ネットを越えてきたボールをレシーブするのがいわゆる1本目。バレーボールは自陣で3回しかボールに触れられないため、基本的にアタックは3本目、と表現される。そのうちの2本目の大切さを、東京グレートベアーズのルーキーセッター近藤蘭丸はしっかりと胸に留めている。
今年10月18日、有明コロシアム(東京)。東京GBは開幕週をホームゲームで迎え、北海道イエロースターズとのGAME2に臨んでいた。前日に続いて先発出場を果たしたのは近藤。「昨日の開幕戦ではとても緊張したので、個人的にもうまくいかない部分が多かったです。その反省を生かして、プレーはもちろんメンタルを切り替えて臨めたのでうまく試合を進めることができました」。その言葉どおり、フルセットにもつれたGAME1から一転、この日はストレート勝ちを演出してみせた。
その試合の最中、近藤がとりわけ笑顔を浮かべた場面があった。第2セットの17-14で東京GBはリリーフサーバーとして現役大学生プレーヤーの川野琢磨を投入する。川野のサーブで始まったプレーは、トランジションアタックを最後はバルトシュ・クレクが決めきり、ブレイクに成功した。その得点が決まった直後だ。近藤は両手を広げて感情をあらわにしていた。


どこか得意げで、仲間へ向ける表情は一見すれば“ドヤ顔”。だが、真意は異なった。試合後の会見で近藤はこう振り返った。
「川野とは関係性が築けていると僕自身は感じているので、彼がリリーフで入ったときこそ自分としてはブレイクを取りたい気持ちがあります。あの場面はいいサーブを打ってくれて、切り返してクレク選手が決めてくれたことが嬉しかった。それに川野もなかなか出番が限られている中でもチャンスをもらい、そこで仕事を果たす姿に僕も力をもらいました。それが喜びとなって表れました」
トスを供給した自分自身に、ではなく、プレーをスタートさせたサーブそして最後に得点したアタック。それらに向けた、満面の笑みだったのである。ただし--。
「バルテック(クレク)とのコネクションもまだまだ結びきれていないと感じているので。彼がどう思っているかは分かりませんが、僕としては足りない。もっともっとクオリティを上げられると思っています」
コネクション。訳すれば「つながり」、さらに意訳すれば「絆」とでも表せようか。それは近藤にとってポジション柄、さらにはバレーボール選手として大事にしている要素である。
振り返れば、2025-26シーズン終盤に内定選手として東京GBに合流した。そこではさっそく出場機会を与えられたわけだが、「試合に出るとは想定していませんでした。内定とはいえ体をつくらないとシーズンを戦えないと考えていましたから」と本人。「練習の中で僕のすぐれている部分を監督さんが見てくださり、チームにフィットして試合に出られたので、とてもいい経験になりました」と振り返る。だが、プラスの経験だけではなかった。チャンピオンシップのクォーターファイナルで敗れて2025-26シーズンを終えた瞬間、近藤が覚えたのは達成感や満足感のたぐいではなく、納得にも近い感情だった。
「やりきったという感覚も、悔しさもなかったんです。というのもチャンピオンシップの前に大阪ブルテオンと練習試合をしていただいたのですが、そのときの内容といいますか、空気感がよくなかった。チーム全体のスキルだけでなく、チームとしての雰囲気などですね。もちろんトッププレーヤーですから皆さん、スキルは高いものを持っていますし、それが噛み合えば絶対にいいチームになれる。なのに、もう個々で戦っているイメージでした」
正直な告白をすれば、「負けるべくして負けた」。近藤の目にチームの姿はそう映っていたのである。ただ、手に指を咥えているわけにはいかない。内定選手であれチームに加わった以上は、その一員だ。
「周りから内定選手として気を遣われていた感じも少なからずありました。ですが僕としては気を遣わないでほしいですし、先輩ばかりであろうと、外国籍選手であろうと、自ら寄り添っていくことで信頼を得たいと考えていました」
そこにはセッターというポジションゆえの責務もある。近藤は言う。
「2本目を触ることの重大さを身にしみてわかっているので。チームがまとまっていない中でも、どれだけ自分がセッターとして仲間をつなげられるか。頑張ってはみましたが…時間が足りなかったですし、素晴らしいメンバーに囲まれている中で僕の力がまだまだだと実感しました」
そんな思いで内定シーズンを終えたからこそ、きたるルーキーイヤーつまりは2026-27シーズンに向けて近藤は信頼関係の構築に注力した。
「夏の時期は積極的にコミュニケーションをとっていました。日本人選手が多い中でもそこは意識していましたし、外国籍選手が合流するのが開幕の数週間前であっても、相手が信頼してトスを呼んでくれるように、と」

そこに手応えを感じつつ、近藤は強調する。「ただ練習でやってきたことを試合で出せなかったら、ほんとうに意味がないと思いますから。試合でプレーしながら自信をつけて、お互いのコネクションの中で磨いていくのが手っ取り早い方法です。だからこそ、いい関係性を築くことを意識しています」
北海道YS戦の、あの場面。近藤は川野のサーブそしてクレクによるフィニッシュまで、一連のプレーを“つないで”みせた。夏の時期から意識してきたことが具現化したからこそ、とびきりの笑顔が自然と生まれたのだろう。
つくづくセッターとは、2本目を担うポジションだ。トスとは、仲間どうしを結ぶコネクション、つまりは絆そのものなのである。




