[写真]=広島サンダーズ

 大好きなサンダーズのユニフォームを着て、最後にコートへ立ったのは今季最後のホームゲーム。愛すべき広島で、またこの場に戻ることができた。

 度重なるケガからの復帰戦。広島サンダーズの主将、井上慎一朗は冗談交じりに振り返る。

「直前に(マネージャーの久原)大輝さんから『518日ぶりらしいよ』と言われて、うわー、そんなに給料泥棒やったんや、って(笑)。ベンチインできたのは、純粋に嬉しかったです」

 たくさん苦しんだからこそ、味わえる純粋な喜び――。

 バレー人生のラストを飾るのは絶対にこの場所。広島で終わると決めて、なかなか光が見えない時期も諦めずに、“いつか”を信じて自分のやるべきことを果たしてきた。

 だから、悔いなく終われる。

 清々しい笑顔で、井上が現役生活を振り返った。

 高松工芸高から中央大学へ。当時の同期とは、事あるごとに今も連絡を取り合っている。

「LINEのグループ名は“はずれ学年の会”なんです(笑)。いや、そうなるでしょ。上と下、とにかくえぐかったですから」

 1つ上の代には関田誠大や今村貴彦がいて、1つ下の代には石川祐希や武智洸史、大竹壱青がいる。皆が皆、学生時代から輝かしい戦績を誇るだけでなく、個性も強い。「大変だった」という学生時代を、井上は笑いながら振り返る。

「先輩はもちろんですけど、1つ下の後輩たちも入ってきてすぐ試合に出る選手たちばかりだったので、(1年生がやるべき)仕事ができていなくても、当時の4年生からは1年が怒られるのではなく僕らの代が叱られる。最初は嫌でしたよ(笑)。でもそのおかげで僕らの学年の結束力は強くなったし、いい意味で自分に相応のことは何かを考えられるようになった。夢を見なくなった、と言うと言いすぎかもしれないですけど、現実的に考えて自分が試合に出るために何をすればいいのか。それまではオポジットだったとしても、後輩が『将来を考えてオポジットをやりたい』と言うのを聞けば、じゃあ俺はミドルをやろうか、と受け入れることができた。それはサンダーズに入ってからも同じで、ポジションもそうだし、自分に求められていることは何かを考えて動けるようになった。技術だけで言えば、僕はチームの中で真ん中より上にいたことなんてないと思っているんです。でも器用ではあるし、高校、大学でいろいろなポジションを経験したおかげで、便利屋じゃないですけど足りないところに入ることができた。そういう僕のことを評価してくれる監督に出会えたことも運と縁だと思うんです」

 そしてもう1つ、学生時代からすべてのカテゴリーでキャプテンを経験してきたことも、広島THのキャプテンとして過ごした3年間には活かされた。

 チームが勝つために。時に嫌われることも厭わず、言うべきことは言う。「おとなしくて人のいい選手が多い」という広島THの中で、先輩と後輩をつなぐ井上の存在は欠かせぬ楔(くさび)でもあり、キャプテンとして過ごした3年間はいい思い出と苦しい思い出、どちらも重なる「濃い時間だった」と振り返る。

「キャプテンになって1年目の(2023-24)シーズン、Vリーグが最後の年に僕らは3位決定戦で負けて4位でした。相手は東レ(アローズ静岡)でキャプテンは(峯村)雄大。同級生で、ほんとに仲の良い仲間であるだけじゃなく、その年で雄大も東レを離れることを知っていたので、いろんな意味で僕にとっても大事な試合だった。チームとしてもアーロン(ラッセル)や江川がいて、勝てる力があるチームだったから、最後の最後で負けたのは本当に悔しかった。思い出すと悔しいことはいっぱいありますけど、一番悔しい試合はどれかと聞かれたら、あの3位決定戦は忘れられないですね」

[写真]=広島サンダーズ

 同世代や後輩たち、学生時代から切磋琢磨してきた選手もユニフォームを脱ぎ、指導者や会社員として新しいキャリアを築く中、3月31日に井上の現役引退も発表された。この2シーズンは左膝前十字靱帯損傷、左膝半月板損傷という大ケガに見舞われ手術、リハビリと苦しい日々を過ごしてきたが「何の悔いもない」という顔は清々しく、チームにとっての最終戦はチャンピオンシップのクォーターファイナルとなったが、井上の引退試合とも言うべきラストゲームはレギュラーシーズンの最終戦で、試合後にはホームゲーム最後のイベントとして今季限りでの引退、退団選手のセレモニーも行われた。復帰の場としてこれ以上ない舞台ではあっただけでなく、さまざまな意味でまた、忘れることのできない試合になった。

 チャンピオンシップへの進出は決めていても、まだ最終順位が確定したわけではない。5位になるか、6位になるか。ただチャンピオンシップへ出ればいいというわけではなく、さらにその上を目指すならば、1つでも上の順位に入りたいと考えるのは当然のこと。

 長いリハビリを経て、ようやくたどり着いた場所ではあったが、井上は嬉しさだけではなくもう1つ、異なる思いを抱いていた。

「相手(大阪ブルテオン)もガチメンで来たし、僕らもいろんなメンバーが出る中でダニ(ダニエル・マルティネス・カンポス)や柳北(悠李)が出て、めっちゃいい試合だった。このままいけば勝てるかもしれない、という展開だったので、冷静に考えた時、ここで出るのは僕じゃない、と。もしかしたら監督は僕が最後だからとベンチに入れてくれて、試合にも出そうとしてくれるのかもしれないけれど、勝ちに行くなら絶対僕じゃない。だから、3セット目に入った時、監督も悩んでいるかもしれない、と思って自分から言いに行きました」

 監督の隣に座る通訳の亀渕雅史氏にストレートに伝えた。

「亀さん、監督が迷っているなら僕を無理に出さなくていいです。僕がそう言っていると伝えて下さい」

 伝えたか、伝えなかったのかはわからない。どちらだったとしても、たとえ自分がこのままコートに立つことなく終えたとしても悔いはない。むしろまたユニフォームが着られただけでも十分だ。清々しい気持ちでただひたすらチームの勝利を信じて、ベンチから声を出す。

 そして、その時が訪れた。

 2セットを取り、2対1で迎えた第4セット中盤、19対20の場面で柳北に代わって518日ぶりにコートへ。あれほど「出たい、出たい」と望んでいたにも関わらず、名前が呼ばれ、ジャージを脱いでコートまで走る間に会場から起こった大歓声を聞いたら胸がいっぱいになった。

「あー戻ってきたんだ、と思ったら感動してしまって。そこからは、その後どうしたか、覚えていないぐらい緊張しました」

 第5セットの終盤も今度はクーパー・ロビンソンに代わってコートへ。直後のサーブレシーブは会心の一本と呼ぶには程遠かったが、コートに立ってプレーができただけでなく、ボールに触ることもできた。フルセットの末に敗れたのは悔しかったが、勝敗以上に込み上げる思いがあった。

「実際の試合でしか感じられないものなので。あの一瞬が味わえただけでも、僕は幸せでした」

 何の悔いもなくやり切った。サンダーズ愛に満ち溢れたキャプテンは、笑顔で現役選手生活の幕を閉じた。

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この記事を書いたのは

田中夕子

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