バレーボールキングでは「チェアマン通信『SVリーグのリアルをお届け』」と題し、今シーズンから大河正明・SVリーグチェアマンのインタビュー記事を連載している。ファンや選手に「どんな改革が進められているか」「そこにどんな意味があるのか」を伝えることが、本連載の目的だ。
大同生命SV.LEAGUE(SVリーグ)は2025-26シーズンが現体制になって2季目だが女子は4月5日、男子は4月19日にレギュラーシーズンを終えた。男女とも昨季に比べて観客数の伸長があり、2026-27シーズンの本格的な「プロ化」に向けても各クラブの取り組みが成果を出している。
シーズン終盤には海外リーグとの交流、理事会の体制強化など、リーグ側の興味深い動きもあった。チェアマン通信の第5回ではセリエAとの交流と協業、久保田剛氏の業務執行理事就任、女子の集客と成長について語ってもらった。
――先に3月以降のリーグの動きについて振り返りをお願いします。
大河 私も12月と2月にイタリアへ行きましたが、セリエAとの交渉に進展がありました。セリエAは男子と女子の組織が別なのですが、男子のマッシモ・リギ会長が日本に来てMOU、いわゆる協定書を締結しました。4月17日にイタリア大使館で、駐日イタリア大使にも同席していただき、セレモニーも開催させていただきました。
この前もお伝えしましたがトップチーム、ユースチームおよび指導者、場合によって審判の交流を考えています。ヨーロッパクラブチームの大会を見ていると、イタリアの指導者がどこのチームにもいますよね。駿台学園高校から大阪ブルテオンに来てアカデミーダイレクターをしている梅川(大介)さんも「まずはイタリアにみんな行ってみるべきだ」と話をされていました。
――指導者も選手も、イタリアの現場や人材を見て接して得るものはありますね。
大河 SVリーグのユースの指導者に、イタリアの現場に行って学んでもらえたらいいなと考えています。ユースチームの交流も、例えば夏休みにイタリアへ1週間くらい行って、世界のトップレベルに触れる機会を作っていきたいですね。もちろん、イタリアから来てもらうのも歓迎です。
――トップチームについてはどうですか?
大河 まだ決まっていませんが、イタリアと日本のチームが、プレシーズンマッチとして交流戦をやる可能性はあると思います。昨年の夏にサントリーサンバーズ大阪とペルージャが試合をしましたね。公式戦として開催することは難しいかもしれませんが、「セリエAとSVリーグが世界のバレーボールを引っ張っていく」取り組み自体は、FIVB(国際バレーボール連盟)やバレーボールワールドから見ても、何らネガティブな要素はないはずです。

――ビジネス面の連携はいかがですか?
大河 イタリアはどうしてもサッカーという人気競技があって、バレーボールはスポンサーの取り合いで難しい部分があると聞いています。そんな中で石川祐希選手、大塚達宣選手たちがイタリアに行って、ファンやメディアまで一緒に付いていった様子は彼らも見ているはずです。日本を友好国、ビジネスパートナーとして持ちたい、日本と親しくしていきたいという感覚はお持ちだと思います。
さらに女子の組織とも話を進めています。セリエAの男子はクラシカルというか、格式の高さがある運営なのですが、女子はデジタルの活用に長けていて、SNSも駆使して集客につなげています。セリアAのクラブにも日本から佐藤淑乃選手と和田由紀子選手が行くし、既に現地でプレーしている選手もいます。逆にイタリアから姫路にカミーラ・ミンガルディ選手が来ていますし、NEC川崎にはシルビア・チネロ・ヌワカロール選手もいます。このオフに有力選手が来るかもしれないという話も耳にしています。なので、お互いにデジタルも活用しながら、それぞれのリーグがWin-Winになるプロジェクトを立ち上げられないかと話し合っています。トップチームの交流も関菜々巳選手と和田選手のいるブスト・アルシーツィオが日本に来て試合をしたら、盛り上がるのではないでしょうか?そんな企画も将来的な視野に入れて、様々な調整をしています。
――次はリーグの人事についてです。大阪ブルテオンの久保田剛代表が、4月1日付けでリーグの業務執行理事になりました。外部理事でなく「準常勤」なので、クラブとリーグの業務を兼務します。ファンの間ではあまり話題になっていませんが、かなり大きな人事だなと感じました。
大河 久保田さんが色々な競技のビジネスを経験されています。「パナソニックスポーツ株式会社」の社長としてバレーボールの他にラグビーなど他競技も見ていますし、パナソニックに移る前はJリーグの大宮アルディージャにいました。それは(JリーグとBリーグに在籍した)私もそうですけど、バレーボールの相対的な立ち位置、強み弱みを熟知されています。
もう一つ大宮アルディージャならNTT(当時)、大阪ブルテオンはパナソニックと、どちらも有力な責任企業がいるチームです。責任企業の社長も含めた役員の皆さんと上手く接しながら、「企業スポーツからスポーツ企業へ」という流れを実際に経験しています。
ただ、もしクラブライセンスをサポートしてもらったら利益相反だらけになってしまうし、競技運営も「大阪ブルテオンに有利だ」というような話が絡みます。だから、そうならないように、担当範囲は「女子クラブの活性化」「リーグのパートナーセールス」「国際戦略」の3つを軸に限定しています。
SVリーグのクラブの責任企業は日本社会を支える大企業が多くて、そういう会社に対してプロスポーツの意義や発想がすんなり伝わるとは限りません。久保田さんは、そんな状況で「トップをいかに動かして本気にさせていくか」をアドバイスできると思います。バレーボールのチームを持つ意義、これを活用してどうすれば良いのか責任企業がストンと理解できると、経営や強化の取り組みも積極的になるはずです。

