バレーボールキングでは「チェアマン通信『SVリーグのリアルをお届け』」と題し、2025-26シーズンから大河正明・SVリーグチェアマンのインタビュー記事を連載している。ファンや選手に「どんな改革が進められているか」「そこにどんな意味があるのか」を伝えることが、本連載の目的だ。
2季目の大同生命SV.LEAGUE(SVリーグ)はWOMENがSAGA久光スプリングス、MENは大阪ブルテオンの優勝で幕を閉じた。集客や事業の成長は堅調で、リーグとして来季の本格的なプロ化やその後の飛躍に向けた収穫も多くあった。
連載第6回目となる本インタビューでは、大河チェアマンが2025-26シーズンの総括を「成果」「課題」の両面で振り返っている。公式戦タイ開催の狙い、Astemoリヴァーレ茨城の横浜移転の受け止めについても語ってもらっている。一方で5月末には佐藤駿一郎選手の大麻所持、逮捕という残念なニュースもあった。これはインタビュー冒頭でコメントをお願いした。
――残念なニュースですが、まず昨季はSVリーグでプレーしていた佐藤駿一郎選手の大麻所持と逮捕について、受け止めと今後の対応についてコメントをお願いします。
大河 ファン、パートナーをはじめ、多くの皆様に大変なご心配とご迷惑をおかけしてしまいました。お詫びを申し上げるとともに、リーグとしても真摯に対応するべき問題だと考えています。バレーボール界はここのところ、こういうトラブルは比較的ありませんでした。新人研修ではコンプライアンスに関して時間を割いて伝えていましたが、我々の危機感が薄れていたのかもしれません。今回の件は「襟を正してしっかりやっていかなければいけない」というメッセージだと捉えています。
新たにやろうと考えているのは、まず選手やクラブのスタッフに対するシーズン開幕前の薬物検査です。ドーピングとは別で、違法薬物の検査です。抜き打ちの検査も、リーグ主体でやっていくつもりです。「抜き打ち」なのであまり細かくはお伝えできませんが、指名して2人3人が検査を受ける内容を想定しています。簡易検査をして、万が一そこで(規制される薬物の成分が)検出されたら次の精密検査に進むものです。
また7月上旬に全選手向けの研修をやりますし(7月2日に実施済)、そこに不在の代表組、海外の選手もシーズン開幕前にはそういう場を組もうと考えています。薬物の怖さ、健康面や社会的なリスクを認識してもらうことは大切です。またライセンス交付規則などにも「薬物検査は必須」といった内容を入れることを考えています。
――次に、全試合を終えた2025-26 大同生命SV.LEAGUEについてお聞きします。事業、集客の成果と課題についてはいかがですか?
大河 決算がまだ「見込み」なので少し変わると思いますが、まず昨季(2024-25シーズン)はリーグとクラブの総事業収入が249億円でした。それは290億円近くに行く見込みです。
リーグ単体で見ると昨年は36億円くらいで、これから入会金収入、自分たちの主幹試合があった特殊要因を除くと30億円程度でした。それが、今年は37億円くらいになります。
シーズンの総観客数は男女合計で昨季が112万人でしたが、今季は143万人です。伸び率は女子の方が高いのですが、男子も10%を超える伸びでした。百点満点とは言わないけど、集客は90点の出来です。
ただしアリーナをしっかり確保できず、伸びを逃したことも指摘できます。例えばウルフドッグス名古屋対ジェイテクトSTINGS愛知という愛知県のチーム同士の試合を、昨年の12 月に徳島で開催していました。2試合とも観客数は3千人に届いていません。四国にSVリーグのチームがないという観点では意義があると思いますが、このカードなら愛知県内の、規模の大きい会場で開催すれば地元も含めた5000~1万人が入る可能性がある試合ですから、もったいないですよね。
男子は(85%以上の席が埋まる)満員の試合が既に半分を超えています。条件のいいアリーナを使いたいときに使える自由度が高まれば、さらに伸びる余地はあります。試合の8割を開催するホームアリーナについては現在が3000人以上、2029-30シーズンからは5000人以上とライセンスの基準上がっていきます。それに備えて1年でも早く対応できるクラブが、その後も伸びていくと思います。ともかく、アリーナの確保は現時点で一番悩ましい問題です。
――アリーナ確保の問題は、2026-27シーズンでどれくらい改善できそうですか?
