[写真]=須田康暉

バレーボール男子日本代表の守備を支える2人のリベロ、山本智大と小川智大。「世界最強のリベロが日本に2人いる」と評されるほど、ともに世界トップクラスの技術を持つ選手だ。

同じリベロとして日本代表の守護神を務めてきた2人だが、プレーの違いはどこにあるのだろうか。山本の強みは「強打を拾い、攻撃につなげるディグ力」にある。一方、小川は「サーブレシーブの安定感と、セッター経験を生かしたセットアップ技術」が強みだ。

ただし、山本のサーブレシーブが弱いわけでも、小川のディグが劣るわけではない。本記事では、山本と小川の違いに関して、ディグ・サーブレシーブ・チーム内の役割・得意プレーについて解説する。

ディグの違い|山本は止まって反応、小川は打たれる前に読む

[写真]=Volleyball World

ディグとは、相手のスパイクを受けるレシーブのことだ。リベロにとって重要な技術であり、山本と小川はどちらも世界水準の力を持っている。ただし、ディグへのアプローチには違いがある。

山本のディグは、反応速度とポジション取りの鋭さが際立つ。味方のブロックが相手スパイクのコースを限定し、空いたコースに山本が入る。実は素早くポジション取りをして、体の動きを止めてから、手だけ反応するのが山本の特徴だ。

山本のディグを見ると、軽くボールを上げているように見える。動きを止めて力まずに待っていることが、強打への反応につながっている。

小川のディグも世界レベルだ。相手スパイカーのフォームやトスの位置を確認して、打たれるコースを予測する。相手がボールに触れる前の情報を守備に生かすのだ。実際に小川自身は、相手の表情やしぐさから心理状態を読み、相手が何をしようとしているのかを考えると話している。

また得た情報は自分だけで持たず、周囲へ伝える。コート内で絶えず声をかけ、場所を指さして位置取りの指示を味方に送っていた。

2025年のネーションズリーグでは、ベストディガーランキング3位にランクインした。体の使い方も特徴的で、山本が脱力で吸収するタイプなら、小川は瞬発力で飛びつくタイプだ。打たれる瞬間に止まり強打へ反応する山本。相手の狙いを読み、ポジションを変えてボール拾う小川。

同じ1本を拾った場面でも、ボールが打たれた瞬間、打たれる前の準備を見ると違いがわかりやすい。

サーブレシーブの違い|山本は来たボールを安定的に返球、小川は動いて正面で受ける

[写真]=須田康暉※2025年7月20日撮影

サーブレシーブは、相手サーブを受けて攻撃につなげるプレーだ。サーブレシーブが乱れると、セッターがネット際でトスを上げられず攻撃の選択肢が減るため、攻撃の土台となるプレーである。

山本は正面ではないところに来たサーブでも、腕をセッターに向けて面を作り、安定してサーブレシーブができる強みがある。打たれてからボールが来る位置に素早く移動して、上半身を動かさずにレシーブすることで、コート外へボールが弾かれたりネットを超えたりするリスクをおさえている。

一方、サーブレシーブの安定感は小川の強みだ。実際にSVリーグではサーブレシーブ賞を3回受賞しており、2020-21シーズンには、成功率で日本記録を樹立した。

小川のサーブレシーブは、「正面で受ける」場面が多い。なぜなら、相手サーバーのトスの位置や得意なコースなどをもとに、サーブが落ちてくるコースを打つ前に予測し、落下地点にスッと入る。体勢が崩れないため、返球の質が安定する。

山本のサーブレシーブも安定しているが、小川と比較すると、正面から外れたボールにも面を作って対応する場面が目立つ。これは山本がポジショニングを優先しているためでもあり、必ずしもサーブレシーブ技術が劣るという意味ではない。リベロの役割として、何を優先するかの違いが表れている部分だ。

つなぎの技術|山本はコート外のボールをつなぐ、小川はセッター並みの正確な2段トス

[写真]=須田康暉

リベロの仕事は、レシーブだけではない。乱れたボールをコートに残したり攻撃に持っていく「つなぎ」の質が、チームの攻撃力に直結する。

山本はコート外に弾かれたボールへの反応と、追いつくスピードが速くボールを落とさない。ブロックに当たってコート外に弾かれたボール、1本目に味方がコート外に弾いたボール、どんなボールにでも食らいつくプレーが印象的だ。

さらに攻撃につなげる2本目の質が高い。味方がコート外に弾いたボールを追いかけ、遠い位置からでもスパイカーが打てる位置まで持っていけるのだ。ただ相手に返して攻撃されるのと、味方が攻撃して1点を取るのでは試合展開が大きく変わってくる。取られるはずだった1点を、自チームの1点に変えられる力が山本にはあるのだ。

小川はセッター並みのジャンプトスで、2段トスを上げられる。セッターが1本目を処理したり、レシーブが乱れてセッターが走らされたりすると、小川が2段トスを上げて攻撃につなげるシーンがある。多くのリベロはアンダーでトスを上げるが、小川はジャンプトスで上げる。さらにサイドだけでなく、クイックにも上げられる技術があるのだ。

実は小川にはセッター経験がある。セッター並みの質の高いオーバーハンドトスを上げられるのは、「どこに上げればスパイカーが一番打ちやすいか」を考えているからだろう。またアウトサイドヒッター経験もあるため、攻撃側の視点を理解していることも大きい。

コート外のボールの処理を得意とする山本、2段トスを上げる状況でジャンプトスで正確に上げたり、ときにはクイックに上げたりできる小川。レシーブだけでなく、2本目のプレーでもそれぞれ特徴が異なる。

日本代表での立ち位置|「ダブル智大」の役割

[写真]=須田康暉

日本代表では、山本と小川が試合展開に応じて使い分けられている。2024年のパリオリンピックでは登録枠が12名に制限されており、リベロは1名しか選出できなかった。激しい選考の末に山本が選ばれ、小川はサポートメンバーとしてチームに帯同した。

「東京に行けないとわかった瞬間から、ずっとパリを目標にしてきた」。小川は落選を告げられた直後、「泣きました」と明かしている。しかし小川はチームに帯同して、スタンドから見守った。フィリップ・ブラン前監督は「日本には世界一のリベロが2人いる」と評価していた。山本が選ばれたのは、パリでの戦い方においてディグの安定感を優先した結果とも考えられる。

リベロが2名登録できるネーションズリーグやアジア選手権では、山本と小川の両方が出場する。山本がディグのスペシャリストなら、小川はサーブレシーブのスペシャリスト。

山本はスパイクレシーブの場面で力を発揮し、小川はサーブレシーブの安定感でチームの攻撃の起点を作る。試合展開や相手チームの特徴に応じて、リベロを入れ替えられるのは日本代表の大きな強みだ。

山本と小川はともに「世界最強のリベロ」

本記事では、山本智大と小川智大のプレースタイルの違いを比較した。

山本は、相手が打った後に対応するタイプ。強打やワンタッチで軌道が変わったボールにも反応し攻撃につなげる。

小川は、相手が打つ前に予測して動くタイプ。サーバーやスパイカーの動作を読み、ポジションを変えてボールを上げる。2段トスではセッター並みのジャンプトスで攻撃を組み立てる。

「世界最強のリベロが日本に2人いる」と評価される山本と小川。この言葉は大げさではない。山本と小川の「ダブル智大」がいると、日本のディフェンス力は世界トップクラスだ。ボールを拾った瞬間だけでなく、その前後を見ることで、同じリベロでもタイプの違いがわかるだろう。