[写真]=大塚淳史

 SVリーグ開幕を控え、各チーム、プレシーズンマッチや練習試合を行なっている。優勝候補の一角である大阪ブルテオンは、9月21、22日に日本製鉄堺ブレイザーズとパナソニックアリーナ(大阪府枚方市)で有観客の試合を実施し、それぞれ4ー0、3ー1(※両日共に結果に関係無く4セット実施)で昨シーズンとは異なる攻撃スタイルで期待を抱かせた。特に鮮烈な印象を与えたのが、新加入したキューバ代表のアウトサイドヒッター、ロペス・ミゲルだった。

大阪Bは主力が大幅入れ替わり

 大阪ブルテオンは9月7、8日にフィリピン・マニラで国際大会「ALAS Pilipinas Invitationals」、そのままタイ・バンコクに移動して9月14、15日に「JAPAN VOLLEYBALL ASIA TOUR IN THAILAND2024『Panasonic ENERGY CUP』」に出場と国外での試合が続き、日本国内での観客やメディアを入れての対外試合はこのブレイザーズ戦が初めてだった。この時点で開幕3週間前、どの程度チームが仕上がっているのか知ることができる機会だった。

 このシーズンオフにチームは大きく変わった。まず名前がパナソニックパンサーズから大阪ブルテオンになり、選手も大きく入れ替わった。昨シーズンいっぱいでチームの重鎮だった元日本代表リベロの永野健や、兒玉康成、伊藤友健が引退していった。

 そして、日本代表アウトサイドヒッターで攻守でチームを引っ張った大塚達宣はイタリア1部リーグのミラノへ、長年チームの正セッターとして数々のタイトルに貢献した深津英臣はウルフドッグス名古屋へ、同じくセッターで2枚替えなど重要な活躍を見せてきた新貴裕は東レアローズ静岡にレンタル移籍した。また5月の黒鷲旗で大活躍だったアウトサイドヒッターの垂水優芽もイタリアのチステルナへレンタル移籍。総勢7選手が離れた。

 一方で、東レアローズ静岡から富田将馬(アウトサイドヒッター)、ウルフドッグス名古屋から永露元稀(セッター)の日本代表2人、キューバ代表のロペス・ミゲルを獲得した。また既に昨シーズン後半に内定選手としてプレーした池城浩太朗もいる。選手が大きく入れ替わったが、リーグトップクラスの巨大戦力を抱える。

 プレシーズンマッチということで、両チームともコンディション調整、戦術の確認、選手の組み合わせ、新加入選手のデータ取得といった意味合いが見て取れた。

新体制発表会には新戦力たちも集結 [写真]=大塚淳史

スパイクとサーブだけではないオールラウンドに凄いロペス

 中でも強烈なインパクトだったのがロペス。キューバ代表の27歳は、主将として5月のネーションズリーグで日本代表と戦っている。筆者自身は試合会場で直接ロペスのプレーを見たことがなく、ネット動画のみで視聴しただけで、今回初めてロペスを見て驚かされた。

 まずとてつもない跳躍力とパワー。プロフィールでは身長190cmで特別高いわけではない。ただ、ありきたりな表現だがゴム毬の様に跳んでは、ブレイザーズのブロッカーの上からスパイクを決めたり、ブロックが揃ってても強烈なパワーで弾き飛ばして得点を決めていた。ジャンプサーブの威力やスピードも半端なく、ブレイザーズ守備陣を苦しめていた。

パワフルなプレーが印象的なロペス [写真]=大塚淳史

 こういった身体能力を持つだけに、基本的には剛打するアタッカーなのかと思いきや、相手の守備網を見ては軟打やフェイントを織り交ぜたり、ブロックを利用してワンタッチアウトにした。レシーブが崩れてハイボールになっても技術を駆使して決める。そして、一番センスを感じさせられたのが、トスが合わない時の対応力。空中で姿勢が崩れそうになっても、上手く背面打ちに切り替えたりボールを横殴りで決めたりと、意外性のあるプレーも要所で見せていた。

 レセプション(サーブレシーブ)ではオーバーハンドを多用して、大きなミスは少なかった。ブロック能力も高い。また、プレー以外にも陽気なキャラクターでコート内の仲間たちに活力を与えていた。

 アメリカ代表トリー・デファルコ(ジェイテクトSTINGS愛知)、ポーランド代表アレクサンデル・シリフカ(サントリーサンバーズ大阪)といったSVリーグのチームに加入した世界的なアウトサイドヒッターたちより凄いかもしれないと思わされた。あくまでこの2試合だけの感想であり、初めて直接見たことで余計に良く見えた可能性もあるだろうが、ロペスはそれくらい鮮烈な活躍だった。

豪快なアタックだけでなくテクニックも併せ持つロペス [写真]=大塚淳史
キャラクターも大阪のチームにピッタリ!? [写真]=大塚淳史

ロペス「一番の強みはスパイク」

 9月22日に行われた全選手の囲み取材対応の際、ロペスに話を聞くことができた。

 まずプレーのオールラウンダーさやテクニシャンぶりにも感心させられたことを伝え、自分自身は何が特徴と思っているか問うた。

「一番の強みはスパイク。自分の身体能力やパワーが優れているところ。もちろん試合で魅せられるのはスパイクとサーブだと思っている」

 具体的な指標として、最高到達点やジャンプサーブの速度の質問がとんだ。

「最高到達点は3m67。若かった頃はもっと跳んでたけど、打点はもう少し低かった。今はジャンプ力は下がったかもしれないけど、賢くなって打点は上がった。サーブの速度は時速143kmだけど、公式(で計測した)には137km」

 その答えを聞いた我々記者陣は笑うしかなかった。

驚異的なジャンプ力を誇るロペス [写真]=大塚淳史

 そこでシンプルに思ったのが、こんなに凄いプレーをする選手が今までなぜヨーロッパのトップクラブでプレーしてこなかったのかということ。ロペスは過去、アルゼンチン、ブラジル、カタールのクラブに在籍してきた。ブラジル時代はサダ・クルゼイロという世界屈指の強豪クラブでプレーしている。ただ、現状の世界のバレー地図では、イタリア、ポーランド、ロシアといったヨーロッパのリーグに世界中から選手が集まっている。その3カ国のリーグのレベルであったり、ビッグクラブであれば資金力のあるクラブもあり、さらにヨーロッパチャンピオンズリーグというハイレベルなコンペティションもあるという点からも、ヨーロッパのクラブを目指すバレー選手が多い(そこをSVリーグが切り崩して、世界トップのリーグにしようとしている)。

「今までヨーロッパでプレーしてこなかったのには理由があります。自分で考えて決めたことが、自分自身の持つスタイルとヨーロッパのスタイルには少し違いがあって、ヨーロッパでは自分は活躍できないかなと思っていた。まだ27歳なので今後もヨーロッパでプレーしないとは言い切れないけど、これまで気にしたことはない。自分自身はプレーを磨くことに集中していて、自身の成長のために今までチームを選んできて決断してきた。もちろんイタリアのチームとかから(獲得の)話があることはあった」

 SVリーグが開幕し、ロペスのプレーを見て驚く観戦者はきっと多いはず。日本代表の左のエース西田有志、アメリカ代表のジェスキー・トーマスに、ロペスが加わった大阪ブルテオンの破壊力は、初めてSVリーグを観戦する人にも刺激的だ。ぜひ会場で楽しんで欲しい。