大河 私からすると、60点の出来です。リーグに言われたからという受け身でなく、「いいアリーナでいい演出をして、ファンに楽しんでもらおう」「いいアリーナをビジネスにつなげていこう」という思いはまだこれからです。ただ、三河安城の新アリーナでシーホース三河と一緒にやるアリーザ愛知、SAGAアリーナを使っているSAGA久光スプリングスのようなクラブも増えています。
――他に来季の「課題」と感じるところがあればお話しいただけますか?
大河 来シーズンは髙橋藍選手、佐藤淑乃選手と男女の人気選手が海外に挑戦します。SVリーグの人気は、髙橋藍選手の帰国が一つの要素だったことは間違いありません。しかし、リーグには彼ら以外にも、日本代表として活躍する選手や、驚くようなポテンシャルを持った若手が男女ともに数多くいます。象徴的な選手が海外へ羽ばたく一方で、今度は国内で切磋琢磨する選手たちの中から、次なるスターが続々と名乗りを上げてくることを期待しています。
各チームが新たなスターを輩出し、入場者数をさらに伸ばしてトータル10%くらいの成長を達成できれば、それは素晴らしいことでしょう。「バレーが好き」「チームが好き」という文化が育ってきた証拠にもなります。そこはSVリーグの未来を占う意味で、試金石だと考えています。

――5月17日の男子チャンピオンシップファイナルズ第3戦「サントリーサンバーズ大阪 vs 大阪ブルテオン」で2025-26 大同生命SV.LEAGUEが終了しました。素晴らしい3試合でしたし、ファンの盛り上がりも見て取れました。大阪のチーム同士の試合なのに、大阪Bの青と、サントリーの赤で客席が染まっていました。
大河 でもデータを見ると、実はチケットを一番買っていたのが(横浜アリーナのある)神奈川の方で、その次は東京だったんです。大阪からもいらしていましたが、全体的には「バレーボールを見たい」というファンの方が多かったようです。久保田(剛/前・大阪ブルテオン代表)さんに聞くと、東京にも大阪Bのファンは結構いるそうです。
――髙橋藍選手、西田有志選手といった選手個人のファンもいますが、両チームは全国区ということでしょうか?
大河 間違いなく全国区ですね。Bリーグは「戦力の均衡した地域創生リーグ」を目指していますし、「どこが勝つか分からない楽しさ」もあると思います。
SVリーグはまた違う特徴があります。私たちは「世界最高峰のリーグ」を目指しています。ファイナルに残った2チームに代表される強豪チームは、全国区の人気があります。大阪Bが世界クラブ選手権で2位になったように、国際競争力もある。その先にどういう世界があるかまだ分かりませんが、そういうチームがまずリーグを引っ張っていますね。
――試合の内容、盛り上がりは素晴らしかったと思いますが、金曜日に開催したファイナルの第1戦は若干の空席がありました。
大河 1戦目で優勝は決まらないですし、平日ということもあり、2000枚近くが残りました。それでも売り切れるコンテンツにしなければいけないと考えています。「土日火」「土日月」でやっていたら、どうなったかな?と今になって少し思います。
あと試合や集客から離れた感想ですけど、第2戦のコンコースの盛況ぶりは本当にすごかったですね。Bリーグのチェアマン時代に、同じ横浜アリーナでファイナルを経験していますけど、その時を超える盛り上がりでした。
――グッズ販売、スポンサーさんのブースに長い行列が出ていました。
