ビーチバレーボール国内トップカテゴリーツアーの「ジャパンビーチバレーボールツアー2026」が5月下旬からスタートし、男子では水町泰杜/黒澤孝太(ともにトヨタ自動車)ペアが第1戦名古屋大会、第2戦グランドスラム グランフロント大阪大会を制して開幕2連勝を飾った。
今年9月に開催予定の「第20回アジア競技大会(2026/愛知・名古屋)」の日本代表にも内定している水町/黒澤ペア。その強さの一つには2人の決定力の高さが挙げられる。同年代をリードするアタッカーとして腕をならせてきた水町の攻撃力は大同生命SVリーグを戦うウルフドッグス名古屋でもお馴染み、黒澤も明治大学時代には高さとパワーを生かしたアタックで関東大学リーグのベストスコアラーに輝いた実績を持つ。
プレーの場を砂の上に移しても、2人のアタックの決定力は健在。両者がツーアタックを仕掛けることもあれば、水町がフェイクセットで黒澤にフィニッシュを託す場面もある。息ぴったりの攻撃は日頃の練習の賜物かと思いきや、その実、「打ちたいのであれば打つし、トスを上げるのであれば上げる。とくにサインとかはなく、その場の2人のノリでやっています」とは水町の言葉。そんな自由度の高さも、このペアの強さをかたちづくっている。

2人は昨年からペアを組んでいた。水町はビーチバレー挑戦2年目、黒澤は大学でインドアに注力するなか、春先から7月の「FISUワールドユニバーシティゲームズ2025(ライン-ルール)」に最大照準を合わせて活動することに。本番では白星が遠く、最終19位で大会を終えたものの、帰国後の「ビーチバレージャパン第39回全日本ビーチバレーボール選手権大会」で準優勝に輝き、ペアの持つポテンシャルの高さを印象づける。果たして今年に入ってからジャパンツアーで開幕2連勝を飾ったわけだが、そこで見られた変化が黒澤の“切り替える”力だった。
ビーチバレーボールはコートの上で2人だけでプレーする競技であり、片方の選手がミスをすれば、そのカバーをもう片方の選手が負うことになる。1つのプレーにかかる責任は、6人制のインドアとはまた違った重みを伴う。
振り返れば黒澤は昨年のユニバーシティゲームズで相手チームにサーブで狙われ、なかなかうまく返球できない場面が続いた。そこでは己のふがいなさを嘆き、大会2戦目の試合後には「実力不足です」と涙をこぼす姿も見られた。

今年に入ってからも、試合ではサーブが集中し、ときにはエースを奪われることも。けれども、次のプレーで黒澤は必ずといっていいほど得点を決めている。例えば6月6日の第2戦グランドスラム グランフロント大阪大会、準々決勝の第1セット。18-13の場面で黒澤はフローターサーブを処理できず、失点を喫した。
「1つ前のプレーで同じような軌道のショートサーブを打たれていたんです。そのイメージがあったので、相手がサーブを打ったときに1歩前に出たことで、ボールを待てずに体の上で触ってしまい処理できませんでした」
そう冷静に分析していた黒澤は、続くプレーでライト方面から鋭いアタックを放ち、サイドアウトを奪ってみせる。ミスを引きずることなくプレーできている理由をこのように語った。
「大学時代も自分がアタックミスをしたときに、セッターの近藤蘭丸(東京グレートベアーズ)が絶対にもう一回、トスを上げてきていたので。そうやって気持ちを切り替え“させられていた”部分はありましたから(笑)、その積み重ねが今につながっているのかなと思います」
その姿勢に共感を示したのは他の誰でもない、ペアを組む水町だ。
「(黒澤は)大学時代に得点王に輝いたこともありますし、エースとしてプレーしてきたわけですから、得点することに関して心配はしていません。僕もどちらかといえばスロースターターなので、気持ちはわかりますし、調子が上がっていくまでの時間をペアの僕がつなげられれば、どうにかなると考えています」
そう口にしたのは、準々決勝の試合後のミックスゾーン。水町は黒澤を横目に「この場を借りて、ミスをしても『心配しなくていいよ』と伝えたいと思います」と言うのであった。

その水町にとって黒澤は、ビーチバレーに本格的に取り組んでから初めて中長期的にペアを組んだ日本人選手である。ビーチバレーのキャリアは黒澤の方が一日の長があるとはいえ、年齢は水町のほうが2つ上。昨年のユニバーシティゲームズでは、表情に影を落としていく黒澤に対して当時、水町はこのような思いで向き合っていた。
「基本的に僕は、ときに意図的にでも明るく振る舞えるタイプですが、孝太は真面目で良くも悪くも素直と言いますか、すべての感情を自分の中に取りこもうとします。競技歴は孝太のほうが長いですが、年齢でいえば自分が年上なので、精神的な部分はサポートしたいと思っています。確かに(ユニバーシティゲームズの)2戦目のあとは表情も暗かったので、部屋にいるときにそっと『どうした?』と投げかけました。
ただ、そうした真面目な部分も孝太のよさですし、だからこそコツコツと積み上げて、今に至っているわけですから。そのよさは失くすことなく、孝太の人間性を加味しながら、いいところを引き出したいです」
今年のジャパンツアー第1戦名古屋大会の初日、5月24日の碧南ラウンド2回戦では黒澤がブロックにつかまり、さらにサーブレシーブが乱れる時間帯が生じた。そこではすかさず水町が「大丈夫、大丈夫」と声をかけていた。そうやって温かく寄り添うペアの存在を、黒澤自身も確かめながら前を向いていた。
「(水町)泰杜さんは、自分がミスをしても立ち直れると信じてくれていたと思うので。普段通りの声かけをしてもらえたからこそ、自分も気を落とすことなくプレーができました」
そこには競技レベルの向上だけでなく、精神的な成長もあるだろう。かつてドイツの地で、涙を流したときのような姿はない。
2大会連続優勝を飾った第2戦グランドスラム グランフロント大阪大会の決勝、レフェリーのジャッジにフラストレーションを覚えたであろう場面があった。その直後のプレーで水町は思いきり腕を振り抜き、結果的にはブロックシャットを浴びたものの、「100%でスイングした」ことで気持ちを切り替えた。一方の黒澤もフラストレーションを抱えたことを認めつつ、「切り替えるしかありませんし、数点取れば忘れますから。とにかく自分たちから自滅することだけはしないように、と意識していました」と語る表情は頼もしかった。
この先はアジア競技大会がペアとして定める今年最後のゴールとなる。そこに至るまで、いや至ってからも、難しい局面はやってくるだろう。それでも2人はペアを組むうえで、お互いを信じ、寄り添い、ときには笑うこともいとわず、力を合わせて乗り越えていくに違いない。