――今季のSVリーグ女子に話を移します。2025-26シーズンは4月5日にレギュラーシーズンを終えました。集客についてまとめたデータがあるようですが、レビューをお願いします。
大河 SVリーグ初年度だった2024-25シーズンは平均観客数が1201人で、チャンピオンシップも含めると1237人でした。それが今季は1760人まで増えています。約46%の増加です。チャンピオンシップで、もう少し数字も増えるはずです。
――チーム単位に分けるとどうですか?
大河 全クラブ増えました。割合を見るとデンソーエアリービーズが約2倍に伸びて、198%です。昨季は平均観客数が3ケタ(千人未満)のチームが7つありましたが、それが今季はアランマーレ山形(916人)だけです。A山形も昨シーズン比140%だから、増えてはいます。
演出、クラブの意識も含めて劇的に変わったなと感じるのはデンソーとクインシーズ刈谷です。全チーム回っているので、去年に比べて応援の声出しがどうか?どれくらい熱量が上がっているか?と比較ができます。中でもデンソーが活動する福島県、郡山は熱を感じましたね。
北陸の2つ、PFUブルーキャッツ石川かほくとKUROBEアクアフェアリーズも上向いてきています。PFUは増加した入場者数は小規模ですけど、確実に認知度が上がっています。
――デンソーは郡山まで2度取材に行きました。家族連れだったり、年輩の方だったり、老若男女の「広がり」を感じました。
大河 男性がひとりで見に来る「選手推し」の方もいますが、女子チームのファン層が広がっていますね。今年からリーグとして各地域の認知度の調査をやりますけど、それは確実に上がっているように感じます。NECレッドロケッツ川崎なら佐藤淑乃選手の「選手推し」の方は多いし、それも大切なファンですけど、少しずつ「箱推し」に変わってきている印象です。

――刈谷が伸びている理由はどこですか?
大河 刈谷はウィングアリーナ刈谷をホームにしていますが、2028年からBリーグの「シーホース三河」と一緒に安城市の新アリーナに移ります。新アリーナはシーホース三河の責任企業であるアイシンが中心になって建設するのですが、「アリーナを男子バスケット、女子バレーで盛り上げよう」という発想で、シーホース三河が積極的に刈谷に対してノウハウの提供をしてくれています。刈谷の責任企業であるトヨタ車体さんも、積極的になってくれています。
――他に期待を持てる、もしくは印象的だったクラブはありますか?
大河 姫路は市内に5000人収容の「姫路市立ひめじスーパーアリーナ」ができました。3月にはJRの新駅(手柄山平和公園駅)ができて、駅からデッキがつながっている素晴らしいアクセスです。姫路今季の平均観客数は2092人ですが、新アリーナ効果が期待できます。
ここ1年でさらに変わったのが東レ滋賀です。今季の観客数は1試合平均2300人で、全体3位でした。チームの成績は13位と厳しかったですが、それでも着実にお客さまを集めています。スタッフは元バレーボール部の方が多いのですが、見ていると楽しそうに、天職を得たかのように働いてくれていました。
――選手はもちろんですが、運営側が「やりがい」を持てるかどうかは大切ですね。
大河 社長も「責任企業から行かされている」「やらされている」感がなく、楽しんでやっているかどうかは大切ですし、そういう社長のいるチームは成長します。群馬グリーンウイングスや刈谷、PFUのトップは、いい意味でそれを感じます。
姫路の秋本(美空)選手に限らず、人気選手が海外に行くことは集客を考えると不安要素ですが、一つ一つのクラブが進化していっています。人気選手がいなくなったからお客が減るのではなく、サステナブルに成長していく――。日本で一番の女子プロスポーツになる手応えを得ています。
――佐藤淑乃選手と和田由紀子選手の海外移籍が、NECレッドロケッツ川崎から既に発表されています。期待がある一方で、クラブの集客にとってはマイナスです。大河さんは選手の海外移籍をどう見ていますか?
大河 SVリーグは男女ともに「世界最高峰」を目指していますが。女子でワールドクラスの選手というとブラジル代表のロザマリア・モンチベレル選手(デンソー)くらいで、男子に比べるとまだ世界の超一流選手が少ないです。メダルを取っている国のレギュラークラスが5人、10人と来るようにしなければいけないし、そうなったら「日本でやっていても成長できる」という環境を選手に用意できます。
海外に慣れることは大事で、秋本選手みたいな若い選手の海外挑戦は賛成です。一方で日本代表クラスが「自分の全盛時にプレーしたい」「海外と同じくらい成長できる」と感じられる環境に、SVリーグWOMENもなりたい。2026-27シーズンから外国籍選手のオン・ザ・コート(同時起用)が3人に増えますが、それによるいい影響に期待しています。
待遇の部分も現状では韓国のVリーグの方が金銭的にいいと聞きますし、女子も男子のようにしっかりと対価が払われる状態になればいいなと願っています。SNSの発信ひとつ取っても、それが観客やスポンサーの露出を増やし、自分の収入につながる……という実感を女子の選手も持てたらいいですね。
取材・構成:大島和人