大河 「バレとも(バレーボール日本代表オフィシャルファンクラブ)」のブースにサプライズで登場した大林素子さんは大人気だったそうですが、実はVIPルームにも来ていただいて、皆さん大喜びで一緒に写真を撮っていました。私のような立場の人間から見て、それはバレーの可能性の一つだなと思いました。
――昨季の男子ファイナルは第1戦が有明アリーナで、第2戦がLaLa arena(ららアリーナ)TOKYO-BAYという「移動」がありました。今年は横浜アリーナで3試合とも開催できています。
大河 あのような大きな会場は、2年くらい前から抑える必要があります。私がSVリーグのチェアマンに就任した時には、1年後のファイナルはもう、狙っている施設を抑えられない状況でした。
5月3日は有明アリーナが空いているけど、その翌日は取れない。ららアリーナは3日に千葉ジェッツがやっていて、でも次の日であれば取れる。そういう経緯で移動しながらやりました。選手はやりにくかったはずですし、多くの方にご苦労をおかけしたと思います。
2024年春の段階で、それと並行しながら2シーズン目以降の会場を探していました。同じ横浜アリーナを使うBリーグのファイナルと1週ずれたので、交渉して抑えました。
――Bリーグは来季からファイナルを、野球の日本シリーズのように「両チームのホームで開催する」方式に変えます。
大河 そうなると、中立地でのセントラル開催を継続するSVリーグのファイナルはスポーツイベントとして大規模アリーナにとってより貴重な「目玉」になっていくでしょう。実は横浜アリーナの関係者が、2024年10月に開催したSVリーグの開幕戦を見に東京体育館まで来ていました。私に直接そうは言いませんが「横浜アリーナにふさわしいコンテンツか」を確かめに来てらっしゃったのでしょう。
実は先に音楽系のイベントが入っていたのですが、「これならば、コンサートを少しずらしても、SVリーグを入れるメリットがある」と感じていただけたのだと思います。
――タイの公式戦開催についてもお聞きします。2026年10月にWOMEN「SAGA久光スプリングス vs アリーザ愛知」をまず行います。2027年1月にはMEN「大阪ブルテオン vs ヴォレアス北海道」を行います。SAGA久光、大阪Bがホーム扱いで、会場はいずれもバンコクの「フアマーク・インドアスタジアム」です。タイでやりたいチームが立候補する方式だったと聞いています。
大河 「ホームでやりたい」「アウェーだったらやりたい」という選択肢で、アンケートを取りました。女子の方はかなりのチームが手を挙げました。A愛知は選手兼コーチでヌットサラ・トムコムがいて、彼女はタイのスーパースターです。そういったことを総合的に考えて、女子はSAGA久光とA愛知になりました。男子の方はオールスター前、シーズンの真ん中なので、現場はコンディショニングを考えて若干及び腰でした。そんな中で大阪Bとヴォレアスともう1チームが手を挙げて、このカードになりました。クラブからは選手の受け止めもおおむね前向きだと聞いています。

本当は開幕直後に、女子と男子をやれたほうが良かったですね。タイの国体みたいな位置づけの大きなスポーツ大会があって、2週連続はアリーナを確保できませんでした。
来年以降の課題はまず「時期」です。今回女子と男子を両方開催して、成果が見えてくるでしょう。タイの開催は女子がタイは向いているのか、男子が向いているのか。そういったことも確認します。
あとアジア枠に入っている他の国も開催地の候補になります。特にインドネシアはSVリーグやクラブのSNSに対して一番リアクションは多い国ですし、人口も3億人近くいる大きなマーケットです。
――成果はどう評価するのですか?
