[写真]=米虫紀子

「めっちゃ楽しかったです!」

 1万211人が詰めかけたSVリーグ・チャンピオンシップファイナルの第1戦後、大阪ブルテオンのリベロ・山本智大は、敗戦後とは思えないとびきりの笑顔で答えた。

 選手入場の際に、右手で左胸をドンとたたく仕草をしていたため、普段は緊張知らずの山本でも緊張しているのだろうかと思ったが、見当違いだった。

「あれは気合いを入れるために(笑)。緊張はしないですね。楽しみだったし、早く試合がしたかった。今日は負けたんですけど、明日もフレッシュな姿でプレーできれば」

 山本が最後に緊張したのは、2024年パリ五輪の初戦・ドイツ戦で、それ以来、緊張したことがないというから驚かされる。

「パリの初戦は寝られないぐらい緊張しましたけど、今日は余裕でした。程よく緊張したいんですけど、なかなか難しいです(苦笑)」

[写真]=Getty Images

 自信と経験値があるから、プレッシャーを感じることはあっても、硬くなって自分のプレーができないという状態にはならないし、周りが負の空気になった時も巻き込まれることがない。だから山本はどんな舞台でも自分のパフォーマンスを発揮でき、何よりバレーを楽しんでいるということが、観る者に伝わってくる。そして自分が楽しむだけでなく、チームをポジティブな方向に引っ張る役割も果たしている。

 そんな山本をこの2年、学ぶため、盗むために誰よりも観察してきた大阪Bのリベロ・池城浩太朗は、ファイナルの前日、こう語っていた。

「トモさん(山本)は、プレーが上手なのはもちろんなんですけど、それ以外の雰囲気作りだったり、そういうところもすごい。ずっとニヤニヤ……じゃなくてニコニコ笑顔でやっていて、『フォー!』とか言いながら走り回ったりしますけど、締めるところはちゃんと締めるんです」

 大学まではアウトサイドヒッターとしてプレーし、大阪Bに入団後リベロに転向した池城にとって、世界を代表するリベロである山本はこれ以上ないお手本だった。毎日その姿を凝視するうち、プレーだけでなく、振る舞いやメンタリティの非凡さを痛感した。

「コミュニケーションの取り方や、マインドセットの部分もプロフェッショナルで、そういうところがすごく尊敬できるし、学ぶべきものだと感じています。チームをポジティブな方向に持っていくための、声の掛け方やタイミング、言葉。たとえばチームがいつも通りじゃない時や、会話が少なくなっている場面で、タイムアウト明けに真っ先にコートに入ってみんなを迎えたり、みんなをコートの真ん中に集めたり。そういうことって、できそうでなかなかできない。自分のプレーもしっかりやりながらですから。それほど自分に自信があって、余裕もあるからだと思います」

 どんなに優れたリベロでも、ミスをしたり、サービスエースを奪われることもある。そこでいかに引きずることなくリセットできるか。その面でも山本は鉄壁だという。

「僕がリベロに転向して思ったのは、やっぱりリベロは点を取れない分、リズムを作りにくい部分がある。1本失点してしまった時に、スパイカーだったら自分で点を取って気持ちを立て直せるんですけど、リベロはそれができないので切り替えが難しく、僕もその部分でめちゃくちゃ苦労しました。でもトモさんはそういう時のマインドもすごい。どんな時もポジティブなものを出し続けるって難しくて、それができる人は少ないと思うんですけど」

 そう語った池城は、実はファイナルの前に現役引退を決断していた。チームから契約を更新しないことを告げられ、移籍して選手生活を続ける道も考えたが、悩んだ末、指導者になる道を選んだ。今後は大阪BのU18で梅川大介監督のもとコーチを務める。

「いろんな人が『まだできるでしょ』とか『移籍して続けたほうがいいよ』と言ってくださったんですけど、僕が希望するようなチームとご縁がなかったというのもありますし、いずれは指導者になりたいという思いはもともとあったので、そのキャリアを始めるのは早ければ早いほどいいんじゃないかと。この年齢(24歳)だからこそ何かできるんじゃないかとなと思って、その道に進むことにしました」

 他の選手たちに告げるかどうか迷ったが、山本にはファイナル前に、伝えた。

「ファイナルがあるので言わない予定だったんですけど、いろんな話をする中で来季の話になったりするので、言っちゃったほうが楽だなと思ったし、自分の言葉で伝えたいという気持ちもあったので、『引退します』と伝えました。『え?マジ?』って驚いていましたね。でもそれ以上の深い話はしていません。このチームはそういうところもすごくて。人のことを思うんですけど、学生とは違って、プロ意識がすごく高い集団だから、それぞれに責任ややるべきことがあって、各々がそれを追求している。トモさんもあれだけ世界で戦ってきた人だから、何があっても自分のメンタルやコンディションをぶらさない。プロだな、と改めて勉強になりましたし、言ってよかったなと思いました」

 ファイナルの3試合を通して、山本のディグは的確な位置どりで、どんな強打も体に当たればコート上にあがる。ファイナル第2戦は第2セット中盤までの劣勢を跳ね返し、フルセットの末に逆転で勝利すると、第3戦は、疲労の濃いサントリーサンバーズ大阪の攻撃に対し、大阪Bのブロックディフェンスが完璧に機能した。サントリーのドミトリー・ムセルスキーや髙橋藍が渾身の力で打ち抜いたスパイクも、山本が「待ってました」と言わんばかりの会心のディグで拾い、相手を追い詰めていく。大阪Bはセットカウント3-0で勝利し、山本は初のリーグ優勝を果たした。

「相手も疲れているだろうという見込みがあったので、ブロックの上から来るというよりは、タッチボールで球の勢いが弱まったり、フェイントとかが増えると想定しながらやっていた。その中でいいディフェンスがあったし、そこからのこちらの決定率が非常に高かった」と山本は第3戦のあと振り返った。

[写真]=兼子愼一郎

「トモさん、すごかったです。『マジですげー!』って見ていました」と池城は興奮混じりに振り返る。

「試合後、僕が最後というのもあって試合を頑張れた、というふうに言ってくれたので、嬉しかった。『泣きすぎやろ!』って突っ込まれましたけど(苦笑)。

 ファイナルを見ていると、『うわー、まだやりたいな』という思いは湧いてきましたけど、選手として日本一を獲るという経験をできる、そのチームにいること自体、価値があることだし、しかも最後のシーズンに、本当に恵まれているなと。これからは、今回優勝したメンバー以上の子達を見つけて育成することが新しい任務になる。清水(邦広)さんもよく言っているように、日本のバレー界が盛り上がるための土台になる仕事だと思っているので、今の日本代表のトップ以上の選手を育てていかないと。バレーボールに携われることが一番の幸せなので、それは本当にありがたいと思っています」

 これからもコート上で躍動し続ける山本と、指導者としてスタートする池城。道は違えど、ともに味わった“日本一”は、間違いなく2人の今後の糧となる。

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この記事を書いたのは

米虫紀子

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