[写真]=田中夕子

 プレスルームの長机にテーブルクロスがかけられ、お皿のうえにおにぎりやサンドイッチが並ぶ。セミファイナルの試合前、大阪ブルテオンからの差し入れだった。海外での取材時にはプレスルーム内に軽食が並ぶことや、昨年のフィリピンでの世界選手権ではサーブしてくれるスタッフもいるケータリングが用意されていたこともるが、日本ではほとんどない。大げさではなく、取材陣から感嘆の声が上がった粋な心遣い。

 仕掛け人は、大阪ブルテオンで広報を担う山本拓矢氏だ。

 いただく側は無料だが、用意する側は当然費用もかかる。それでも山本氏は「以前からずっとやりたいと思っていた」と笑顔で明かす。

「SVリーグも2シーズン目を迎えて、本当はホームでの開幕戦からお菓子や飲料だけでなく、おにぎりとか弁当とか、食事も用意しようと思っていたんです。でもなかなか実現に至らなかった。セミファイナルは1会場で2試合行われるので、それならばメディアの方々もたくさん来るだろうと思ったので、ここで出そう、と決めて会社に交渉しました」

 スパム玉子やわかめとじゃこ、明太子などさまざまな具材が入ったおにぎりと、サバカレーやタコスミートといったサンドイッチがそれぞれ3種類ずつ。報道陣から大好評だった食べものを提供したのは、大阪ブルテオンのパートナーで、ホームのパナソニックアリーナがある枚方公園の隣駅、枚方市駅の枚方T-SITEにある「AuRA」。カフェバーとして営業しているため、普段からおにぎりやサンドイッチを販売しているわけではないが、依頼を受ければ特別にケータリングも対応している。セミファイナルではブルテオンバージョンとして、1つ1つ個別に包装されたパッケージには、クラブのマスコットのパピネスのシールも貼られていた。

[写真]=田中夕子

 観戦帰りのファンはもちろん、選手も利用することが多く、ホームゲームでも選手とコラボメニューを販売しているが、今回のメニュー選びにも実は選手が一役買っている。両日並んだスパム玉子のおにぎりは、沖縄出身の仲本賢優選手からの「自分が幼い頃から食べて来た慣れ親しんだ味を食べてほしい」という助言も受け、工夫を凝らした。スパムと玉子の間に本州ではツナが入っていることが多いが、沖縄使用の肉みそを入れた。大阪Bが決勝進出を決めた2日目は、並べられると同時になくなった大人気メニューだった。

 報道陣の胃袋が満たされるのはもちろん、クラブパートナーであるカフェの宣伝にもなる。いいことづくめではあるが、前述の通り、食べるほうは無料でも用意する側は費用もかかる。「予算は5万円」と設定し、AuRAの協力も得て、報道陣からは大好評だったが、限られた予算の中でなぜこのような取り組みを実行しようとしたのか。背景には、かつて選手としてプレーした山本氏ならではの視点があった。

「僕が選手の頃はバレーボールの人気はこれほど高くなかった。満員のお客さんが来てくれる中でプレーする、取材にたくさんの方が来てくれるなんてありえないことでした。SVリーグになって、バレーボールが人気スポーツと言われるようになったことは本当にありがたいことですが、その状況にあぐらをかいているだけではいつまで続くかわからない。お客さんもメディアの方々も、来てくれるのが当たり前ではなく、僕の中では常に、来て下さってありがとうございます、という思いがベースにあるので、何か形として示せないか。できることをやろう、と考えて、取材の合間に食べるものを提供出来れば、と。最初は自分たちで買ってきて並べようかと思ったのですが、せっかくならパートナーさんに協力していただきたいと相談したところ快諾してくれた。並べ方もお店ならではのこだわりを披露していただいて、僕たちも勉強になりました」

 高松工芸高、中央大学を経て2011年に大阪Bの前身、パナソニックパンサーズへ入団。リベロとしてプレーした後14年に現役を引退、マネージャーを経て広報を担当、日頃からさまざまな取材が殺到する中でも時間をやりくりして応じてくれる。メディアにとっては大げさではなく神様のような存在なのだが、山本氏はかつてある記者から投げかけられた言葉が、今でも胸に刺さっていると明かす。

「『メディアの中でバレーボールの需要はありません』と言われたんです。紙面をつくるうえで、野球、サッカー、バスケットボール、プロスポーツの需要はあるけれど、アマチュアのバレーボールに需要はない、と。その状況からどうすれば取り上げてもらえるのか。どうしたら人気スポーツになるのか、ということを考えて、まずはメディアの方々に取り上げてもらえる、また来たいと思われるチームになるところからやらなければならない、という危機感に突き動かされてきました」

 すべてのホームゲーム時には軽食や飲料だけでなく、来場者に配るクラブグッズも「ご自由にどうぞ」と机に並ぶ。それも、大阪ブルテオンを1人でも多くの人に知ってほしい、という気持ちの表れでもある。

「たとえばお子さんやご家族のいる記者の方に持って帰っていただいて、『今日の取材現場でこんなのもらったよ』と話題になれば嬉しい。どんなきっかけであれ、マーケティング担当者が観客のニーズに応えて『またブルテオンの試合が見たい』と思ってもらえるように動くのと同じ。広報担当者は、メディアの方が『またブルテオンを取材したい』と思っていただけるように。特別なことではなく、当たり前のことをしているだけです」

 レギュラーシーズン1、2位の両雄が対決し、名勝負を繰り広げた決勝戦も多くの観客が詰めかけただけでなく、多くの報道陣も訪れ、劇的な勝利で大阪ブルテオンが頂点に立った。それから3日後の20日に開催されたファン感謝デーも、今季限りで現役を引退する清水邦広、池城浩太朗の引退セレモニーが行われたこともあり、多くの報道陣が詰めかけた。

 来季もまた、多くの注目が集まる中で選手たちはSVリーグの舞台に立ち、その姿を広く伝えてほしい、と広報担当者も力を尽くす。プロフェッショナルに恥じぬよう、記事を書く1人として、襟を正して取材に臨み、伝えたい。

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この記事を書いたのは

田中夕子

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