現役時代には4度五輪に出場した荒木絵里香さん [写真]=須田康暉

 26日に開幕を迎えたパリ2024オリンピック(パリ五輪)。バレーボール男女日本代表も出場する今大会だが、男子は1972年のミュンヘン大会以来、女子は2012年のロンドン大会以来となるメダル獲得に向けての期待も高まっている。

 男女日本代表がメダルを獲得するための鍵や今大会を最後に引退する女子日本代表の古賀紗理那への思いについて、現役時代に五輪に4度出場し、長年主将も務めた元女子日本代表の荒木絵里香さんに話を聞いた。

――五輪を選手としてではなく見るのは久しぶり、現在の心境は?

「北京オリンピックに初めて出場して東京まで、さかのぼるとその前のアテネ(04年)で落選したところから始まっているので、自分が選手として関わらないオリンピックは20年ぶりです。バレーボールはもちろん、他競技も落ち着いて観戦できるので普通にワクワクしています」

――男子バレー日本代表は昨年ネーションズリーグで3位になり五輪予選でパリの出場権も獲得。期待も高まっていますが、今年は女子バレー日本代表もネーションズリーグで準優勝。男女ともにパリ五輪の注目競技です

「着実に力を積み上げて、試合に勝って、自信を持ってこの大会に挑めているなというのはすごく感じます。男女ともに感じるのは、個々のレベルも上がって、それがさらにチームの力になっている。女子はネーションズリーグの戦い方が本当に素晴らしかったので、この勢いがオリンピックに繋がっていくんじゃないかなという期待でいっぱいです」

――日頃からバレーボールをご覧になる方は過程も触れてきたかもしれませんが、オリンピックで「初めて見る」という方も多くいます。東京五輪からの3年で女子は何が変わって、何が違うのか、荒木さんの目線ではどう感じていますか?

「まず選手もスタッフも違うというのはありますが、今の選手は、いきいきのびのびプレーしているなという印象はありますね。東京五輪では私がチームリーダーとしてやっていた中で、やり切れなかった部分や至らなかった部分、3年経った今もすごくあるし、ずっと自分の中でまだモヤモヤを感じている部分でもあります。だからこそ余計に、その時戦った選手たちが今すごく成長して、またオリンピックのコートで戦ってリーダーシップも取ってハツラツとプレーしている姿を見るのは、自分にとっても本当に嬉しいし心から応援したいなという気持ちです」

――今回の女子代表のメンバーには東京五輪に出場した選手や、荒木さんと一緒にプレーした選手も多くいます。12名全員に注目! であるのは重々承知していますが、荒木さんが注目する選手は?

「私の個人の意見で言うと、岩崎(こよみ)選手。出産して戻ってきたことも含めて、彼女のキャリアや今までの歩みがあった中、この年齢(35歳)で今年からファーストセッターに抜擢された。彼女がトスを上げるようになって、スパイカー陣がコンビネーションとしてもいいところがたくさん出てきたし、彼女がどれだけいい仕事ができるかが、(結果に)直結すると思いますし、期待しています。落ち着いてトスを上げているし、高いところでスパイカーの力を引き出すセットができていると思うので、(古賀)紗理那や(石川)真佑という力のあるアタッカーに対しても、(岩崎選手のトスが)キーになると思います」

荒木さんが注目する岩崎こよみ [写真]=金田慎平

――初めて観る方も、バレーが好きな方も、たまたま「今日は女子バレーを見よう」という方も含め、ぜひこの選手を見ていただけると今の日本女子がわかります、という選手は?

「もう1人しかいない(笑)。古賀紗理那選手です。キャプテンであり(パリ五輪後の)引退も発表したということだけでなく、実力的にも間違いなく世界のトッププレイヤーの1人。彼女にはライト(層)からコア(層)までみんなが注目していると思います」

――東京五輪は荒木さんも古賀選手と出場しました。東京五輪のケニア戦での捻挫のシーンが繰り返し取り上げられます。当時、一緒に戦う中で彼女の強さ、悔しさ、荒木さんは近くでどんなふうに見て、接していましたか?

「東京(五輪)の選手村が、私と紗理那と真佑と(山田)二千華が同部屋でした。紗理那が初戦で捻挫した後、明らかに状態が悪かったので『あ、無理だな』と私は思っていた。でも、そんな足の状態なのに、彼女がケガした後1回も『痛い』とは言わなかったんです。むしろ『大丈夫!私大袈裟でした』とみんなを心配させないように、自分自身を強く保つためにわざと明るくしていたのをずっと同じ部屋で見ていたし、ケアして何とか試合に出ようとしていたり、監督と話していたり。いろいろなところを壁1枚隔てた隣の部屋でずっと見ていて、本当にこの選手は強いというか、凄みを感じた。実際にあそこから試合へ出るところまで持って行った彼女の気迫を、自分たちが最後、結果に繋げられなかったのは、自分自身の悔いとしてもずっと残っています」

――「痛い」と言わない。まさに古賀選手の強さですね

「試合が終わった後に『もう痛いと言っていいんだよ』と言ったら、やっと『痛い』と言ってくれた。そこまで自分を保てる。選手としても人としてもすごく強くて、凛としている。とても素敵な選手であり魅力がすごくある人です。今こうしてチームリーダーとして、プレーも声も、全てにおいて引っ張っている姿を見て、彼女の最後を納得する形で終えてほしいなと、心から願う。むしろ願いを越えて祈りの域になっています」

パリ五輪後の引退を発表した古賀紗理那  [写真]=金田慎平

――「パリ五輪ではメダルを取ります」と古賀選手も宣言しています。オリンピックのメダル獲得の難しさは荒木さんご自身も体験しています。男子も女子もメダル候補と言われる中、メダルの可能性は?

「男女ともにあります。メダルを取るためには、実力はもちろん、最後のちょっとしたところの差がメダルを取れるか、取れないかというところにつながっていく。だからこそ、そのちょっとしたところをつかみ取る運、強さ、選手たちが男女ともにいるので、チーム力で最後のちょっとの部分を引きつけてメダルを持って帰ってきてほしいですね」

――とはいえ男子も女子もグループリーグから強豪ばかり。男女ともにどんな戦いができればメダルにつながっていくと思いますか?

「最初から全部勝って勢いに乗れるのは理想かもしれませんが、私たちもロンドン(五輪)では予選リーグでロシアにもイタリアにも負けているんです。でも準々決勝で中国に勝って、最後に銅メダルという結果にたどり着くことができた。だから1試合1試合の過程や、チームとしての歩みを大事にしてほしいですね。特に今回は予選が3試合なので1試合の重みが強くなるし、男女共に初戦がやりづらい相手と対戦する。勝てれば一番いいですが、もし負けたとしても悲観せず、まずは決勝トーナメントに進んで、準々決勝が男女ともに勝負の日。そこでどれだけ自分たちの積み上げてきたものが発揮できるかがキーになると思います」

ロンドン大会では予選リーグで2敗したものの銅メダルを獲得 ©Getty Images