大河 一つは事業として成り立つかどうかです。イベント単体で試合のスポンサーさんからの収入、チケット収入と掛かった経費を比べるだけではなくて、いわゆる「アナウンスメント効果」も見るべきだと思います。タイの視聴者が増えるかもしれないし、この取り組みが日本で取り上げられることによってSVリーグの認知度が上がるかもしれない。そういう副次的な効果も見ながら判断はします。最終的には単体の黒字化が目標で、さらにいうと「あのイベントに参加したい」と思うものにできるかどうかです。
今、タイのクリエイターとコラボする話も進めています。あとタイの日本大使館、スポーツ庁、日本の経済産業省も注目してくれています。日本のスポーツは輸入する側になる競技が大半ですけど、バレーボールは「輸出側」になるポテンシャルがあります。実は外国で試合をする、外国に商権を売るところまで考えられる一番手のスポーツです。
――副次効果でいえば両国の友好親善、日本のプレゼンス向上も期待できますね。
大河 あると思います。だからバンコクの日本大使館はすごくウェルカムです。よくいろいろなスポーツの代表チームが遠征すると、日本人学校など、日本人の子供向けのイベントを現地でやります。今回は日本大使館からSVリーグに、タイの現地の子供と選手が触れ合う機会を作ってほしいというリクエストが来ています。スケジュールの調整も必要なので、実現するかまだ分かりませんが「タイの子どもたちに夢を持たせるようなことをやってほしい」と要望がありました。
――最後にAstemoリヴァーレ茨城の横浜市移転についてお聞きします。地元のファンにとってはおそらく残念なニュースでしょうし、逆に横浜という大きなマーケットに挑戦する点はポジティブな話題です。
大河 SVリーグのライセンスで2030年からは「5000人以上のアリーナでリーグ戦の8割以上をやる」規定になります。アダストリアみとアリーナが茨城でその条件を満たす唯一の施設ですが、サイズの大きなセンタービジョンを動かすことが難しくて、バレーボールをやるうえでは「高さ」の問題がありました。
茨城県内では、Jリーグの水戸ホーリーホックが水戸市から那珂市の笠松総合運動公園にある水戸信用金庫スタジアムに移ります。Bリーグの茨城ロボッツも、かつてつくば市から水戸市に移転しました。ただ、それは県内の移転です。
SVグロースでやるのであれば、ひたちなか(ひたちなか市総合運動公園総合体育館)のままで問題ありませんし、その選択もあり得たと思います。プロ化してビジネスとしてやっていくとなると、それでは難しい。クラブとしてパートナー、スポンサー営業、集客も含めしっかりできるマーケットで、SVリーグのチームがないエリアを探されていました。オーナー企業のAstemoも横浜に縁があって、そこでSVを目指したいというご結論でした。我々はそれを見守り、支援していくことになります。横浜市はものすごくウェルカムですよ。
――リヴァーレは旧・日立佐和ですが、今はAstemoがオーナーです。
大河 Astemoは日立とホンダが40%ずつ筆頭株主で出資していたんですけど、今年の4月にホンダが持ち株を増やしました。自動運転する車の部品など先端的な商品も手掛けている世界的な部品メーカーで、売上も2兆円以上ある大きな会社です。本社は大手町ですけど、我々が向き合っている部署の人たちは横浜にいらっしゃいます。
――横浜市は人口376万人の大都市です。一方で横浜DeNAベイスターズがあって、Jリーグのクラブも2つあって、バスケもBプレミアとBワンのクラブがあります。なかなかのプロスポーツ激戦区ではあります。
大河 ただ女子は「これ」というチームがないと思っています。あと今年のSVリーグWOMENのファイナルは横浜BUNTAIでやりましたし、旧文体は1964年の東京オリンピックでバレーボールの会場となった施設です。横浜とバレーには、そういう縁もあります。
――Astemoのファンの方に、メッセージをお願いします。
大河 地元で応援してくださってきた皆さんには、我々も感謝の気持ちを持っています。また「マザータウン」は今後もひたちなかです。その上でアリーナがしっかり確保できて、マーケットサイズも大きい、Astemoさんとも縁のある土地に移ることは、クラブが発展するための前向きな挑戦だと思います。さらに飛躍するチームを引き続き応援していただけたらと願っています。
取材・構成:大島和人




