2025-26 大同生命SV.LEAGUE男子は今週末がレギュラーシーズン最終節。すでに今季かぎりでの退団や引退が発表されている選手もおり、否応が無しにシーズンの終わりが近づいていることを実感する。
日本製鉄堺ブレイザーズからはリベロの堀江友裕が引退を表明した。2020-21シーズンから在籍は6シーズン。味方のサーブ時には常に「おーいっ!」の掛け声とともに手拍子を送る姿が印象的だった。今でこそサーブ時の手拍子やコールは応援スタイルの定番ともいえ、各会場・各チームで見られるものだが、かつて堀江はいたずらっぽく笑ったものである。「始めたのはオレやない?と思っているんです」と。
堀江にとって手拍子と掛け声は「チームへ貢献」の一つだった。発端は早稲田大学3年生時の2018年にアジア競技大会の日本代表に選出されたときのこと。大会では本間隆太(元・ジェイテクトSTINGS)の二番手として控えに回ったわけだが、その立場を受け入れるだけには終わらなかった。
「開催地がインドネシアで、スポーツ観戦そのものに熱がある印象を受けたんです。試合中に自分が『おーいっ!』と声を張り上げていたら、地元の方々も『おもしろいやつがいるぞ?』と乗っかってくれました。これは現地の観客を味方にできるんじゃないか、日本がホームで戦うような雰囲気をつくれるんじゃないか、と考えて、一緒にアップゾーンにいた永露元稀さん(広島サンダーズ)や佐藤駿一郎(ウルフドッグス名古屋)とやっていたら、めちゃくちゃ会場が盛り上がったんですよ。『オレはこれをやるしかないな』と決めて、そこからは大会中も喉のメンテナンスを欠かしませんでした(笑)。リザーブやのに、誰よりも水を飲んでいましたからね。そうやって盛り上がってくれたことが面白かったし、嬉しかったです」
その様子を見た日本の新聞記者から現地で取材を受けたことは、堀江にとって嬉しいトピックとなった。やがて、その姿勢を日鉄堺BZでも発揮する。
入団した当時のリザーブには佐川翔(強化部副部長兼GM補佐)や昨季までコーチを務めた千々木駿介ら、長らくチームを支えてきた面々が並び、メンバーをまとめていた。いつも準備を怠らず、同時にルーキーに対しても「もうすぐ出番あるから準備しておけよ」と促す姿に堀江はただただ「すごいな」と胸が震えた。そうして、味方がサーブを打つ際に掛け声を繰り出すことにした。
「最初はふざけ半分です。『やってみてもええかな?』と思ったら、周りも『ええけど』という反応だったので、まずは外国籍選手のジョン・ウェント(フランス)にだけ『おーいっ!』とやってみたんです。そうしたら、別の選手のときもやっていこうという流れになって、気づけばコート上の6人全員に対してやることになっていました」
当時はコロナ禍で観客数に制限もあれば、ファンによる声出し応援がNGとされていた時期。そうした背景もあったからだろう。味方からとはいえ、その声はチームに熱をもたらした。それがいかに値打ちあるものだったか。堀江は振り返る。
「あるとき、当時チームメートだった関田誠大さん(サントリーサンバーズ大阪)から『おまえの声、めっちゃ助かっているわ』ってぼそっと言われたんです。本人は覚えてないと思うんですけどね。同じように山本智大さん(大阪ブルテオン)にも『堀江の声、まじで助かるよ』と言ってもらい、自分のやっていることがチームへの貢献になっているんやと実感して、『これをやり続けよう』と心に決めました」
それが日鉄堺BZにとっての“標準装備”となった。アップゾーンにいる面々が掛け声で、手拍子で、コート上の選手を押し上げる。堀江もルーキーイヤーが終盤に差し掛かった頃、広島THとのアウェーゲームでミッションを授かったほどだった。
「試合前に佐川さんから『見にきている人たち全員をおまえのファンやと思って盛り上げろ。今日の仕事はそれや』と。シーズン終盤で大事な試合だったんですね。『よっしゃ、やったろう!』と、その試合はもうずっと声を出していました。山口頌平さん(トヨタ車体クインシーズコーチ)に『おまえの喉、どないなってんねん』『なんで、そんな声出んねん』と言われましたが、それもすべては自分に役割を与えてくれた先輩たちのおかげです。コートの中でなくても、チームを助けられることはある。そう実感しました」
堀江自身は小学1年生からバレーボールを始め、菟田野中学校(奈良)、開智高校(和歌山)、早稲田大学といわゆる名門校でキャリアを過ごしてきた。そこでは常に試合に出てきたからこそ、アジア競技大会しかり出番が回ってこない現実を当初は受け入れられずにいた。ときには「おれは今、ここにいる意味があるんかな」と思ったことも一度や二度ではない。ただ、「何かしら貢献したい」とは考えていた。
何より大阪府堺市出身で、日鉄堺BZでプレーすること、そして「強いブレイザーズ」を取り戻すことがバレーボール人生で最大の夢だった。「名前の由来でもあるような“炎の鉄人”と表現される熱いプレーや感情表現が、まさにブレイザーズそのものだったんです。チームの強さも伴って、小さい頃から憧れていましたし、僕のプレースタイルにマッチしている。他のチームだったら“ただのうるさいやつ”かもしれませんから(笑)、ありがたいです」と堀江はしみじみと語ったことも。日鉄堺BZのためならば、声を出すことも手拍子も、自分にできるそのときの最大の貢献だったのだ。
だが、その姿はもう見られない。いや、むしろここ数年は影を潜めていた。入団してから同じポジションには「何をやっても超えられない」ほどの山本智大が立ち塞がり、山本が退団したあとは森愛樹が加入し、卓越したサーブレシーブ力で一躍、守護神に君臨した。堀江はディグリベロで起用される時間帯はあれども、そうした現実を前に「オレ、手拍子するためにブレイザーズにきたわけやないのに」「いつまでもこんなことをしていてもな」という疑念が頭の中をめぐった。結果的に現役ラストイヤーとなった今季はベンチアウトになる試合もあり、手拍子をする姿も掛け声を送る姿も、いつしか堀江から見られなくなった。
今ではアップゾーンからルーキーの中西健裕がその役を担っており、「チームの文化として残っていくのであれば、それはそれでいいかな」と堀江はほほえむ。そうして今週4月18日〜19日に日本製鉄堺体育館(大阪)で実施されるヴォレアス北海道を迎えてのホームゲームは、いよいよ現役生活最後の公式戦となる。
「意外とすっきりしているんで。確かに応援してくれた家族のことなどを思うと、こみあげてくるものはありますが、それに捉われすぎずに、しれっと会場に来て、しれっと終えることができたらいちばん嬉しいかもしれません(笑)
手拍子と声出しですか?登録メンバーに入ったならば、最後まで自分の仕事として必要だと思いますし、周りの選手たちに伝えられる情報はどんどん発信していきたいです。ただ、『自分はどうやってプレーしていたっけ…』と思うくらいゲームから離れすぎているので、いざ出られるとなっても緊張するはず。それでも最低限の自分の役目は果たしたいですね!!」
公式戦は残り2試合。登録メンバーに入るかはわからない。これまでと同じようにベンチアウトの可能性だってありうるだろう。けれども、願わくば。たとえどんな立場であっても、最後の最後まで堀江にはあの掛け声とともに手拍子をしてもらいたいと思う。
それが恋焦がれた“炎の鉄人”たちの一員だった、何よりの証明になるのだから。
※本文中のカッコ内はいずれも2025-26シーズン時点の肩書きおよび所属先




