?」となり、いくつかのクラブが「男子と揃えてクラブをプロ化しよう」という姿勢を見せました。こちらも1社1社と向き合って、3月の理事会で承認された経緯です。

――かなり早い動きですね。
大河 現実は進んでいて、選手も年々プロ契約が増えていっています。だけどフロントスタッフはアマチュアなのが現状です。サッカーも最初はそうでしたが、選手がプロなのにGMや監督がその環境や基準に慣れていないと、チーム作りや信頼関係の構築に難しさが出てくる側面もあります。だから初期のJリーグは外国人監督が多かったし、SVリーグの男子も外国人監督が増えています。「流れ」ははっきりプロに向かっていますね。
企業からすると今のままでも人気はあるし、チーム単位でプロにする必要があるのか?という躊躇(ちゅうちょ)はあったと思います。僕は過去のプロ化の失敗を経験していないから、良い意味で「怖いもの知らず」「よそ者の強み」があるのかもしれません。
――企業から見れば、プロ化で支出が増える警戒感もあるのでしょうか。
大河 その通りです。事業として成功する可能性、確実性が分からないのにプロ化をするとなれば、自分たちの持ち出しだけが増える心配も当然されるでしょう。ただBリーグは10シーズン目ですが、かなり稼いでいるクラブが出てきています。バスケットボールは選手や試合数の関係から野球の次に利益を上げられる可能性のある競技ですが、バレーボールもそれに近いレベル感はあります。
各企業の方にも「例えば今バレーボールチームに5億円出していて、5年経っても5億円出しているかもしれないけど、リーグの賑わいが変わっていたら、その5億円の価値はまったく違うものになりますよ」というお話をしました。
――ファンの受け止めはどう観察されていますか?
大河 ずっと前から支えてくださったファンがいますから、ポッと出の人にかき回されたくない……というトーンは正直感じています。だけど何年か経って「あのとき変えておいてよかった」と感じてもらえると信じています。選手たちが自分を誇らしく思えるようになるためにも、やるべき改革とプロ化は必須です。
――決算開示の義務付けで、経営を透明化する意味はどこにありますか?
大河 SVリーグのクラブは、地域に根ざしています。直接的に金銭が入っているわけではなくても、支援をしていただいています。自治体・行政のサポートがあるから、アリーナを優先的にお貸しいただけていたりもします。私たちのリーグもいくつかの企業がパートナーをしてくださっていますし、それはクラブも同様です。
であれば県民、市民、そしてパートナーの皆さんに決算情報を開示するのは当然ですよね?チームからも、開示に反対する声は出なかったです。公平性、透明性はリーグ、クラブの運営にとって決定的に大事なことでしょう。
――どういう内容を公表するか教えてください。
大河 簡略化したPL(損益計算書)とBS(バランスシート/貸借対照表)をお出しします。営業収益の中でチケット収入、スポンサー収入、リーグの分配金といったものがどのような構成になっているのかが伝わる状態にします。
費用もトップチーム人件費、試合の運営費といった費目が見えるようにします。クラブ同士で「あそこはチケット収入が多いけど何をやっているのかな」といったコミュニケーションが発生して改善の方向に行ければいいですね。JリーグやBリーグのファンにはそれを丁寧に分析している方がいます。バレーでもそういう発信を読みたいし、入場者数をまとめてSNSに上げ始めていらっしゃる方はいますね。

――選手の立場から見たときプロ化のメリットはなんですか?
大河 僕がBリーグに関わり始めたとき、グリーン車で移動しているチームはなかったです。遠くまでバスで遠征に行っているチームが普通にありました。でも(2026年秋に26チームでスタートする)Bプレミアは基本グリーン車です。
B1だとそれなりのシティホテル、高級ホテルでB2だとビジネスホテル……みたいな差はまだありますけど、この10年で報酬以外でも選手の待遇が劇的によくなりました。それに対してSVリーグで選手が移動時にグリーン車に乗っているのは私が知る限りほとんどありません。
プロ化する、事業が大きくなる、ファンも増えていくことで、選手の報酬がまず上がります。移動の交通機関、宿泊施設も変わります。筋トレをするジムが整ったり、個々のレベルアップをしていくために必要なものも揃います。
それに選手は満員のアリーナで、応援の熱量が高いところでやった方が楽しいに決まっているじゃないですか、その結果として報酬が増える。移動手段や宿泊場所、練習環境がグレードアップされる。そのような環境で、世界クラブ選手権王者を目指すのが「世界最高峰」の世界観です。選手が幸せに感じる環境にしていくことは、ファンにとっても喜びになると思います。
――選手のセカンドキャリアへの不安はファンも含めてあるのかなと思います。
大河 Jリーグの一定のクラブになると、スクールとユースのコーチが100人近くいます。Bリーグもそうですが、スタッフも含めて引退後も競技に関わる人がかなりいますね。バレーボールも競技や産業として発展すると、そこに関わる雇用が増えます。
もう一つ日本社会の現実として、年功序列と終身雇用が崩れています。親の世代の感覚だと、SVリーグの親会社なら選手を辞めてそのまま残って、大過なく過ごせると思ってらっしゃるかもしれません。でも今はそうではなくなってきています。
5年、10年とファンから「見られる」職業に就いた人は、一般人ではありえない経験をしていて、セカンドキャリアの選択肢は意外にあります。Jリーグには選手のセカンドキャリアを支援するユニットもありましたが、いくつかの企業は引退した選手をものすごく欲しがってくださっていました。
――大学に行って教員の免許とかを持っていれば、それも活かせますね。
大河 体育の先生もありですけど、これから部活動の地域展開が始まると、専門性のある指導者のニーズはさらに増えます。
――SVリーグの「プロ化」をクラブスタッフとして支える人材についてはどうですか?
大河 SVリーグの親会社は多くはB to B(企業と企業の間で行われるビジネス)で、一見のお客さんに詰め寄られるような経験をお持ちの方は多くないと思います。スポーツの現場は B to Cです。親会社からの人材もいいですが、プロパー社員も雇いながら、ミックスしてやったほうがいいでしょう。今は会社の就業規則がプロスポーツの職務に対応していないから、嘱託とか業務委託で人材を雇用したりしています。そういう意味でも運営法人を分けて、専門性の高い人材がしっかりとキャリアパスを作れるようになればいいですね。
――最終的にはバレーボールへの愛情があって、なおかつスポーツビジネスのスキルがある人が増えればベストですね。
大河 そうです。今は私のように「体育の授業でしかバレーボールをやったことのない人」がどうしても多くなっています。変革して道筋が見えてきたときには、この競技に育てられたという感謝や、プレーヤー目線の情熱を持った方がビジネスサイドに入ってきて、腰を据えて育っていくのが理想だと僕も思います。
取材・構成:大島和人




