エンターテイナーの真骨頂。日本で1年目のシーズンを終えたテイラー・エイブリルは、インタビューの最中も終始笑顔だった。
「日本は素晴らしい。とても平和な日本が大好きです。三島は特に自然豊かな街で、窓を開けると鳥の声が聞こえる。大好きな自然の素晴らしさはもちろん、日本でプレーすることでバレーボールファンの大切さ、エンターテイメント性を改めて見直す機会にもなった。とても素晴らしい、“パラダイス”と言うべき日々でした」
神戸でのオールスターゲームや、相手チームの始球式。ユーモア溢れる振る舞いが話題になるように、取材中もサービス精神旺盛で向けられたカメラへ視線を送るだけでなく、トレーニング中も「俺の筋肉を見てみろ」とばかりのパフォーマンスも入れ込む。常に“楽しむ”ことを貫く34歳のミドルブロッカーは、なぜ瞬時に次から次へと見る者を楽しませるアイディアが浮かぶのか。たずねると、エイブリルはいたずらっぽく笑った。
「神様が天から降ろしてくれるのかな(笑)。バレーボールを見る人は勝敗やMVPばかりを楽しみにするわけではなく、特に日本のファンは他の楽しみも見出している人たちが多い。始球式を行うのも日本だけなので、ただ立っているだけでなく、楽しみたいと思ったので東京(グレートベアーズ)戦では、僕らも負けないぐらいにタワーをつくってやろう、と(笑)。次のシーズンも同じように、もっとクリエイティブに楽しみたいね」

コートで魅せるバレーボールも同じだ。ただし、その楽しむはただの“FUN”ではなく、バレーボールを追求するからこそ生まれるものでもある、と真っすぐに言う。
「バレーボールを楽しむためには、バレーボールというものをリスペクトすること。そのためには、日々の練習をハードワークして、スキルに自信を持つこと。それができなければ、試合でもうまく行かずに負けてしまったり、悔しくて夜も眠れなくなる。そうならないためにも、瞬間、瞬間が大事なので、毎日の練習は真剣に。体育館へ入った時はバレーボールと向き合って、しっかり練習することが一番大事です」
エイブリルはアメリカオレゴン州ポートランドの出身で、プロとしてのキャリアが始まったのは大学卒業後の2015/16シーズンから。イタリア・パドヴァと契約を結び、その後もイタリア、フランス、ポーランドなど欧州各国のリーグでプレーし、アメリカ代表としてパリ五輪にも出場した選手だ。
日本でのプレーはこれが初めてで「これまでと異なるチャレンジだった」と振り返るが、さまざまな国を渡り歩いてきたからこそ見えるもの、そして得られたものがある、と語る。
「日本で外国籍選手の人数が増えたことでバレーボールのクオリティが上がるだけでなく、お互いの文化を知ることもできる。外国籍の選手にそれぞれの文化があるように、日本にも文化や習慣がある。その違いを知ること自体が素晴らしいことだし、たとえばアウェイゲームに行った時、ロッカールームをきれいにして帰る。そのこと自体にも驚かされましたが、本当に素晴らしい習慣なので、自分も自国にこの経験や習慣は持ち帰りたい。違いを理解し合うことで、お互いがよりよい方向へ進むと日本での日々が改めて感じさせてくれました」

