[写真]=WOLFDOGS NAGOYA

 エンドラインの後方に設置された電光ボードを、リベロの渡辺俊介が飛び越える。拾い上げたボールは味方の元へつながった。だが肝心の渡辺は、コートの外から戻ってこられない。喧騒の中、スタッフや関係者が駆けつける。今年3月1日のレギュラーシーズン第15節GAME2、VC長野トライデンツとの試合でアクシデントは発生した。

 それからおよそ1ヵ月が経った3月下旬、WD名古屋のチームメートとして市川健太は渡辺の身を案じた。

 「38歳、まだまだ元気かもしれないけれど、あんま無理せんといてくれよ、ってね(笑)。こっちの心が痛むから」

 渡辺と市川といえば、いつも一緒に試合前のアップでは汗が噴き出るほどのパスを交換する間柄。渡辺がSNS上で「#市川すぐサボる」のハッシュタグで活を入れるのはお馴染みで、2人の距離感を知っているファンからすれば、この市川の言葉がジョークまじりに、けれども温かみがあるものだとわかるだろう。

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 もっとも渡辺自身は「飛び込むのはいいけれど、怪我をしちゃダメだよね、と。選手生命を縮める可能性だってあるわけだし。ただ諦めることはしたくなかった」と受け止めており、負傷をしてしまったという事実が残った。けれども渡辺の見せたガッツに市川は同じリベロとして、ただただ敬意を覚えた。

 「ほんとうに自分の体を投げ捨ててでもボールをつなぐことに執着できるのがすごい、といいますか。おそらく僕だったら、ボールを見ずにギリギリのところで最後は自分を守っていると思います。そうではなくボールを第一優先で考えられるところがすごいと感じました」

 果たして渡辺はこの試合を境に戦線から離脱する。以降は、レシーブ力に定評あるアウトサイドヒッターの山田脩造がリベロ登録されてコートに立つ場面もあったが、やはり本職である市川が守護神の役を担うことになる。シーズンでは主に渡辺がサーブレシーブを、市川がディグを担当するなど併用されてきたが、いよいよ“一枚リベロ”だ。

 振り返れば市川自身、入団してからの2シーズンは控えに回っていた。その期間、フロアを守っていたのは3度のベストリベロ賞保持者である小川智大(現・サントリーサンバーズ大阪)。小川が退団し、翌2024-25シーズンから市川に出番がやってくる。同時にチームは経験豊富な渡辺を迎え入れ、シーズン中は2人で回すことになったわけだが、市川自身は思いを募らせていた。1人でサーブレシーブもディグもこなすリベロになることに。

 だが、いざ渡辺がいなくなった今年3月以降、市川は自身も描いていなかった感情と向き合うことになる。

 「最初はリベロが1人だけという状況を自分の中で消化できませんでした。しんどかったですね、自分もそれを求めていたはずなのに。俊介さんといういつもいる存在がいなくなった中でリベロを務めることへの責任感といいますか、『俊介さんのために』と背負いすぎていました。おそらく本人はそんなことを望んでおらず、ただ気持ちよくプレーしてほしいと思っているでしょうけれど、どうしても考えすぎた部分はありました」

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 似た状況は昨季終盤にもあった。サントリーサンバーズ大阪とのチャンピオンシップセミファイナルGAME3。その試合では渡辺が相手サーブに崩される時間帯が続き、ディグリベロだった市川が最終的にサーブレシーブにも入っている。ただし市川が語るに、そのときの胸中と今年は異なった。

 「あのときはもう負けたら終わりでしたからね。むしろ気持ち的には楽でした。やるしかない、やらなきゃここで終わり、と心の持ちようを振りきることができていました。ですが今年はあの時点で10数試合がまだ残っていたので、『この期間をつながなければ』という考え方がありました。だから、いっそう責任を感じていたのかもしれません」

 今季からゲームキャプテンを務めていることも、市川の内なる重圧を増幅させたに違いない。しかし、それをはねのけたのも内なる思いだった。

 「これを乗り越えないことには自分の成長はないと思いましたし、やっぱり“一枚リベロ”は自分がいちばん望んでいたものでしたから。その気持ちに立ち返りました。試合に出て悔しい気持ちを何度も味わったり、葛藤しながらディグリベロをやっていて…。俊介さんには申し訳ないけれど、これは自分にとってチャンスであることには違いなかった。もう一度、そこだけ見ていいのかなと思いましたね。

 自分のこと、自分のプレーだけを考えて、それをチームに溶け込ませていく。そうすることで、最初は抱えていた責任感にそれほど捉われることなく、まずは自分がしっかりプレーをすればいいんだと思えるようになりました。逆に、自分にできないことはできないんです。だからこそ周りに頼るときは頼ればいいし、同時に周りから頼ってもらえる選手になりたいと考えました」

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 “一枚リベロ”とはいえ、コート上で戦うのは決して一人ではないのである。そうして自身のやるべきことにフォーカスするようになったなか、市川は新しい取り組みに踏みきった。

「そうは言っても、僕以外にリベロはいないわけですから。たとえミスしようが、いいプレーが出ようが、メンタルの波が上下しないようにしなければ、と考えました。これまでの自分はどちらかといえば、喜ぶときは走り回るし、ミスすれば内心はかなり焦るタイプ。ですが、一喜一憂していたら一試合でさえ最後までもたないな、と思いましたからね。

 そこでは練習中からあえて感情を押し殺していました。自分がミスしても、周りがミスしても、常に同じようなメンタルでプレーできるように。最初は周りからも『元気がない』と言われたんですけど、そうでしょうね、と(笑)。でも、これが自分の中ではハマりました。パフォーマンスも高まっている実感がありますし、自分にとってプラスな取り組みだったと思えます」

 レギュラーシーズンも終盤に差し掛かり、リベロ市川健太は堂々とコートに立っていた。ときには体を投げ打ってでもボールをつなぐ。相手に強烈なサービスエースをお見舞いされようとも、すぐに切り替えて次のプレーへの体勢を整える。そして周囲への声がけも。自分なりの“一枚リベロ像”を体現しようと懸命だった。市川は言う。

 「腹をくくりましたから。ここで活躍できひんかったら、もう一生無理やな。この状況で信頼を得ずに、いつ信頼を得るねん、ってね」

[写真]=WOLFDOGS NAGOYA

 さて、いよいよチャンピオンシップが幕を開ける。渡辺もレギュラーシーズン最終節では試合前にコーチとパスを交換する姿を見せるなど、復帰への機運は高まっている。市川に聞いてみた。この先、もし渡辺が万全の状態でコートに立てるようになったならば、どんな感情を覚えると想像しますか?

「自分がディグで俊介さんがサーブレシーブというこれまでのかたちに戻るのであれば、それは自分に対する監督の評価が満足のいくものではなかっただけ。反対に自分が基本的に“一枚リベロ”を務めて、俊介さんがワンポイントという起用方法になったならば、それは『この戦い方でいこう』と評価された証になるでしょうし、僕にとって成長を感じられるものになります。ですが、どちらになっても自分がやるべきことは存在すると思うので。そこにフォーカスするだけです」

 対戦相手だけでなく、チーム内の競争そして自分の内なる戦いとも向き合ってきた市川は最後に、こう付け加えることを忘れなかった。

 「もちろん、1人でいきたい気持ちはあります。むしろ、それしかないです」

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この記事を書いたのは

坂口功将

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