SVリーグでプレーする選手、日本人も外国籍選手もバレーボールという共通項はあっても、これまで歩んできた過程はさまざま。受けて来たコーチングも違うし、そこから生まれる発想も違う。だがそのすべてを「同じ人間なので違いはない」と言うように、試合時も練習でチームメイトや対戦相手の選手とも積極的にコミュニケーションを図る。エイブリルの振る舞いは、まさに違いを感じさせないものではあるが、それでも苦しんだのが「言葉の壁だった」と明かす。
「日本語は本当に難しいし、一番のチャレンジでした。私は日本語が話せないけれど、毎日会う仲間たちは日本語を話す。彼らのジョークをすぐにはわからなかったり、大変だと感じることはたくさんありました」
とはいえ持ち前の明るさで、周囲の選手も巻き込んでいく。半年以上に及んだアローズでの生活を経て、お気に入りの日本語もある、と笑顔で披露した。
「“メッチャアリガトウゴザイマス”、これは私がとても好きな言葉です。コーチ陣も選手も英語を覚えて、理解して話そうとしてくれているし、バレーボールという共通言語もあるのでコミュニケーションが取れる。(武田)大周のようにしょっちゅう話しかけてくれる選手がいるおかげで、いろいろな日本語を覚えることができました」
オフの日には遠出して、山中湖や西湖で温泉やサウナ、「カリフォルニアの本場に近い絶品」と称賛するメキシコ料理を楽しんだり、湘南海岸をドライブして大磯へ行き、海を見てから箱根の温泉に寄ってから帰る。リラックスすることで「バランスよく過ごせた」と笑うが、自然の景色や温泉だけでなく、SVリーグになって各国の外国籍選手が増えたことで、来日した1人の選手としても多くのものが得られた、と言う。
「アメリカ代表で一緒にプレーする(マット)アンダーソン(日本製鉄堺ブレイザーズ)やTJ(トリー・デファルコ、ジェイテクトSTINGS愛知)、彼らとの対戦は自分のレベルを高めてくれるいい機会になっているし、広島(サンダーズ)のハビ(ハビエル・ウェベル監督)はUSAのコーチであり、世界でベストコーチの1人。僕も彼にバレーボール選手としての人生を変えられた1人だし、みんなが彼のことを素晴らしいと思っていて、実際に広島もチャンピオンシップに進出させました。よく知る彼らに日本で会えること、顔が見られること自体も素晴らしいことですが、日本に来てから(アントワーヌ)ブリザール(大阪ブルテオン)ともこれまで以上に個人的なつながりができて、試合後にコーヒーを飲みに行くようになった。こういうつながりは、ヨーロッパではあまりないことで、日本にいる外国籍選手という共通点があったからこそできたものでもありました」

日本でのプレーを経て、新たな違いや文化に触れる。エイブリルが「学びを得た」というように、彼が常に楽しそうで、自分だけでなく周りを楽しませようとする姿勢も、日本にとっては大きな学びになる。特に育成年代とされる10代や20代前半の学生たちは、先生でもある監督からの指示は絶対で、エイブリルのように「何をしてもいい」とは真逆の「やってはいけない」という悪しき伝統や習慣に縛られる。近年、特に男子は広い世界へと視野が向けられてきているが、全体を見ればまだまだ。日本の若い世代や指導者に何を望み、求めるか。そう尋ねると、エイブリルの言葉が熱を帯びた。
「まず思うことは、日本のコーチにはもっといろいろな経験をしてほしいし、子どもたちもいろいろなコーチの指導を受ける経験をしてほしい。日本のスポーツ文化は総じて素晴らしいと思うし、リスペクトしているけれど、でも時折わからないこと、おかしいと感じることもあります。それは指導者だけでなく親も同じで、日本では『スポーツをしないのなら勉強をしなさい』としつけることもあると聞きましたが、自分に言わせれば、そういう形で親が子どもの生きるコースを決めてしまうのはどうなのか。もっともっと外を見せてあげたほうがいいし、許容範囲を広げてほしい。日本の考え方、指導方法は海外からもリスペクトされていますが、それでも中にはよくない面もある。だからこそ、指導者はヨーロッパや北米、さまざまな国の練習や指導法を学ぶべきだし、親もそう。もっと自由に、広げてあげることが必要です。三島には多くの高校や大学があります。そしてバレーボール部の子たちとも接するし、よくコンビニでも彼らと会うことがありますが、いつ会っても彼らは私に対しても笑顔で、いい子たちばかり。彼らがこの先もハッピーになってほしいから、指導者や親にはもっと広い視野を持ってほしいと願っています」
お茶目な表情とは一転し、真面目に、熱く次世代を担う若者たちの未来を描く。そしてエイブリルにも描く未来の夢がある。2年後に自国のロサンゼルスで開催されるオリンピックだ。
「オリンピックに出たくないアスリートなどいません。それぐらい、誰にとっても素晴らしいものです。初めてオリンピックに出た時の経験は素晴らしく、得難いもので、その大会がロスで行われるのは本当に嬉しいこと。その場に立てるように、メンバーに選ばれて世界最高の舞台でプレーして、金メダルを目指すために、もっともっと頑張ります。メッチャ、アリガトウゴザイマシタ。See you!」
最高の場所で、誰よりもバレーボールを楽しむ。稀代のエンターテイナーがこの先どんな姿を見せるのか。来季はどんな日本語を覚えるのか。まだまだ、楽しみはこの先へとつながっていく。




